第24話 match(4)

ムスペールの都市を駆け抜ける、2つの風。


白と黒の疾風が通り過ぎた後は、恐慌する市民だけが残された。


「うああああっ何だぁ!?」


「はぐれ魔物か!?」


「ダンジョンから逃げ出した怪物に違いない!

警察は何をやってるんだ!」


警察車両が二色の疾風の後を追うが、街中ではスピードが出せない。


『え~市民の皆さん!

未確認の危険人物が現在市内を逃走しております!

危ないので屋内に避難してくださ~い!』


市民に注意を呼び掛けるので精一杯だ。


「…へっ、危険人物だとよ。

オレらすっかり街の人気者だなァ?」


「……」


白い風・アニマが邪悪に笑い、黒い風・封魔ふうまりょうが無言をもって応える。


(急に恥ずかしがり屋になった…って訳じゃなさそうだな。

まあどうせ自動操縦とかそんなんだろうが)


アニマが植木鉢を殺人的威力で投擲すると、魎はムカデを模したヒート鞭で弾いた。


両者とも、疾走速度にわずかの緩みもない!


「ヒャハハハッ、やるねぇ!」


「…!」


反撃とばかり、鞭で足元を払う。


「ヒャオ!」


アニマはそれでも止まらず、奇声を上げながらジャンプ回避した。


鞭が民家の外壁を破壊し、住民が悲鳴を上げる。


「ヒッヒヒヒ!やっべえ、街中で暴れんの超楽しい!」


はしゃいでいたアニマだが、レルムの執事の言葉を思い出す。


(坊ちゃまは森に潜伏しておいでです。

街中だと目立ってしまうので…)


「オレの方が目立ってるから隠れなくていいよって電話してやるか!」


走りながら尻ポケットをまさぐり、スマホを取り出す。


魎がその隙をついて鞭を繰り出す。


「今電話中!静かに!」


スマホを耳に当てて、悠々と鞭を躱しながら、全速力で走り続ける。


「おい邪魔すんなっつーの…うおッ!?」


アニマの手首に鞭が巻き付く。


「熱っつ!……全然出ねぇな電話ァ!」


ちょうどこの時レルムは幻術結界に囚われ、通信が不可能な状況であった。


「クソッ…せっかく人が気使ってんのに!

あいてて、引っ張んなよ!」


魎は無言で鞭を収縮させ、アニマを引き寄せようとする。


「力比べのつもりかァ?邪魔なんだよオラァ!!」


「……ッ!」


倍以上の力でアニマに引っ張り返され、走行姿勢を崩された。


鞭を分離させて逃れようとするが、わずかに遅い。


「死ねクソガキッ!」


そのままアニマの裏拳を顔面に喰らって吹き飛ぶ。


「……!!」


魎は空中で高速回転して勢いを殺し、向かいの民家の壁に着地、そのまま壁を走る!


「うおっ!?急に忍者っぽい事しやがって!

じゃあこっちも手裏剣だ!シュッシュ!」


走りながら瓦礫を拾い、水平の構えで再び投げつける。


まるで子供の遊びだが、アニマが投げれば殺人級の攻撃だ。


「……」


だが魎は突然消えた。


「えっ…」


反応しきれないアニマの首に、後方から足を巻き付ける。

ダッシュの勢いをいきなり止められたので、喉がメキメキと音を立てて締まる。


「グゲッ!?

は…背後だとっ…このガキ…!」


気道を激しく圧迫されながらも、かろうじて見上げる。


魎は街灯に鞭を巻き付けて急停止した後、そのままぶら下がった状態でアニマの首を足で締め上げているのだ。


アニマはまるで首吊り死体のような状態で、足が地面に付かないので体重が全て首に掛かる。


「や…やるじゃないの…最初から自動操縦で良かったんじゃない…?」


現在魎の自我は封印され、システムが肉体を動かしている状態だ。


黒い仮面に覆われ、その表情は伺い知れない。


「だって正気のお前じゃ生身の父親すら殺せなかったもんな!

お前みたいなザコにはオートプレイがお似合い…うぐげッ!」


締め上げが更に強力になった。


あまりに今更な心配を呟きつつ、首に巻き付く足を掴む。


「足癖悪ぃ奴だな…こんないけない足には、お仕置きしねえとなァ…!」


掴む指に力を籠める。


「…ハァアアアア」


堅固なハズの装甲が、みしりと悲鳴を上げた。


「アアアアアアアア!!」


両足が取り返しのつかない破壊音と共に曲がっていく。


「……!?」


戦闘システムが、予想外の事態に緊急用データを参照し始める。


だが兵器として、絞める力を緩める訳にはいかなかった。


その合理的基準に基づいた判断が、被害を拡大した。


「……!??」


「っしゃ折ったぞォオオオオ!」


アニマの悪夢じみた腕力による負荷は、ついに左足を破砕!


状況判断によってアニマを蹴り飛ばすが、もう遅い。


「ゲッホ!…あ~頭がクラクラすんぜ。

おや、どしたァ?足震えてっぞ、疲れたんかァ?」


魎の左足は装甲もろともへし折られ、右足も立てないほど傷ついている。


「……!」


鞭を射出。直線的なので難なく躱す。背後の壁へ突き刺さる。


「当たるかよ、ザコの悪あがきはみっともねぇなァ!」


しかし戦闘システムに『悪あがき』などという選択肢はない。


「うおッ……」


刺さった鞭を巻き上げて高速接近。


足に依らない移動手段を早くも確立していた。


「鞭なら足を使わず動けるってか?

ヒーロー気取りのバカガキと違って賢いねぇ!

…まあ、とは言っても」


回避しうつ、すれ違いざまに膝蹴りを打ち込む。


「所詮は機械の浅知恵だがなァ!」


蹴りの威力で、肉体を牽引していた鞭が千切れた。


姿勢制御プログラムに異常が生じ、両足とも機能停止した。


「……ッ」


文字通りムカデのように、地面を這うしかない。


「ほ~れ、あんよが上手!あんよが上手!」


アニマは周囲を走り回りながら煽る。


「……」


「アレレ?怒っちゃった?

だったらホラ、死に物狂いでかかってこ…きゃあっ!?」


アニマが魎に近づいた瞬間、全身から鞭が放出!


家の壁や石畳などあちこちに突き刺さり、マリオネットのように無理やり立ち上がる。


「ぶっひゃひゃひゃ…マジかお前!」


アニマは嘲笑を浮かべながら、ギリギリの状態で立つ魎に近づいていく。


「いや、ていうか…それは無理あんじゃね?

ほら、こうやって近づいても逃げらんねーじゃん。バカか?」


FINALファイナル-OVERオーバーDEMOLITIONデモリッション KILLキル!』


ベルトが、荒い電子音声でそう告げた。


「あっ」


魎は……否、戦闘システムはこの時を待っていたのだ。


「クソッ、狙ってやがったな!

う、うおおおおおっ!?」


足元から湧いてくる機械ムカデを振り払い、あるいは引きちぎる。


だが破壊すればするほど湧き出して、アニマの四肢にすがりつく。


熱と鉄針がアニマの筋肉を破壊し抵抗力を奪う。


「で、どうすんだよ…そのザマじゃパンチも撃てねぇだろ!

どうやってオレにトドメを刺すつもりだ…あがッ!?」


赤熱した両手でアニマの顔面を掴み、熱を送り込む。


「ぅあちちちっ!ちょ…シャレになんねーぞクソが!」


同時に強烈な握力で顔面を破壊し、脳を黒焦げにしようという算段だ。


(やっべ!結構ピンチか?これ。

いやまあ、殺されるならそれはそれでいいんだけど)


彼にとっては、生きるも死ぬも根本的にどうでもいい事でしかない。


が、妙な確信が胸の内にあった。


(……なんか死ねねえ気がすんだよなぁ)


アニマは、試しに抵抗をやめてみた。


ムカデたちがより深く入り込んで、主要な臓器まで焼き尽くしていく。


「ぐごッぐげえッ…」


頭蓋骨が熱され、脳に温度が伝わり始める。


「どうしたァ、もっとやれよ!

さっさとトドメを刺せ、でないと…」


視界の端に、迫りくるパトカー群が映った。


「テメェがグズグズやってっから、追い付いてきちまったじゃねえかよ」


警官隊は威嚇なしで銃撃!


暴走ヒーローの黒い装甲は、銃弾ごときではびくともしない。


そのままアニマの処刑を続行しようとしたが…


「…ッ!」


魔法弓兵の放った光矢が肩を貫いた。これは看過できぬダメージであった。


続いて脇腹に突き刺さり、ダメージ部の装甲が激しく爆ぜる。


このままトドメを続けるか一時撤退するか、0.01秒の逡巡。


「……!」


肉体を支える鞭を解除すると、前のめりに倒れ込む。


そして両手から鞭を再度射出し、ワイヤーアクションめいて逃走した。


主が逃げたため、ムカデの拘束も解ける。


「あ~あ…ったく、もうちょっとで死ねたのによ。

都合の良いラッキーもあったもんだな」


アニマは低い声で嘆きつつ、警察に呼びかける。


「刑事さんたちよォ!わざわざ来てもらったところ申し訳ないんだけどさ、帰ってくんないか…なァ!」


瓦礫を拾い、大きく振りかぶって投げつけた。


「ぐわあっ!?」


カタパルト射出を思わせるような超速度で、弓兵に命中して吹き飛ばした。


一瞬だけ警官隊に動揺が走り、その隙にアニマは全力疾走で逃げ出した。


(こりゃ、予定は中止かな?

こんだけ目立つともうどうしようもないしな)


そもそもこのムスペールに来た理由は、竜であるヨトゥンを殺すための武器や情報を得るためであった。


(…まあ、んなアイテムなんて無くても勝てるか!)


これほどの手間と苦労をしておいて、それを容易にかなぐり捨てるのが彼女の異常性である。


(さて、どこに逃げたもんか…あれ?

よく考えたら、もうこの国にいる理由なくね?

…よし、空港に戻ろう!)


突発的な自殺衝動は去ったので、全力で逃走する事にした。


「じゃあなお前ら!」


彼女が本気で全力疾走すれば、そこには熱と風が生まれ、全てを抉り取って塵に変える。


車ごときには追い付けるハズもない。


「な、なんじゃあの速さ…」


「うむ…肉体強化魔法…では、ないよな」


「はい、魔法の反応は無しです」


凄まじい速度で消えていくアニマの背を見送りながら、警官たちは立ち尽くすほかない。


「ダンジョンには知性ある怪物も多く棲んでいると聞くが…まさかな。

一応、冒険者ギルドに問い合わせろ」


「…さすがに魔物の類ではないと思いますよ。

念のため聞いておきますけど」


警部は眉間をもみほぐし、噛みしめた歯の隙間から溜め息を吐き出す。


「そうか、そうだよな。そりゃそうだ。

…おい、ヨール!怪我はないか!?」


投石に吹き飛ばされた弓兵に声をかける。


「ええ、なんとかッ……ってえな畜生!

ひでえもんだ、見てくださいよコレ!」


ひしゃげた兜を掲げた。

ただの兜ではない、魔法によって強化された特殊な合金製である。


「石ころぶつけてこの威力か。とことんバケモンだな。

あ、そうだティモ、イーゼルネン公爵の件については調べたか?」


「ええ。本人の行方と同時に、来訪の目的を追ってる所です…あ。

すみません、ちょっと着信が…」


ティモと呼ばれた部下がしばらく通話し、驚き、切った。


「あ、あの警部。ちょうどその件について調べがつきまして。

イーゼルネンのご子息は、ニーベルンゲン社に用があったらしいです。

社長から、『公爵の息子とアポを取っていた』との証言が」


「ニーベルンゲン?あの洗剤の?…何故だ」


「さあ、そこまでは聞いていなかったと。

しかし何しろVIPなので、邪険にする訳にもいかず受け入れたそうです」


警部、しばし沈思黙考する。


「洗剤…は関係ないか?さすがに」


「でもニーベルンゲン社で洗剤以外となると…あれスか、ドラゴンスレイヤー?

確か創業一族って、その血筋でしたよね?」


「やはりそうなる…か。しかしアレも相当に昔の話だろう。

今更何の目的で…いや。今更じゃないとしたら」


「ど、どういう事です?」


「ニーベルンゲン社の創業一族はあのファヴニスベイン家だが、今となっては竜狩りの面影はほとんどない。

何しろまあ、ウン百年も昔の話だからな。

しかしその時から残り続けているものもあるだろ?」


「ええ?ドラゴンの時代から残るものなんて…遺跡くらいでしょ?

後は…あ。遺物!竜狩りジークフリートの遺した物がいくらでもある!」


警部が指差し、頷く。


「それだ。確かニーベルンゲン社は『ジークフリート記念館』をやってたろ。

ファヴニスベイン家の蔵には、少なくとも記念館を建てられるくらいのアイテムが眠ってるって事だ」


「となると…公爵の子息はそれが目的で?

あれですかね、骨董品の蒐集とか」


「ありえるな。だが断定するには早い。

今から社長に詳しい話を聞きに行くぞ!」


「今からっスかぁ?ちょっ…アポ取っときます!」








(いや~忘れてたわ。

そうだそうだ、空港は封鎖されてるに決まってるわな)


アニマは森を歩きながら、ヘラヘラ笑う。


空港に戻ったはいいものの、当然ながら当局によって封鎖されていた。


アニマは滑走路に面した森の方から空港に侵入しようとして、それからあてもなく1時間以上歩き続けている。


(もういいや。今日はここで寝っか…そんでまた明日レルムに連絡取ろう。

それでも出なきゃ…勝手に帰っちゃお)


そんな事を考えながら歩いていると、木々の間隔が狭くなり緑が濃くなっているのを感じた。


(あれ…空港どころか森の奥に入ってる?

あっ、ひょっとしてオレ迷ってる?)


森の中をあてもなく歩いていたら、迷うに決まっている。


(まあいいや。面白そうだし、もっと奥まで進んじゃお)


彼女の質が悪い所は、過ちに気付いても決して後悔しないことだ。


(ん?なんだありゃあ…小屋か?

こんな所に…?)


失敗をケロッと忘れて更に奥へと進んでいくと、突如としてみすぼらしい小屋が現れた。


見るからに薄っぺらな木板で出来た、物置めいたごく小さな家屋である。


(人は住んでねぇ…よな。これは流石に)


アニマやレルムのような強靭な肉体を持たぬ常人では、こんな小屋で生活など出来ぬだろう。


(あるいは、常人ではない…か)


ドアノブに手を掛けて、気付く。


(あれ?この鍵…結構しっかりしてんな。

…それにこの壁、木じゃない…?

硬い!ひょっとしてコンクリか何かか?)


見かけからは想像できぬほど強固で頑丈なセキュリティに、秘密の匂いを感じざるを得ない。


「なんだこりゃ…おもしれぇ。おじゃましまァす!」


錠を粉砕破壊して扉を開けると、中は見かけ通りの狭い空間だった。


壁に掛かったボロボロのロングコートや穴の開いたバケツ以外、これといって目ぼしい物は無い。


それだけに、床の中央にある四角いハッチが目立つ。


「トイレ…じゃないよな」


これまた躊躇無く腕力で解錠してハッチを開くと、地下へと繋がる階段が伸びていた。


小屋の外観からは想像できないほど長い階段である。


「いいじゃんいいじゃん…隠し通路とか好きなんだよオレ」


アニマは突然現れた謎に心を奪われ、勢いよく階段を下りる。


レルムへの連絡はもう完全に忘れていた。


(…お)


一歩踏み降りてみて分かったが、その階段は金属製でガッチリと組まれており、想像していた軋みもない。


(埃も被ってねぇし、結構新しいのか?)


それから何段か下った後、ふと思い出したように飛び降りた。


かなりの衝撃だが、床はびくともしない。


しかしアニマの関心はもはやそこになかった。


「思ったより、広いな…!」


天井で電灯が揺らめく。


倉庫めいた大空間の左右に並ぶのは、背の高い本棚。


その奥に作業机があり、座っていた男がアニマの着地音に振り向いた。


「よォ、ここどこ?何してんのお前?」


「…!」








「ええ、記念館以外にジークフリートの遺物はないと思います。

少なくとも価値のあるようなものは多分…無いハズですが」


ニーベルンゲン社、社長室。


警部たちがそこを訪ねると、先に来て聞き込みをしていた部下たちが待っていた。


アポを取ったのは彼らだった。


警部は社長の顔を見るなり『ある事』を質問した。


すなわち、『ジークフリート記念館に未収蔵の遺物はあるか?』と。


「なるほど…多分、というのは?」


「少なくとも、公開している物品は全て記念館に収蔵しています。

もちろんそれ以外の遺物もありますが、存在を公表していません。

しかし、あるかどうか分からない物のためにわざわざこの国まで来るとは思えませんが…」


「あるんですね?収蔵されていない遺物が?」


警部が強く迫る。


「え、ええ…まあ。しかし、一族以外は知らないんですよ!?」


「秘密はどこから漏れるか分かりません。

あるいは知らないとしても、何かあることを期待して来たのかもしれません。

話してください」


社長は眉をひそめてしばらく俯いたが、やがてしぶしぶ語り始めた。


「…私には、身体の弱い兄がいまして。

両親は強く育ってほしいと願い、先祖にあやかって『ジークフリート』と名付けたのです」


警部が口を挟もうとするのを、片手を突き出して止める。


「どうか最後までお聞きください。

それでまあ、結局成長しても病弱さは改善されなかったのですが…。


しかしその代わり、兄は自分の名の元になったジークフリートという英雄に強い関心を抱くようになりました。


私は、兄に好きな事をやらせてやるのが何よりの養生になると思い、専用の研究室とジークフリートについての膨大な資料を与えたのです」


「…つまり、あなたのお兄さんがジークフリートの資料をお持ちだと?」


「そうです。

…まさかイーゼルネン公爵のご子息はそれが目的で来たとでも言いたいんです?」


「その可能性はあるかと」


「ありえませんよ。その時には既に両親が死んでいたので、この事を知っているのは私と兄だけのハズ…」


「そうかもしれませんが、年のためお伺いしておきたいのですが。

お兄さんは今どちらに?」


社長は、再び渋面を作った。


「…先程も申し上げましたが、兄は身体が弱いのです。

どうか負担を掛けないように気を付けていただきたい」


「もちろんです」


神妙に首肯した警部に、社長は羊皮紙めいた薄茶色の紙を手渡した。


「これは…仕掛け印刷…?」


社長がその表面を撫でると、地図が浮かび上がる。


「これは…あの空港滑走路の近くにある森!?

な、なぜ森の中で…?」


「人目に付かない場所が良いかと思いまして。

飛行機の騒音も、地下までは届きませんし」


「地下、ですか…この光る点の位置の地下ですね?」


社長が肯定し、地図の点に触れる。


すると空中にみすぼらしい小屋が立体的に投影された。


「こういうボロ小屋に偽装してあります。

この地図はそのまま鍵として使えるので、お持ちください」


差し出された地図を折り畳み、懐にしまう。


「承知しました、ご協力感謝いたします。

…お前ら、署に戻るぞ。戻ったらすぐこの小屋行く準備だ、いいな!」


「はい!」


「では社長、我々はこれで」


社ビルを背にして森へと向かう警部に、部下が問う。


「あの…白髪の女の件はどうしましょう」


「あの女は化け物だぞ。半端な武装じゃ歯が立たないだろ!

今はとりあえずこっちの調べを進めよう」


「ビョルト署長が怒りますよ~『中途半端なまま放置するな』って」


「あの女の映像は撮っただろ。アレを見せれば署長も理解するさ。

とにかく今は、空港近くの森へ行くぞ!

地図に描かれている小屋を見つけ、社長の弟に接触するんだ」


「ウス!」


その森には白髪の女…アニマがいる。

奇しくも地図に描かれた小屋に、アニマもまた辿り着いている。

という事は、彼女が出会った謎の男はもしや……


この続きは、次のセクションで語ろう。


〈つづく〉

どうしようもない名鑑No.119【ディートリッヒ・ファヴニスベイン】

ニーベルンゲン社の現社長であり、歴史研究家であるジークフリートの弟。

病弱で他者とのコミュニケーションが苦手な兄を案じており、何かにつけて

支援しているため、兄弟関係は良好。

趣味は魔法画であり、立体的に浮かび上がる絵を得意とする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る