第18話 ドワーフの武具屋


 二人で昼食を食べ、高くもなく安くもなくという普通の宿屋を無事に確保して再び街に出てきた。



 次にやることといったら……



「装備を整えないとな」



「そうだね」



 そう装備だ。俺は黒竜との戦いで王国からもらった鎧がボロボロになったので安いシャツを買ってそれを着ている。武器だけは腰につけてるけどこれも黒竜戦でかなり刃こぼれを起こしているので買い換えたい。



 唯香も王都に帰ってきてからは部屋着に着替えていて、その後すぐに王都から出て行ったから装備もなければ武器もない。



 このままでも一応はモンスターと戦えるけど、不意打ちで攻撃を当てられると致命傷になりかねない。冒険者として活動するには装備は絶対に必要だ。



(出来ればあれを使いたいんだけど……)



 ただ、あんなのを出しちゃうと騒ぎになりそうなんだよな~。


 信用出来て腕がいい鍛冶師がいる店、またはその鍛冶師が商品を提供している店。



 そんなとこないかな~。



 とりあえずこの街で一番大きな武具店に行く。そのお店がある場所は街の中央から北東の方向に少し進んだところ。この街でも大型のお店が並んでいるエリアにある。



 ひときわ賑わっている道を進み、そのお店の前まで来る。そのお店は日本における人気のスポーツショップみたいな感じで、入り口はガラス張りになっており武器や防具が飾られている。



 入るとお店の人が奥の方から出てきた。30代くらいの女性の店員さんだ。



「いらっしゃいませ~。ようこそ『リントル武具店』へ!本日はどのようなご用件ですか?」



「武器と防具を新調したいんですけど」



「分かりました!ではまずは防具がある場所にご案内しますね」



 その店員さんに店の奥の方に案内される。そこには様々な防具一つ一つ丁寧にが飾られていた。



「こちらが防具のコーナーになります。失礼ですが冒険者ランクはいくつですか?」



「Fランクです」



「でしたら初心者用の方がいいですかね」



「あ、いえ。俺たちはさっき冒険者の登録をしただけで、モンスターとの戦闘は昔からやっているので」



「そうでしたか。大変失礼しました。では、中級者用の防具がいいですね」



 そう言って店員さんはいくつかの防具を見繕ってくれる。こういう接客は日本も異世界も変わらないんだな。日本にいた時は洋服屋さんとかに行ってこういう接客をされると少し嫌だなって思うこともあったけど、なにも分からない異世界だとありがたい。



「ねぇ、春樹くん。その……お金の方は大丈夫なの?王都の宿屋に泊まったときから私の分までずっと出してくれてるけど……」



「大丈夫だよ。嘆きの洞窟から帰ってくるときにかなりの数のモンスターを倒して魔石を売ったから」



 それは本当だ。というかまだ売ってないモンスターの素材とかも《アイテムボックス》の中にあるからな。



 ということで店員さんが見繕ってくれた防具を見る。鎧やらローブやらいろいろなものがあるけど、ただ……



(う~ん。納得出来る性能の物がないな……)



 武器や防具には二種類の物が存在する。それは「通常武具」と「性能付き武具」だ。



「通常武具」はその名の通り、普通の武具。鉱山から採れる鉱石なんかを使って作る。汎用性がありリーズナブルな価格で大半の武具がこの「通常武具」だ。



 対して「性能付き武具」は武具に特殊な能力がついている武具のこと。ダンジョンで取れる特殊な鉱石や希少なモンスターの素材や魔石を使って作る。その分値段も張るがそれに見合った破格の性能がある。



 とんでもない能力のついた一級の性能付き武具。とは言わないが一つくらい能力のついている武具があればな~って思っていたけど、店員さんが持ってきてくれた防具を鑑定してみると、どれも「通常」の防具。



 この街で一番大きな武具店ってだけあってかなりいい装備だけど、はっきり言って王国が用意してくれた装備の劣化版。というかやっぱり王国が用意してくれた防具はいい防具だったんだな。



 けど、そんな防具でも黒竜相手にはかなりきつかった。あんなモンスターと頻繁には戦わないと思うけど、性能がいいのに越したことはない。



 う~ん、どうするか……



 チラッと唯香を見てみると楽しそうに防具を見ている。やっぱり女の子は着るものを見るのが好きなんだな。



 冒険者として防具は絶対に必要。だからひとまずここで一つ買って、「性能付き」は後で買うかあれを使いたいな。



「気に入ったのがあった?」



「うん。一応……」



 といって手に取ったのは白色のローブ。胸と肩の位置にプロテクトが施され、腰の部分には杖をさすためのホルスターがある。ローブの長さも動きやすい長さにされており、実用性を考えられた防具だということが分かる。



 色もきれいで凄く唯香に似合っていると思う。



 ってこれ直接言った方がいいよな。



 うん。それで正解だよな。だってラノベとかだとこういう場面で鈍感系主人公が褒めないでヒロインががっかりするっていうのが定番だし。



「そのローブ、唯香に凄く似合ってると思うよ」



「う、うん……ありがとう」



 うわっ、なんだこれ。凄く幸せな気持ちに……



「うふふ」



 あ、隣に店員さんがいるのを忘れてた。



「とてもよくお似合いですよ」



 という二つの意味にとれる言葉をかけられ俺も唯香も顔を真っ赤にする。



 めっっっちゃ恥ずかしいんですけど!?



 その後、あまりにも恥ずかしかったのでさっさと防具と武器を選んで買い、店を後にした。




 こういうのは時と場所をわきまえた方がいいと知りました……





















 ―――夕方




 俺たちは再び冒険者ギルドに来ていた。目的はこの街にいる鍛冶師の情報を得るためだ。本当は武具店で聞こうと思ったけどあのあと恥ずかしすぎて聞くの忘れてた。



 ってことでレーネさんに鍛冶師のことについて教えてもらう。



「鍛冶師、ですか?」



「はい、出来るだけ信用できる腕のいい人がいいんですけど」



「う~ん、そうですね~。私が知っているのでいうと……リントル武具店とシャール武具店に商品を出しているオールック鍛冶屋のオールックさん。王都の方まで商品を出しているポルン鍛冶屋のポルンさんくらいでしょうか……あとは……」



 あっ、いや、でも……と困った顔をするレーネさん。



「どうしたんですか?」



「いえ、実はもう一人、すごい鍛冶師の方がいて……その方はかなり有名なドワーフの鍛冶師なんですけど……」



 おお!!ここで出てくるのか!!ドワーフ!!



 この世界にもドワーフやエルフと言った異種族が存在している。その中でも鍛冶と言ったらやっぱりドワーフだよな。



 でもレーネさんは言うか言うまいか、すごい悩んでいる。そんなに悩むのか?



「その方は五年前に王都から追放されたそうなんです。その理由は分かっていませんが……」



「追放?ですか?」



「はい。前まではその腕を見込まれて王城にも出向いていたそうなんですが……それ以降その方はあまり武具を作らなくなったんです。その腕を知っている冒険者の方が何度お願いしても追い返してしまうそうです」



 五年前。ちょうど魔王が復活した時だよな。その時に何かあったのか?だとしたら……それに王都を追放されたってことは……



「そのドワーフの鍛冶師の方がいる場所を教えてもらっていいですか?」



「えっ?行くんですか?かなり気難しい方だって聞きますけど……」



「大丈夫ですよ」



 多分。



 ということでレーネさんにそのドワーフの鍛冶師がいる場所を教えてもらい、そこを目指す。




 そのドワーフがいる場所はこの街の西側のさらに端の方。あまり人の通りがない場所だ。



 20分くらい歩くとその場所に到着する。



 ドワーフの鍛冶師がいるという鍛冶屋はなんていうか……ひねくれた頑固な鍛冶師がいる古典的な鍛冶屋と言ったら分かるかな。二階建ての木造建築で昔の日本の家っぽい感じだ。屋根には煙突もある。



「失礼しまーす」



 ギィーーーという音が鳴るドアを開けて中に入る。中は非常にシンプルな造りで一番奥にはカウンター。左右の壁には少しばかりの武器と防具が飾られ、中央には大きな木でできた丸い机とイス。



「誰じゃ?こんな時間に……」



 奥の方から一人の男性が現れた。その男性は成人男性としては背が低く、おそらく150㎝もないだろう。だが、その体は小ささに見合わず鍛えられており服の上からでもわかるくらいに筋肉が付いている。髭を生やし、いかにもファンタジーに出てくるドワーフというような風貌だ。



「えっと、あなたがジダンさんですか?」



「確かにわしがジダンじゃが……おぬしたちはわしに何の用じゃ?」



 かつて王都から追放された凄腕の鍛冶師ジダンが鋭い目つきで聞いてくる。かなり気難しい人だって聞いたから、ここで選択肢を間違えば俺のお願いを聞いてくれる可能性が低くなる。だから……



 ―――考えろ……なぜ王都を追放された?なぜ武具を作らなくなった?



 考えたうえで発言する。そう、これは交渉ではなく心理戦だ。



「あなたのことを聞いてきました。俺たちに武具を作ってください」



 そう言うとジダンは一層その目を鋭くさせた。



「わしに武具を作れと……若造が何を言っとるんじゃ……その依頼は悪いが断る」



「なぜですか?」



「断るもんは断る!わしの勝手じゃ。悪いか?」



「俺たちはある目的のためにどうしても強力な武具が必要なんです。お願いします。作ってください」



「なら、なおさら断る。おぬしたちの勝手な都合にわしをな」



「ジダンさん。俺たちはあなたのことを聞いてきたって言いましたよね?俺たちの目的は王都に関わることです」



 その瞬間、ほんの少し。本当にほんの少しだけピクリと眉が動いたのが分かった。



「小僧……自分の言っていることが分かっているのか?発言に気を付けることじゃな」



「分かってますよ。分かっているからこそ言っているんです」



 ジダンは無言。何かを見極めているような表情だった。だからこそ……



「王国は異世界から勇者を召喚しました。そして、その勇者たちを操り人形にしようとしています。俺たちはその企みを阻止したい。そのために武具が必要なんです」



 俺がそう言った瞬間、唯香がびっくりして俺の顔を見る。おそらくそこまで言うとは思わなかったんだろう。でも、ここまで言う必要がある。



 なぜならジダンは俺の話を聞いても動揺してないからだ。それどころか一層険しい表情をしている。普通こんなことを聞けば誰だって動揺する。なのにしないってことはそれを予想していたか知っていたか。



 五年前。何があったのかは分からないけど、その時に確実に何かが起きた。そして、それをこの人は知ってしまった。



「なるほどな……おぬしたちが軽い気持ちで言っているのではないことは分かった。じゃが、断る」



「……っ!」



「そもそも、どうしてそんなにわしに武具を作ってくれと依頼をする?他の鍛冶師でもいいだろう」



「信頼出来て、腕のいい鍛冶師であるジダンさんに作ってもらいたかったからですよ。どうしても今持っている素材で性能付き武具が欲しいんです」



「は~~、性能付きの……」



 ため息をつき、うんざりした表情でジダンは続ける。



「おぬしら何か勘違いをしていないか?確かに性能付きの武具は強力。じゃが、それを作るのは途轍もなく大変なんじゃ。おぬしたちはどうやって性能付き武具が出来るのか知っているのか?」



「いえ……そこまでは」



 メアリー先生の授業でも武具を作る過程はさすがに教えてもらってない。おそらくはスキルの一種にそういうスキルがあるんだとは思うんだけど。



「大方わしがドワーフだから性能付きを作るためのスキルを持っていると思っているんじゃろう」



 まさにその通りだ。



「確かにわしは性能付きを作るためのスキルを持っておる。じゃが、ドワーフ全員がそんなスキルを持っているわけではない。戦いが得意な者もおれば鍛冶が得意な者もいる。その中でも一部の者にしか性能付きを作るためのスキルは受け継がれない。そして、性能付きを作るためにはスキルだけじゃなく、素材も大切じゃ。性能付きは主にモンスターの素材からその能力を引き出す。生半可な素材、ダンジョンの20、30階層程度のモンスターじゃ話にならん」



 ドワーフはみんな鍛冶が得意だと俺は思っていた。ほとんどのファンタジー作品だとドワーフはそう書かれがちだからだ。でも、ここはそんな物語の中じゃない。



「それに一番大切なのは鍛冶師の腕じゃ。性能付きを作るために素材の特徴を生かし、引き出す能力。どの素材とどの素材をつなぎ合わせればいいのかという知識。その素材を正確に加工し、武具にする技術。スキル、素材が揃っていても作る鍛冶師の腕がそれに見合ってないと作れない。そう、性能付きを作るにはしっかりとした技術が必要なんじゃ」



 ―――技術があってこそ力が役に立つ



 訓練を開始した初日にライオットが言っていたことだ。戦闘だけじゃない。鍛冶にも技術が必要なんだ。



「おぬしら、武具店を見て思わんかったか?性能付き武具が少な過ぎると。これが理由じゃ。だから……」



「なるほど、わかりました。確かに俺は簡単に性能付き武具が作れるっと思ってました。すいません」



「わかったか、なら……」



「でも、それはジダンさんが性能付き武具を俺たちに作らない理由にはならないですよね?」



 またしても無言。長々と話していたけど、結局は作るのが大変ってだけで作らない理由にはなっていない。それにジダンは性能付きを作れるスキルを持っていて尚且つ王城に呼ばれるほどの鍛冶師だった。そんな人の技術が未熟なわけない。



「話を聞いていたのか?性能付きを作るのには生半可な素材じゃダメじゃ。見たところおぬしたちはレベルはそこそこ高いようじゃが、技術はまだ未熟。その証拠におぬしが腰に下げている片手剣。使い込まれてはいるが刃こぼれしておるな?それが未熟な証拠じゃ」




 …………やっぱりこの人、凄い。




 さっきリントル武具店で買った武具は俺の《アイテムボックス》に入れており、今の服装はこの街に来た時と同じでラフな服装。そんな服装なのにレベルが高いと分かり、俺が腰に下げている剣を見て使い込まれている尚且つ、刃の部分を見せていないのにもかかわらず刃こぼれしているのを一瞬で見抜いた。



「ジダンさんこそ、話をそらさないでくださいよ。つまり、俺たちにジダンさんが求めるものがあり、尚且つ素材が見合う物なら作ってくれるんですよね」



「……どうして、わしの求めるものが理由に出てくるんじゃ?」



「少し前に言いましたよね?『おぬしたちの勝手な都合にわしを巻き込むな』と。俺たちはただ武具を作ってほしいと言っただけ。しかもその時は性能付き武具を作ってほしいとは言っていませんでした。なのにそんな言い回しをした……なにかに巻き込まれている人でなければそんな言葉は出てこない」



「……っ!!」



 ここにきて初めてジダンの表情が目に見えて崩れた。



「五年前に王都から追放。それ以降武具を作らなくなり、依頼も断ってきた。なら、作らないんじゃなく、作れない。そしてそれは王都追放と関係している。それに、王国が勇者を操り人形にしようという話を聞いても動じなかった。なら、五年前に王国の事情を知ってしまい、弱みを握られ追放された。それがジダンさんの今の状況なんじゃないですか?」



「………………」



 無言。でもそれは肯定を現していっているといってもいい。ここでもう一押し。




「俺たちは王国が召喚した『勇者』です。そして、王国側の裏の顔を知り、ここに来ました」



「なっ……!!おぬしたちが勇者じゃと!?」



 これは賭けだ。今までの俺が言ったこと全てが俺の妄想なら終わり。でも、合っていたとしたら俺たちに協力してくれるかもしれない。



 ―――頼む!合っていてくれ!!



 静寂が場を支配する。



 一分?五分?どのくらいかは分からないけどかなりの時間、静寂が続く。ジダンの表情はうつむいていて俺からは見えないけどかなり葛藤しているんだと思う。



 そしてしばらくしてジダンが顔を上げた。



「勇者か……そうか、希望か……」



 ジダンさんはどこか懐かしむような、優しい表情をしていた。



「分かった。ただ、条件が三つある」



「条件、ですか」



「ああ、まず一つ。わしのことは絶対に他のものに漏らすな。例え友達や家族であろうとも絶対な。二つ目はおぬしたちが持ってきた素材。それがもしわしが満足のいく代物でなかったら作らない。そして最後に……」



 一呼吸おいて、覚悟のこもった表情で、



「絶対に王国の企みを阻止してくれ」



「はい!わかりました!」



 そんなのは言われるまでもない。友達の命もかかっているんだからな。



「よし!じゃあさっそく素材を見せてくれ」



「あっ、ここだとその素材を出すのがきついので出来れば外の方がいいんですけど」



「うん?なんじゃ?そんなに量が多いのか?……ならば裏庭に行くぞ」



 俺たちはジダンの鍛冶屋の裏庭に案内される。武具を作るための工具や薪なんかが置いてあるが広さは十分。人目もないしここなら大丈夫だろう。



「じゃあ出しますね」



 俺はそう言って《アイテムボックス》からあれを出す。



 ―――ドーーン



 と言う音と共に砂埃が舞い、落ち着くにつれ俺が出したものの正体があらわになる。



「なっ!?……これはっ」



「は、春樹くん!?……こ、これって」



「そう、あの時の黒竜だよ」



 ジダンと唯香が驚き、言葉を無くす。そう、俺が武具を作りたいと思っている素材は嘆きの洞窟で戦った黒竜だ。ライオットの全力の攻撃でもその鱗に傷をつけることは出来なかった。それほどの硬さを持つ素材を使った武具なら絶対強い。



「これは、黒竜か……しかも、身体全体がきれいな形で残っておる。これほどにきれいな竜種の死体を見るのはさすがにわしも初めてじゃ……それにこいつはまだ幼竜とはいえ黒竜を倒すとはな……」














 …………え?



 なんか今、聞きたくない言葉が聞こえたんだけど……



「え?この黒竜ってまだ子供なんですか?」



「なんじゃ?こんな小さいのが成竜とでも思っとったのか?黒竜は竜種の中でも最上位に位置する竜。大人の黒竜の大きさはこんなものではないわ。少なくともこの倍の大きさはある」



 ―――マジかよ!!??



 いや、こいつも二階建ての家くらいの大きさはあるぞ!!大人はこの倍って……



「まぁとにかくこいつを使って武具を作ればいいんじゃな?」



「はい。あとダンジョン内で手に入れた素材がまだあるのでそっちも使ってください」



 嘆きの洞窟で手に入れた素材も出す。それを一つ一つ丁寧にジダンは見ていく。



「うむ。素材は申し分ない。分かった。約束通りこいつらで性能付き武具を作ってやろう。なにか希望はあるか?」



「俺は武器は両刃の片手剣。防具は金属をあまり使わず、動きやすい防具で……唯香は?」



「え?……私もいいの?」



「当たり前だろ。そのためにここに来たんだから」



「でも……その、私、まだ春樹くんに何もしてあげられてなくて……ずっと春樹くんに頼りっぱなしだから……」



 武具を買いに行った時もそうだったけど、唯香はいろいろ出来てないことについて申し訳なく思っているみたいだ。男側からしたら頼られたりする方が嬉しいから気にする必要はないんだけどな。



「大丈夫だよ。それに俺たちはもうクラスメイト同士じゃなくて……その、恋人同士だろ」



「う、うん……」



「だから気にする必要はないよ。それにこの武具は唯香の身を守るためのものなんだから……」



「うん。分かった。ありがとう、春樹くん」



 精一杯の笑顔でお礼を言う唯香。やばい、可愛すぎるんだけど……



「おっほん!!おぬしらわしがいることを忘れとらんか?」



 あっ!!やっべ!!



「で、おぬしも希望はあるかの?」



「あっ!はい!……」



 唯香も自分の希望する装備の内容をジダンに話す。



「よし!分かった!期間じゃが、ひと月ほどくれ。そうすれば希望に合った装備が出来る」



「分かりました!ありがとうございます」



 来るときは少し不安だったけど何とかなったな。



「そう言えばおぬしたちの名前をまだ聞いてなかったの?」



「そう言えば……俺の名前は朝比奈春樹です。冒険者での名前はハルです」



「私は佐々木唯香です。冒険者の名前はユイです」



「わしは知っていると思うがジダン・コリュじゃ」



 こうして黒竜の素材を使った装備を作ってもらえるようになった。



















 ―――帰り際



 俺は気になっていたことをジダンに聞いた。



「ジダンさん。結局、俺が言っていたことって合ってたんですか?」



 王都追放についてのことだ。



「……それについてはわしの口からは言えん。ただ……」





 一呼吸おいてジダンは続けた、






「貴族には気を付けるんじゃ」






 ……と。

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