第24話 match(3)

街中にも関わらず容赦なく襲い掛かってくる刺客たちを退け、目標の地点に到着したアニマたち。


「ここです」


「おお…」


そこはおあつらえ向きに戦いやすそうな空き地であった。


かつては工場か何かがあったのだろう、酷く劣化した壁のみがあちこちに残っている。


「…誘っているな」


「あ~でも…オレがいると出てこねぇんじゃね?

オレを仕留めそこなって逃げるようなザコだぜ、2対1じゃビビッちまって…」


「いえ、ここにいますよ」


声。


「…へえ、やっと喋ったな」


例の赤い仮面騎士がそこにいた。

加工が掛かっているものの、背丈から想像していたそれよりかなり幼い。


「…ほう。逃げずに待っていたとは感心だ、魎」


「あなた方に追われては逃げ切るなんて無理でしょう。

観念しましたよ」


騎士は突然光を放ち始め、少ししてその輝きは粒になって散った。


「それが素顔かい。…あれ?お前どっかで…?」


そこにいたのは、どう高めに見積もっても中学3年生といった年頃の少年。


「お久しぶりです、お父さん。それと…アニマさんでしたか」


この少年は封魔魎。封魔怨勒の息子の1人であり、かつてアニマたちによって始末された中で、唯一の生き残りであった。


「えっと…て事は、鎧野郎の正体はお前なの?

おかしいな、背丈が全然違うぞ」


「先ほどは突然襲撃してすみません。

任務だったので」


不敵に笑う少年に、あの日の無様の影はない。


「そうか、それじゃ悪い事しちまったかな。

自信失くしちまっただろ?」


アニマの挑発にも動じず、穏やかに笑って流しつつ父親に語り掛ける。


「僕はね、お父さん。復讐をするんだ。

我が子を切り捨てて組織を取ったあなたにね」


「なるほど、子供らしい理屈だ。

いい加減弁えろ…身から出た錆、因果応報とは思わんのか?

お前ら自身の愚かさのもたらした当然の結果だと」


魎は笑って首を振る。


「違う、違うんだよお父さん。

『復讐する』という事自体が重要なんだ。

もっと言えば、『復讐を誓って改造人間になる』という行為がね」


2人の少し後方で見守っていたアニマには何の事だかさっぱり理解できなかったが、父子の間ではそれで充分だったようだ。


「フ…やはり血は争えんな。

ならさっさと始めろ、お前の復讐とやらをな。

…恐れ入りますが、この戦いだけは私に任せていただきたい」


アニマは両手を挙げてヘラヘラと頷く。


「OKOK、親子同士の戦いとなれば部外者の出る幕はないね!

ここで黙って大人しく観戦しとくよ」


「感謝の至り」


と謙虚に感謝してみせるが、怨勒はこの狂人を信じてはいなかった。


(約束したと言っても、いつ反故にされるか分からん。

なにしろこの女は、決着は早々に付けねばな)


そして背負った刀を抜き放つ。


「あれ?そういや例の鎧は?

あの赤くてかっちょいいやつ、着ないの?」


『黙ってる』と言ったそばから茶々を入れるアニマ。


「ええ、装着し直しますよ…よいしょっと」


ちょうどへその辺りに付いた機械をカチャカチャと弄り始める。


「なんだそりゃ…ベルトのバックルか?デカくね?」


「ベルト…まさにそうですよ、アニマさん!」


「お…おう」


なぜか興奮している魎に、アニマはちょっと引いた。


そして気圧されたのが悔しかったので、煽ってみる。


「プッ、まるでオモチャだなァ!ほら、ヒーロー物のさ」


「オモチャ…そう、そうなんですよアニマさん!!」


なぜか更に興奮した。


アニマは思わずキョトンとなる。


「あの…馬鹿にしたんだけどな、一応」


「ええ、分かっていますよ。

ですが正解、これは玩具…みたいなものです。僕にとっては」


更にもう1つ、電池のようなサイズのカプセルを取り出して、上部のスイッチを押す。


Stagスタッグ!』


何らかの異世界言語が英語に翻訳されてアニマの耳に届く。


「…?」


魎は続けて、その電池のような物体をベルトのスロットに挿入した。


『Stag!approveアプローヴ…』


すると数秒でループする短い音楽が流れ始める。


それを聞いた怨勒が力強く頷く。


「…スタイリッシュな待機音、さすがは我が息子だ。

玩具はカッコよくないと子供に売れないからな!」


「なんで売る必要があるんだよ!

…ていうかオイ、何かこのベルト見たことある気がするんだけど!

オモチャがどうとか言ってたし、これひょっとして…」


変身ヒーロー。それはいつの時代も子供を魅了する。

まあアニマは幼い頃の記憶を忘れ去っているので、特に思い入れはないが。


「まさかお前、『変身』しようとしてる?そのベルトで?

……この状況おかしいと思ってるのオレだけ?」


「実は私が忍者として生きる事を決めたのも、幼い頃見た特撮の影響です」


「ああ、そうなの…いやそれはどうでもいいけど…」


「息子のヒーローごっこに付き合うのも親の仕事ですよ」


「はあ…」


完全に呆然としているアニマをよそに、魎がベルト右脇のスイッチを押し込んで叫ぶ。


「変身ッ!」『ChangeチェンジOVERオーバー-DRIVEドライブ!』


「言った!アイツ変身って言っちゃったよ!」


「アニマ殿。変身中はお静かに。

音声が聞こえませんからね」


「……!」


言われて思わず黙ってしまうが、その事を気にする余裕もない。


(どうりでヒーローみたいな恰好だと思ったぜ、まさか本当にヒーローのつもりだったとは……キモすぎだろ!

いや、オタクってそういうもんなのか!?)


アニマは生前冴えない男子高校生だったが、別にオタクではなかった。


そのため、改造人間になってまでヒーローの真似をする魎の気持ちも理解できない。


何かに夢中になるという事は、ある意味『狂気』であるということを知らない。


もちろん改造の影響で精神が壊れかけているのもあるが、その根底にはかつて手放した『ヒーローになりたい』という願望があった。


(自分の肉体も、復讐心すらも『ごっこ遊び』の材料にするのか!

このガキも大概イカレてんじゃねえか!

…それに付き合う『お父さん』もよ!)


ベルトから赤い機械クワガタが飛び出し、魎の周囲を旋回、赤い残光で姿を覆い隠す。


そしてペタリと顔面に張り付くと同時に、残光が鎧に変わって全身に纏いつく。


最後に機械クワガタが変形して兜となり、変身シークエンスの完了である。


「……あ?やっぱりおかしいなコレ?

だって背丈が変身前と全然違う…」


「おやめくださいアニマ殿、演者さんとスーツアクターさんが違うのです。

そこには突っ込んではいけませぬ」


「それはドラマの話でしょうが!

…まあ現実的に考えりゃ、肉体が変化したって事か?

にしてもここまでガッツリ変化したら、肉体に負担がかかりそうだが…」


考えているアニマを無視して、親子は互いに迎え合って構える。


「出でよ、『DXオーバーブレイド』!」


魎…赤い仮面の騎士が手をかざすと、アニマと戦った時の刀が召喚された。


「お父さん!実験部隊があなたに切り捨てられて以降…生き残りのスタッフはヨトゥンという方に拾われたんです」


「ヨトゥン…やはりヤツの小細工か」


「だからそもそもは、アニマさんへの刺客としてここに送られたんですよ。

あなたがしつこく追ってくるので、相手してあげますけど」


「…フ、よく言う!本当は私にその変身を見せたかったのだろう!?

オタクの気持ちを、私が理解できないとでも思ったか!」


そこは『息子の気持ち』じゃないのか?と思うアニマだったが、黙った。


「お前の技…お父さんに見せてみろ!」


そして先手を打って斬りかかる。


「もちろんですお父さん。

何しろ僕は『復讐を誓った改造人間』ですから」


怨勒の斬撃を躱しながら背後を取る。


「残念、後ろです。

そしていきなりですが、さようならお父さん」


そして常人とは比べ物にならない速度の突きを放つ。


「…未熟者がッ!」


怨勒の姿が揺らめいて消える。幻術である。


「そう易々と背後を取らせるつもりはないぞ!」


ドロンという音と白煙と共に虚空から出現、魎に一太刀叩き込む。


赤い装甲が、血の代わりに火花を噴いた。


「…ッ!さすがお父さん!

これはいきなり必殺技を使わざるを得ませんね」


「お~必殺技あんのか~!やれやれ~!」


ツッコむ事を諦めたアニマが囃し立てる中で、魎はベルトのスイッチを2度押し込む。


ボタンは大げさなエフェクト音を鳴らした後、必殺技の発動を宣言した。


FINALファイナル-OVERオーバーDEMOLITIONデモリッションDRIVEドライブ!』


怨勒の追撃を躱すように加速し、周囲を縦横無尽に移動。


「なるほど、必殺技の派手さも充分…ぐおおおッ!?」


いきなり赤い光を纏った斬撃に襲われ、咄嗟に弾く。


だがその威力は、到底ただの人間に耐えきれるものではない。


刀身がへし折れ、怨勒自身も車に撥ねられたかのように吹き飛んだ。


「はははッ!さすがだねお父さん!

砕けたのが武器だけで済んだのは、ひとえにあなたの技術あってのものだ!」


「ほざくなッ…小僧め!」


怨勒の姿が空中でブレて、4つに分かれる。


「夢幻分身…『おぼろ』!」


そして魎を囲むような位置に着地した。


「幻術ですか…お父さんの得意技でしたね、そういえば」


「そうだ…避け切れるかッ!」


4人で周りを囲んだまま走り回り、手裏剣を嵐の如く浴びせ掛ける!


「くっ…一見凄まじい密度の攻撃だけど、4人の内3人は幻。

威力も量もたかが知れている、躱すまでもないよ!」


命中するたび装甲は火花を上げるが、有効打と言うほどでもなさそうだ。


「まあいいさ、お父さんも色々見たいだろうから、見せてあげるよ。

フォームチェンジをね」


「待ってましたッ!…じゃなくて、見せてみろお前の力を!」


ベルトに装填していた赤いカプセルを取り出して、青いものと取り換えた。


DragonflyドラゴンフライChangeチェンジOVERオーバー-HEATヒート!』


鎧の形状が大きく変わり、恐らくトンボを基にした青い姿に変わった。


「ふむ!虫モチーフか!子供人気を得る王道だな!悪くない!」


手裏剣を投げつけながらレビュー!


「ありがとう、お父さん。

これからもっと気に入ってもらえると思うよ…はァッ!!」


青い炎が全身から放たれ、幻影ごと怨勒を吹き飛ばす。


「グッ…なかなかいいぞ!

炎もまた王道だが、少し外して『青い炎』というのがいい!

男の子の心を絶妙にくすぐる……待て、『青い炎』だと?

まさか…この能力は…」


「おや、心当たりがあるとは驚いた。そうだよお父さん。

この変身システムは、僕の遺伝子から力を引き出すことで、血縁関係にある者の術を使えるようにするんだよ」


青い炎といえば、歌藤断蔵。


封魔一族の先祖であり、『血の繋がった人間の能力を使える』という恐るべき力の持ち主である。


「まさか、テクノロジーでヤツの術を模倣するとは…!」


「遊んでもいられなくなったんじゃない?お父さん」


炎による面制圧的攻撃は、幻術で相手するには相性の悪すぎる相手だ。


「確かにな。もっとお前の趣味を見たかったが…終わらせるか」


折れた刀を地面と水平に構え、上体を沈める。


その姿が歪み始めて…


「何をするかは知らないけれど、幻ごとかき消してあげるよ!」


炎の波が怨勒を呑み込む。


「アッハハハ!ダメじゃないか、こんなすぐに死んだら!

お父さんは言わば僕の宿敵なんだよ?

せめてしぶとく逃げ回ってくれなきゃ…あ?」


炎が消えたそこに、怨勒の姿は無い。


「ハッ、だから幻は無駄なんだって!」


剣を振るうと、青い炎が魎を囲んだ。


「こうして周りを炎で囲むだけで、お父さんは僕に近づけな…ウグッ!?」


また鮮血代わりの火花が散る。


鼻がぶつかりそうなほどの近距離に、怨勒の姿が出現した。


「既に間合いに入ってた訳か…けどバカだなぁお父さん!

この炎の渦の中で、生身のお父さんがいつまで我慢していられるかな!」


「なら焼け死ぬ前に殺せばよい!」


繰り出される剣技を、魎は必死で受け流すも捌ききれずに浅く斬られる。


「クッ、速い!?」


「まだまだ青いな、息子よ!」


折れた刀がハンデにならないほど、親子の間には天と地ほどの技量の差があった。


「魔法科学の粋を集めたこの身体が、生身の人間に圧倒されるなんて…!」


そこまで言って、我に返る。


「い、いや今のセリフは無しだ。まるで僕が悪役じゃないか!」


炎の壁を消し、距離を取る。


「おい、我慢比べはもう終わりか?私は焼けておらんぞ」


「だったらコイツを喰らえよ!」


必殺の一撃である!


『FINAL-OVER!DEMOLITIONデモリッション HEATヒート!』


蒼炎の斬撃を大量に飛ばす!


「当たるか馬鹿者が!」


再び姿が消える。


「幻術で逃げたつもりかい?どうせ僕の背後だろッ!」


魎は振り向きながら剣を振るう…が、そこに怨勒は現れない。


「安易な判断だな!」


怨勒は消えたその場にまた出現し、胸板を横一文字に切り裂いた!


「ぐあああッ!

わ、わざと躱さなかったのかっ…生身で無茶な真似を…!」


倒れた魎を、怨勒の不気味な能面が見下ろした。


「どうした息子よ…これで終わりか?」


「いいや…まだフォームはある!」


黄色のアイテムをベルトに装填する。


Butterflyバタフライ!Change!OVERオーバー-TECHテック!』


黄色い重装甲形態へと変化した。


「遥か昔に、カラクリを自分の肉体と融合させた忍びがいたそうだよ!

これはその力を再現したものだ!

…と言ってもお父さんならとっくに知ってたかな?」


両腕の装甲が展開、ガトリング砲が現れる。


両肩には大砲、背中からはミサイル。


「いきなりフルバーストでいくよ!」


『FINAL-OVER!DEMOLITIONデモリッション TECHNOLOGYテクノロジー!』


無慈悲な宣告と共に、その全てが一斉に怨勒へ向かって放たれる!


「おいおい、フォームチェンジして即必殺技とは風情がないな!」


幻術を纏った歩法で、息子の下へと一直線に進む。


あらゆる兵器はロックオンを解除され、怨勒を掠めて逸れていく。


「クソッ、当たらない…!クソックソッ!」


「お前も未熟だな、ヒーローの嗜みが分かっておらぬわ!」


魎は首筋を深く斬られ、今日一番の大きな火花が爆ぜた。


「うわああああーッ!」


重装甲が功を奏したか、まだ戦闘は続行可能だった。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


よろめきながらも立ち上がる。


「…おかしいな、予定じゃ生身のお父さんなんてもう3度は殺してるハズなんだけど」


「データを盲信するとはヒーローにあるまじき行為だな」


「今のヒーローはこうなんですよ、年寄りは黙っててください…!」


黒光りする不穏なアイテムを取り出す。


Centipedeセンチピード…!』


電子音声が、禍々しく告げる。


「あなた相手にコレを使わされるとは思っていませんでしたよ…!」


『Centipede!Change!OVERオーバー-KILLキル!』


すると足元から大きな機械ムカデが複数湧き出し、身体に巻き付いた。


無数の脚が装甲を貫き、皮膚の下まで入り込んでいく。


「ぐッ…うがあああああッ!!うああああああッ!!!」


絶叫の中でムカデが変形し、ドス黒く武骨な装甲へと姿を変える。


ヒーローらしからぬ、戦闘兵器然とした威容。


「…暴走フォームというヤツか、最近は多いらしいな!

だがやり過ぎても食傷気味にならんか?

まあ男はこういうの大好きだからやりがちだが…」


「おい、おっさん!言ってる場合じゃなさそうだぜ!」


久しぶりにアニマがヤジを入れたのは、その佇まいに脅威を感じたからだ。


「……」


魎が無言で手を伸ばすと、ムカデ型の鞭が手首から生えてくる。


「なるほど、確かにこれは剣呑だ!」


軽く振るわれた鞭が地面を赤熱させつつ砕いたのを、見逃す怨勒ではない。


「熱を放つ鞭か!外連味があってなかなか良い武器だな!

どうした、せっかく父が評してやっているのだ、何か言わぬか!」


「……」


無言である。


「全くつまらん奴だ、興を削ぎおって!」


怨勒が先に仕掛ける。


魎が正確無比な鞭の一撃で応じるが、ドロンの音と共に怨勒の姿は消失!


「……」


魎の肉体を動かす殺人システムが、合理的に殺害の手順を組み立てていく。


その結果、鞭を回転させて全身を包み込むという手に出た。


こうすれば、炎で防御した時のように懐に入ることもできない。


「…チッ」


怨勒は離れた地点に出現した。接近を諦めたのだ。


魎はノールックで鞭を放つ。


「そんな手抜きの攻撃なぞ当たらぬわ!」


怨勒は飛び上がってこれを回避する…が、しかし!


鞭は突然軌道を変え、怨勒を追尾する!


「何ッ…」


折れた刀で防ぐが焼き切られ、ついに足首に巻き付く。


「がああッ!」


熱が怨勒を責め苛み、抵抗すらままならず地面に叩きつけられる。


ずるり、ずるりと鞭が縮んで魎の方へと引きずられて行く。


「くッ硬い!切れぬ…ぐあああ!」


熱に耐えながら鞭をクナイで切断しようとするが、到底切り離せそうにない。


かといってクナイで足首を切り落とすというのも難しい。


そしてとうとう、眼前まで接近した。


「おのれッ!」


手のクナイを投げつける。


火花すら散らず、胸板に弾き返された。


魎は何も言わずにベルトのボタンを2回押し込む。


『FINAL-OVER!DEMOLITIONデモリッション KILLキル!』


「うおおおッ…これはッ…」


怨勒の足元から機械ムカデたちが現れて、身体を拘束した。


まるで磔刑のごとく縛り付けられて動けない。


「…所詮、ヒーローごっこも最後まで全うできない未熟者か。

いいさ、早く殺せ」


「……」


魎が赤熱していく右手を後方に引き、腰を大きく捻る。


「あらら、死んだなこりゃ」


アニマが冷酷に呟く。


「……!」


無言の気合とともに叩き込まれた炎拳は、拘束ごと怨勒の腹部を貫いた。


「がッ…はァ…あ…」


拳が引き抜かれると同時に、力無く倒れ込む。


その手足は、拘束していたムカデの熱によって黒焦げて炭化していた。


父の無残な姿を見下ろしてなお、魎は一言も発さない。


拍手が響く。


「はい、親殺しおめでとう!

と言ってもまあ、意識は無いのかな?」


アニマが立ち上がり、手をこまねいた。


「オレを殺しに来たんだろ?ホラ、お仕事がんばんなきゃ」


「……」


魎は必殺技のために収納していた鞭を再び展開させる。

そしてアニマを見据え、ジッと動かない。


「何黙ってンだよ、オラ来いよ!

それともこっちから…」


『警察だ、全員動くなァ!!』


それはあまりにも唐突な声だった。


そちらを見ると、ずらりと並ぶパトカーの前でメガホンを握る男が立っていた。


「やべっ、どうやって嗅ぎ付けたんだあのデカ!?」


空港の騒ぎで指揮を執っていた、ムスペール警察のエルッキ警部であった。


『そこの2人、動くなよ!

銃火器と魔法弓兵が狙っているからな!』


「んだよ邪魔しやがって…お前らが派手にやったせいで目立っちまったじゃねえか!

…場所変えっぞ」


アニマはパトカーと反対の方向へ、いきなりトップスピードで疾走した。


『撃てーッ!』


躊躇なき命令!警官隊の制圧射撃!


鉛玉に混じって聖なる光の矢が飛んでくる!


矢を素手で掴むと、指がドロドロ溶け始めた。


(銃弾はまあいい。この矢が怖ぇな)


冷えた思考回路で分析しつつ、煽るのも忘れない。


「よォ父親殺しのスーパーヒーロー!

ついてきな、ビビッてねえならなァ!」


そして走り去る。


取り残された魎は、鞭で銃撃を弾きつつアニマを追う。


「…警部、逃げられました」


「当たってたよな、銃弾?」


「矢だって命中してましたよ」


警部は頭を抱えながら指示する。


「はぁ~っ…すぐに追うぞ!」


「はい!」


車に乗り込み、嘆息した。


「さっきも街中に血まみれの女がいるだの通報があったし…。

最近は訳の分からん事件が多すぎるぞ!」


〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.118【覆面ニンジャー】

アマツガルドの有名な特撮ヒーローシリーズ。

初代は妻子を殺された忍びの復讐劇という暗い内容だったが、

時代に合わせてヒーロー物にスライドしていった。

子供たちに愛と勇気を伝えるだけでなく、敵討ちの手順や

切腹する時のマナーなど生活に役立つ知識も教えてくれる。

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