第48話 不甲斐ない

 試合後の表彰式が終わる。

 葵さんは優勝旗と盛大な拍手を、僕はありがたいお言葉とそこそこの拍手を受け取って。

 優勝者のついでのようなインタビューを済ませた後、アレクシアたちのいる貴賓室奥のティールームに戻る。葵さんはまだインタビューが続いていた。

 準優勝した僕を、どう迎えてくれるだろうか。

 負けたけど敢闘はできた。アレクシアなら、両手を蝶の羽のように大きく広げて「お疲れ様でしタ」「いい試合でしたヨ」とでも言ってくれるのだろうか。

 中島さんなら? 「……頑張ったね」とそっぽを向きつつもはにかみながら答えてくれるのだろうか。

 疲れた体を引きずり、惜敗した口惜しさを噛み締めながら貴賓室の重厚なドアを開ける。

 僕を真っ先に出迎えてくれたのはアレクシアだった。

 でも想像の彼女と現実の彼女は全く違って。

 吊り上がった眦と深くしわが寄った眉間、音が出そうなほどに噛み締められた顎。

金糸の髪が空調の風で揺れ、南の海のように蒼く澄んだ瞳に陰を落とす。

 腕を大きな胸の前で組んで僕を睨みつけ、こう言った。


「不甲斐ない試合でしたネ。もう少しで勝てたのにあんな醜態ヲ」


 その言葉と表情は、今までに見たことがないような怒りに満ちて。

 僕は何が何だかわからなかった。

「さっきからずっと、こんな調子で……」

 呆然と立ち尽くして、おろおろと僕とアレクシアを交互に見る中島さんを見ると逆に落ち着いてくる。

他にいた人たちは優勝した葵さんを近くで見るためか、出払って室内には僕たち三人しかいない。

 中島さんのそばの机の上には小さめのノートパソコンが置いてあり、何かしらの作業を行っていた。

怒るのはわかる。不甲斐ない試合だと責めるのも納得できる。

でもこの感情表現は少し異常だ。

「もう少しであの北辰一刀流の連中に目にもの見せてやれたのニ」

 それからも北辰一刀流に対する怨嗟の念がこもった言葉を吐き出し続ける。

 疲労した体が重く、汗が貴賓室の磨かれた床に一滴、また一滴と落ちる。

 やがて会話が途切れたところを見計らい、僕は口をはさんだ。

「転校してきた翌日、北辰一刀流の見学に行ってきた後にも様子が変だったけど。今回のこととも何か関係が?」

「そうですヨ…… あいつらはサムライの名を穢した豚共でス」

「ソウタ、アヤ。そもそも聖演武祭が何なのか知っていますカ?」

「何なのか、って……」

「マヨイガを使って安全に、色々な流派の人が技を競い合って真のサムライを決める大会、でしょ?」

 僕と中島さんのセリフに、アレクシアは整った顔立ちをこれ見よがしに歪めた。

「この聖演武祭は、八百長試合にすぎないのでス」

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