第31話 当日

 翌日の朝になる。

 僕は道着を入れたリュックと真剣を入れた黒い居合刀ケースを背負い、アレクシアと中島さんと一緒に聖演武祭会場に到着した。

 先日見学に来た時とは違い、ここに来るまでの駅も道も大勢の人出でにぎわう。

公園には出店も置かれて大勢の人が列を作っていた。

 会場前にはマスコミが詰めかけており、様々なテレビ局の腕章をつけたカメラマンやスタッフが出場選手や観客たちにインタビューしている。垢ぬけた服装や業界人といった身なりの人ばかりだ。

「おはようございます! 本日は聖演武祭高校生の部、試合会場に来ています!」

「年に一度の大祭典! 海外からも多くの方が身に来られる、チケットはまさにプラチナの価値!」

 どこかで聞いたような声に振り向く。タイトスカートに茶色い髪をアップにまとめた女性がインタビューをしていた。その姿に見覚えがあり、僕は記憶の引き出しを探る。

確か、以前テレビで北辰一刀流にインタビューしていた人だったか。

 そのほか、テレビカメラじゃないけどスマホのカメラを使う人たちもいる。出場選手に声をかけて一緒に写真を撮っていた。

 彼、彼女たちの年齢は僕と同じくらいか、大学くらいの人が多く明らかに恋愛がらみという感じの人も多かった。

 もちろん僕にインタビューする人も、写真をお願いする人も一人もいない。

 気楽でいい。

『あなた初出場の人ですよね? 意気込みを……』なんて聞かれることなんてこれっぽっちも期待していない。

 インタビューされた時に答える内容を半日かけて考えたりもしていない。

 アレクシアにそのことを相談してもいない。

「寂しいですカ?」

「柳生くん……?」

 僕の隣を歩くアレクシアがにやにやと、中島さんが心配そうに声をかけるが僕は軽くうなずくだけにとどめた。

 緊張しているせいか、あまり話したくないのもある。

 と思っていたら、タイトスカートのリポーターが僕たちの方に近づいてきた。

 ひょっとしたら、と思う期待とそんなわけない、と思う心。

 その二つがせめぎ合っているうちにリポーターはゆっくりとマイクを僕の、

 隣にいるアレクシアに向けた。

「外国の方ですか? はるばる聖演武祭を?」

 それはそうか。テレビ写りというか、インスタ映えするのは明らかに金髪碧眼超絶美少女の彼女の方だ。

 プロならば彼女にマイクとカメラを向けるだろう。

 アレクシアは気負った様子もなくすらすらとインタビューに答えている。さすがはシーメンス社のご令嬢だ。

 と思っていたら、リポーターの瞳が僕と合った。

「そちらの方は? ひょっとして彼氏さんですか? あ、彼氏はボーイフレンドのことですね」

「いエ」

 アレクシアはばっさりと切り捨てるように言う。

 ちょっとショックだが、次のアレクシアのセリフでそんな感慨は吹き飛んだ。

「彼は今大会で優勝する人でス」 

 金髪碧眼の彼女が笑顔でそう言い切ると、リポーターは微妙な顔になった。それはそうか、前評判なんて皆無の人間をそんな風に持ち上げられたらどう反応していいか困るだろう。

 でもそれでは済まないのがプロらしい。リポーターは目ざとく僕の背負っていた日本刀の黒いケースに目をつけた。

「その居合刀ケース…… あなた本当に出場するんですか?」

「はい…… そうです」

 僕が出場選手だとわかると、レポーターは露骨に態度を変えた。

「流派は? どういった経緯で? 意気込みをお聞かせください……」

 少しイラっとした。

僕があらかじめシュミレーションした回答を答える気を無くす。

「頑張ります」

 とだけ答える。声音にも不愉快さが混じり、レポーターはわずかに顔色を変えたがすぐに快活に、お決まりの返事を無難にこなして別の参加者の下へと走っていく。

その後ろ姿を見て少しだけ後悔する。

もっと愛想よく答えれば不快にさせることもなかった、

彼女も仕事なのに、

 自分を責める言葉が浮かんでは止まらない。

 いつもこうだ。

 不快に感じることばかりで、自分の感情を制御できなくて、最後は結局後悔する。

 だから人付き合いは嫌いで苦手だ。

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