第50話 北辰一刀流奥義
「聖演武祭は古流に有利なルール設定で、権威や門下生を調整するために話し合いで優勝者を決めておくという茶番なのでス」
「最近は北辰一刀流が全国に支部道場を建設しているため、門下生を増やすために北辰一刀流から優勝者を出すようになっていますガ、数年も経てば他流派から再び優勝者が出るでしょウ」
「でも、僕は父さんからもそんな話一言も……」
「ソウタの流派は古流連盟に所属していないマイナーな流派ゆえ、知らされていなかったようですネ。でも連盟に所属しているメジャーな流派の師範は知っているはずですヨ。心当たりはありませんカ?」
決勝前に僕に浴びせられた、村八分のような冷たい視線。
北辰一刀流が勝つことがすでに確定済みのような、あの言い方。
「でも、八百長と言ってもどうやって? 大人の部ならともかく、高校生を八百長に参加させるのは難しいんじゃ」
「その方法までは吐きませんでしたガ。今は北辰一刀流の娘が名実ともに最強なので、八百長の必要もないのかも知れませン。本来はアナタに北辰一刀流を打ち破ってほしかったのですガ…… 北辰一刀流は実力のみで勝ったわけですカ」
アレクシアが初めて、僕を侮蔑するような視線を向ける。
「後もう一息だったのニ、あんな醜態ヲ……」
「でも、ならなんで言ってくれなかったの」
「信じましたカ? 自分の憧れの舞台と信じ切っている場所を侮辱され、受け止められましたカ?」
僕は何も言い返せなかった。
聖演武祭に出られるというだけで、浮かれ切っていた自分が今は醜く思える。
「ううん、柳生くんは悪くないよ」
中島さんはアレクシアの青い瞳を黒い瞳で真っ向から見て、否定する。
そばに置かれたノートパソコンのキーボードを、並の剣客以上の速度で叩きながら。
「アヤ、下手に庇うのはよしなさイ。負けは負けでス。八百長を肯定するような輩に、正々堂々実力で負けたのですかラ」
「違う」
それは中島さんらしからぬ、強い意志と否定の言葉。
「……何が違うのでス」
アレクシアは頬を片方だけ歪ませた。
「多分柳生くんが負けたのはマヨイガのせい」
「どういうことでス」
「決勝前、マヨイガを調整するときに見た変な計算式、覚えてる限りだけどパソコンに打ち込んで、詳しく調べてみた」
ディスプレイに躍る、見ているだけで目が痛くなるような文字の羅列。そのうちの数か所を指さして、彼女は言う。
「ここと、ここの計算式。マヨイガとは明らかに違う」
中島さんはゆっくりと息を吸って、真実を語る。
「多分筋肉の電気信号に働きかけ、運動神経を一時的に遮断して動かなくするもの。コードネームは『イワナガ』っていうみたい」
『イワナガの力、思い知るがいい』
僕とすれ違った師範がそう言っていたことを思い出す。
てっきり北辰一刀流の奥義かと思ったけど、そういうことだったのか。
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