第17話 冒険者ギルドへ
春樹と唯香は朝一番に王都を出て昼過ぎには王都の次に大きな街であるイクシオンに到着していた。
「わぁ~、大きな街だね!」
「さすが王都に次ぐ街で最大の冒険者ギルドがある街。活気が溢れてるな」
周りを見渡すと背中に剣をさしている剣士の人や杖を持っている魔法使いの人、槍を持っている人、弓を持っている人など様々な冒険者であろう人たちがいる。その人たちや新たに街に来た人を店に来させようと客引きをしている人も見える。
まだ街の入り口を入ってすぐのところなのにかなり人の行き来が激しい。王都とはまた違う感じだ。
「とりあえずまずは冒険者ギルドに行って登録することだな」
「うん!」
近くにあったお店の人に場所を聞き、冒険者ギルドを目指す。この街は円型の造りで冒険者ギルドはその中心にあるらしい。なので街の中央を目指す。そうするとでっかい建物が見えるそうだ。
二人で歩いてギルドを目指しながら周りを見ているが、武器屋やら道具屋やらレストランやら本当にたくさんのお店が並んでいる。東京や大阪なんかの都会の賑わいに似ている感じだ。ただ、建物は日本にはないファンタジーなものが並んでおり、ここが日本ではないと再認識できる。
「ねぇ、春樹くん」
「うん?なに?」
「少し時間があったら、その……この街でデートしない?」
で、でーとですか!?
いや、嬉しいんだけどね。ただ、なんか気恥ずかしさの方が勝るというか……
でも、それでもしたいよ!デート!
「うん。わかった。しよう」
「ほんと!?やった!」
唯香が嬉しそうにしているだけで俺も嬉しくなる。やっぱりいいな~。
いや、いやいやいや!
つい返事しちゃったけど、俺デートなんてしたことないから何やったらいいか分かんないんだけど!?
いや、大丈夫だ!落ち着け!こんな時こそ役に立つアイテムがある!!
科学の持てる限りの技術を尽くして開発されたアイテム!!!そう!スマホが!!!!
これで「イケてる男のデートプラン」とかでググれば一発だ!!
さすがは科学の力!!これほどスマホに感謝したことはない!!
…………いや!ここ異世界じゃん!!!
電波とかないじゃん!!!調べることができねぇじゃん!!!
ダメだ。終わった…………
「あっ!春樹くん!冒険者ギルドってあれじゃない?」
俺がへこんでいると目の前にでっかい建物が見えてきた。三階建てで壁は白色を基調とした造り。扉は通常の倍はある大きさで人の出入りが激しく常に開いている。手前には門がありそこからギルドの敷地へ入るようになっていて、入って右手には噴水もある。
冒険者ギルドと言うよりは屋敷に近い感じだ。
「本当におっきいね」
「うん。でかい」
その大きさに少し圧倒されながらも門をくぐりギルド内へと入っていく。入ると中央の床には入り口から奥にあるカウンターまで赤い絨毯が敷かれており、カウンターには女の人が笑顔で座っている。おそらくそこが受付だろう。
中央から左右に分かれる形で場所が分かれており、受付の左側にはテーブルやらイスやらが並んでいて、結構な人数がそこでご飯を食べている。ウエイトレスらしき人が忙しそうに料理を運んだり注文を取ったりしているので酒場だというのが分かる。
右側には壁に大量の紙が貼られており、そこで多くの冒険者がその紙を見ている。おそらくそこが依頼が張り出されている場所。さらのその奥には二階に行くための階段も見える。
とりあえず俺たちはまだ登録をしてないから中央の受付に行く。
「冒険者ギルドへようこそ!本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の人は20代中頃くらいの女性で、髪は綺麗に整えられた茶色のストレートヘアで長さは胸近くまである。その胸もかなり大きく、容姿も美しいの一言。大人の女性特有の男を魅了する魅力がある。俺も若干緊張しているがそれが唯香に伝わったのか肘打ちを食らってしまった。
「えっと、冒険者登録をしに来たんですけど」
「新規のご登録ですね。ありがとうございます。ではこちらの用紙に必要な登録事項を御書きください」
受付の人が凄い営業スマイルで紙を渡してくる。そこには名前や年齢、得意な武器などの項目があった。
「あの、これ全部正確に書かないとダメなんですか?」
「いえ、こちらの情報は登録されている冒険者さんのことをギルドが把握するためのものなので分からないところは書かなくても大丈夫です。けど正確に書いていただいた方が後々パーティーも紹介しやすいですし、指名依頼もやりやすいですよ」
なろほど。じゃあ偽名を使っても大丈夫かな。
「唯香。ここに来る前に話した通り、偽名で登録しよう」
「うん。わかった」
耳元で子声で打ち合わせをして用紙に必要な情報を書き込む。
(名前はハル。年齢は16歳。得意な武器は片手剣っと……)
二人ともが書き終えて、受付の人に渡す。
「はい……ハルさんにユイさんですね。確認しました。それでは冒険者の方のお仕事の内容と冒険者ギルドについての説明をしたいと思いますが、よろしいですか?」
冒険者やギルドについてはメアリー先生の講義で一通り習っているけど改めて説明を受けた方がいいかな?ギルドよって独自のルールとかもあるかもしれないし。
「はい、お願いします」
「分かりました。遅くなりましたが私はこのイクシオン冒険者ギルドの受付をしていますレーネといいます。まず、冒険者とは冒険者ギルドに所属し、様々な依頼を受ける人達のことです。その依頼はお使いから薬草などの素材の採取、モンスター討伐など多岐にわたります。冒険者の方々はその強さによってランク分けされており、下から順にF、E、D、C、B、A、Sとランク分けされています。依頼も難しさによってランク分けされていて基本的には自分と同じランクかそれ以下の依頼しか受けることができません」
例えばDランク冒険者なら依頼はD、E、Fランクの依頼を受けることが出来て一つ上のCランクや二つ上のBランクの依頼を受けることは出来ないということだな。
「冒険者ランクの内訳はFランクは初心者のランク。基本的な依頼はお使いや近くの森での薬草の採取などですね。Eランクでモンスター討伐の依頼がスタートします。と言っても内容はスライムやゴブリンなどのモンスターが対象になりますね。D、Cランクで中級冒険者と認められてこのランクから依頼の内容が大幅に増えます。ギルドに所属する冒険者の大半がこのランクですね。B、Aランクで上級冒険者となり危険な依頼や調査、護衛依頼が対象になります。SランクはAランク冒険者の中でも規格外の力を持つ人だけがなれるランクでこの国には現在二人しかいないランクになります。また、Cランクからは依頼相手が冒険者を指名する指名依頼も発生します」
Sランクは二人……そのことを言った瞬間、レーネさんは悲しい顔をした。それはメアリー先生もそうだった。何かあったのかな?
「ランクを上げるには基本的にはギルドが指定した依頼を規定数達成すれば上げることができますが、Cランク以上になるためにはギルドで試験を受ける必要があります。では、次にその冒険者ギルドについてですね。冒険者ギルドとは大雑把に言えばそこに所属している冒険者を管理する組織です。依頼主から受けた依頼を適切なランクに分けて冒険者の方に提示したり、素材の取引を行ったり、ランク試験を行ったりと冒険者の窓口になっています。また、有事の際はその街にいる冒険者に協力を要請し、街を守る役割も受け持っています」
街を守る役割も担っているのか。魔王が復活し、危険な状態だらこそ冒険者が重宝するわけだな。
「では、最後にパーティーについての説明です。冒険者の方々は同じランク帯または一つ違いのランク帯で一緒に依頼を受ける『パーティー』を組むことができます。一緒に依頼を受けることで危険を抑えることが出来るメリットもありますが依頼達成の際に受け取る報酬も分割されるので気を付けてください……以上で説明を終わりますが、何か分からないことはありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
ほとんどはメアリー先生から聞いた通りだったから別に問題ない。
「では、冒険者カードを作るのでこちらに手を当ててください」
そう言われ出されたのは王城でステータスを確認した時と同じ紫色をした丸い水晶をはめた機械。ただ、王城で見た水晶よりか小さいけど。
「えっと、冒険者カードっていうのは?」
「あっ!そう言えば説明するのを忘れてましたね。すいません。冒険者カードとは冒険者のランクと身分を証明するためのものです。こちらの水晶に手を当てていただくとカードにステータスの情報が記録されます。この情報をもとにギルドはランク分けや試験、パーティー紹介などを行うこともあります。ここで記録されるのはレベルなどの9つのステータスだけですが、ステータスの情報は冒険者の方にとっての生命線の一つなので、ギルドがその情報を外に漏らすことはありませんし、カードに記録された情報は冒険者ギルドでしか確認できないので安心してください」
これは割と困ったな。俺のレベルは黒竜戦とダンジョンでの戦いで58まで上がっている。こんなことが知られたら色々聞かれると思うし、いくらギルドが安全でも俺たちのことがばれるわけにはいかない。
ここはあれだな。《妄想再現》の出番だな。
《妄想再現》ですぐに《鑑定》と《隠蔽》のスキルを再現し、即座に唯香のステータスを鑑定。
名前 佐々木 唯香
性別 女
年齢 16
Lv 16
HP 334/334
MP 388/388
攻撃力 118
物理防御力 198
魔法防御力 223
敏捷性 129
魔法力 406
運 45
スキル
《勇者》《賢者》《魔法最適化》《魔力増加》《自然治癒》《水魔法》《風魔法》《雷魔法》《杖術》
称号
【癒しの勇者】
うわっ!流石の勇者ステータス……
同じくらいのレベルだった王女様とステータスを見比べても明らかに高い。こんなの見せられないな……
ってことで《隠蔽》スキルの中の《偽装》を使い、王女様のを参考にし、唯香のステを書き換える。
名前 佐々木 唯香
性別 女
年齢 16
Lv 16
HP 167/167
MP 214/214
攻撃力 90
物理防御力 103
魔法防御力 120
敏捷性 87
魔法力 221
運 45
スキル
《勇者》《賢者》《魔法最適化》《魔力増加》《自然治癒》《水魔法》《風魔法》《雷魔法》《杖術》
称号
【癒しの勇者】
よし!出来た!スキルとか称号とかは見れないみたいだし、そのままでいいか。
っていうかこれでも高いかな?でも、変に低くしてもこれから冒険者としてやっていく上での枷にしかならないしな~。
まぁ、これで大丈夫かな?
「じゃぁ、ユイからどうぞ」
「え?……う、うん」
ユイ呼びに若干照れながら唯香が水晶に触れる。水晶が光り、機械を通し、下にセットされたカードへと情報が書き込まれる。
これも、魔道具の一種。すごいな!さすがファンタジー!
光が収まり、カードにしっかりと記載されたのかレーネさんが確認するとその表情を凍り付かせた。
「なっ……なに、このステータス。レベル16でMPと魔法力が200越え……」
おい、レーネさん。驚き過ぎて声に出てますよ。
というかやっぱり高かったかな~。
「あっ!すいません。つい……あの~、これは……」
うん。やっぱり聞かれるよね。よし!考えていた設定でいこう。
「あ、俺たち東の方にある小さな村から来たんですけど、二人とも両親が冒険者だったんですよ。で、昔からモンスターを倒していたんです」
「な、なるほど。だからレベルも高かったんですね。東の方となると『ボンズ村』や『ラオル村』あたりでしょうか。確かにあの辺りはモンスターが出やすいですし、ご両親が冒険者ならこのステータスも納得です。こういった才能は受け継がれる傾向にありますからね。さぞ名の知れた冒険者だったのでしょう」
よし!上手くいった!!
俺は来た方向と両親が冒険者ということしか言ってないのに勝手に勘違いをしてくれた。というか勘違いしてくれるって思ったよ!
元中二病なめんなよ。こういう設定を考えさせたら無敵だからな!親が最強の魔法使いだったとか、弟が天才で兄の自分が落ちこぼれとか、無能と罵られながらも実は世界最高の実力者とか!そんな設定…………
…………なんか言ってて悲しくなる。
とにかく誤解してくれたからセーフだ。俺もカードを作って貰って受け取る。カードゲームなんかで使うカードとほぼ同じくらいの大きさで、全体の色は白色。カードの真ん中に大きく「F」と書かれており、素材は何かの金属で出来ているのか少し重い。
「カードはランクごとに色分けされていてFランクは白色になります。また、カードの紛失の際は再発行するのにお金が必要になるので注意してくださいね」
「今回は初回なのでお金は必要ないですよ」と素晴らしい笑顔で言うレーネさん。さっきの失態を取り返したいのかな?
「これで登録は完了しました。いつでもギルドで依頼を受けることができますよ」
「分かりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
登録は終わったのでこれでギルドを後にする。今の時間は午後の2時頃。着いてすぐに登録しに来たからさすがにお腹がすいたし、今日泊まる宿屋も確保しなきゃいけない。だからギルドでの依頼は落ち着いてからにしようって二人で話してたしね。
「よし!登録も出来たし、どこかでご飯食べようか」
「うん。そうだね」
二人でギルドの出口に向かっていると途中で凄くガタイのいい、いかにもゴロツキだなっていう冒険者に道を塞がれた。
―――これって…………
「おい!小僧!ギルドになんの用だよ!!あぁん!?そんな可愛い子連れてよ!!」
うっわ!!来たよ!冒険者ギルドのテンプレ!!新人冒険者に絡むガラの悪い冒険者!
こういうのは二択。本当にガラの悪くゲスな冒険者か新人のことを思い、悪くふるまう優しい冒険者か……
「今ならその可愛い子を差し出せばこの俺様、アオーズ様に免じて許してやってもいいぜ!!えへへへへ……」
男の俺でもわかるいやらしい目つきで唯香を見る冒険者アオーズ。
うん。悪人だな。
チラッと受付を見るとさっきまでいたレーネさんが書類を奥にしまいに行ったのかいなくなっている。
受付の人がいなくなったタイミングで声をかけたってことだ。
「おい!返事しろや!!おら!!それとも何か?怖くて声も出ねぇのか??さっさとその女とヤらせろや!!!」
はい!確定!!
こういうのはテンプレだと実力行使をするんだろうけど、こんなことで目立ちたくない。
なので……
「すいませーーん!!変な人にベッドに連れて行かれそうになってまーーす!!助けて下さーーーい!!」
不審者にあったら大声で助けを求める。日本の常識だ。
「なっ!?おまえっ!!」
この冒険者ギルド内は人の行き来が激しく、なおかつご飯も食べてる人もいるからかなり騒がしい。そのため少し騒いだところで周りの騒音に打ち消される。そう思ってこの人も絡んできたんだろうけど、騒がしいってことはそれだけ人がいるってこと。そこで助けを求めればおのずと注目が向く。タイミングは良かったけど場所がガバガバだ。
「おい、あれアオーズじゃねぇか?」
「またやってんのかよ……」
「っていうかついに男にまで手を出したのか?」
どうやらこの男はこの手の手口の常習犯だったらしい。そこら中から「またかよ……」っていう声が聞こえる。
「うるせぇぞ!!おまえら!!!黙れや!!ぶっ殺されてぇのか!!ああ!!」
そんな騒ぎを聞きつけたのか奥からレーネを含む受付の人達がやってきた。
「アオーズさん!またあなたですか!?しかも今回は男の子にまで手を……」
「ちげぇよ!!男に手を出すわけねぇだろ!!その隣にいる可愛い子を襲おうとしたんだよ!!!」
―――あっ、こいつバカだ
「襲おうとしたんですね」
「あっ、いや……」
「以前は未遂だったから見逃しましたが、その時に言いましたよね。次にこんなことをしたらギルドから除名処分だって」
「いや……」
「この件はギルドマスターにきちんと報告をします。まず、除名は免れないと思いますよ」
その場にいた女性たちから冷たい目で見られるアオーズ。そんな光景を見届けてから俺たちは今度こそギルドを後にした。
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