第2章 冒険者編
第16話 勇者たちの状況
春樹と唯香が王都を出た日の朝、クラスの委員長で女子のまとめ役でもある望月茜はさらなる混乱に陥られていた。
「佐々木さんが王都から出ていったですって!?」
「う、うん……」
「なんで親友のあなたがそんなに冷静なの?っていうか西山さんは佐々木さんを止めなかったの?」
「止めたよ。でも、唯香全く聞かなくて、《睡眠》の魔法を私にかけて出ていっちゃったの」
「そう……佐々木さんは朝比奈くんのことが、その、好きだったの?」
この質問は唯香のプライベートな問題に関わることだ。だけど、私は茜が人のことをペラペラと喋るなんてことをしないのを知っている。
「うん。唯香は朝比奈くんのことがずっと好きだった……だから……」
「そうなの……わかったわ、みんなには上手く説明する」
「ありがとう、茜」
「いいわよ。それが私の仕事だし、ライオットさんたちには西山さんから話しておいてね」
「うん。わかった」
茜に報告をし、部屋を出てすぐにライオットさんのところに報告をしに行く。その行く途中で私は再度決意する。
朝比奈くんが知らせてくれた情報。この王国や原崎くんのこと。それらから剣斗を守るために、もっと強くなる、と……
ライオットは西山楓からの報告を受けて頭を悩ませていた。
(ササキ・ユイカがアサヒナ・ハルキを追いかけて行った、か……)
二人の関係がどのようなものだったかは詳しくは知らないが、ササキ・ユイカがアサヒナ・ハルキを大切に思っていることは明らかだ。
「一応、リアーナに知らせるために騎士団員を送ったが……」
王都を飛び出してまでアサヒナ・ハルキを追いかけて行ったなら説得は難しそうだな。
ササキ・ユイカはステータスだけで見るなら勇者の中でもトップクラス。出来れば無事でいてほしいが……
そんなことを考えながら王城内を歩き、訓練場に行く途中、前からある貴族が歩いてきた。
「おやおや、これはこれは騎士団長殿ではありませんか」
「これは、オールフェイ公爵殿。お久しぶりでございます」
四大貴族と呼ばれる貴族のオールフェイ家当主、ヘルマン・フォン・オールフェイ公爵だ。
(なぜ四大貴族の当主が今、ここにいる)
貴族は基本的に自分の領地を持っており、その領地を統括するのが義務だ。四大貴族ともなればかなり大きな領地を与えられている。だからこそ、その当主が領地以外の場所に居ることが珍しい。事実、他の四大貴族の当主は勇者召喚の日は王城にいたが次の日には自分の領地に帰っている。
「なぜオールフェイ家のご当主様が王城に?何か御用でも?」
「いえいえ、当主とは名ばかり。ほとんどの仕事は息子がやっているので、私は基本的には自由にできるのです。まぁ、用があるといえばあるのですが、それはあなたが知ることではないですよ。騎士団長殿」
ヘルマンが鋭い目つきでそう答える。そう言われればライオットは黙るしかない。いくら騎士団団長とはいえ四大貴族の用事に首を突っ込むことは許されないのだから。
「そうですか……では、お気をつけて」
「ええ、騎士団長殿も」
そう言って去っていくヘルマンを見ながらライオットは大介から寄せられた情報を思い返す。
―――ゴウキはあの水晶を壊すと黒竜が出ることを知っていた
―――あんな水晶がたかが10階層で自然にできるとは思えない
―――そしてあの水晶は普通では入手することが困難なもの
―――じゃあ、普通ではないものが入手したのなら?
ライオットは底知れぬ不安を抱きながら訓練場へと向かった。
―――ライオットがヘルマンとすれ違った時間とほぼ同時刻、大介や西山を含めた勇者たちは一階にある食堂で朝食を食べていた。普段はワイワイと雑談をしながら食べているのだが、今はみんな言葉を発することはない。
(みんな気が沈んでるな……)
桐生もそれは例外ではない。でも、桐生には使命感がある。クラスの中心的な存在として、そして「勇者」としての使命が。
(だから僕が何とかしないといけないんだけど……さすがにきついかな。黒竜の圧倒的な力。それにクラスメイトの朝比奈くんが巻き込まれて生死は不明。その朝比奈くんを追いかけて佐々木さんが王都から出て行った。こうも立て続けに嫌なことが続いていくと……)
昨日の段階でも男子も女子もかなりの数、精神的に参っていた人たちがいた。そこに唯香がいなくなったという知らせはかなりきつい。桐生もその知らせを受けた時は少し動揺した。
(だけどまだ、立て直せる。大丈夫だ)
まだ大丈夫。そう感じていた。
そう、このままなら…………
だが…………
「おい!みんな、ちょっといいか?」
その声は唐突に、突然発せられた。
―――原崎だ。
みんなから見やすい位置に移動し、原崎は声高らかに宣言する。
「俺たちの元に来る気はあるか?」
突然発せられたその問いに答えられる人なんていない。みんな沈黙を保っている。いや、正確には原崎が何を言っているのか理解できないのだろう。
「原崎くん、何を言っているんだ?」
桐生もこう言うのが精一杯だ。
「だぁ~かぁ~らぁ~!俺たちの方につかないかって言ってんだよ!この国の国王は俺たちをドラゴンなんて出る危険な場所に誘い出し、俺たちを殺そうとした。そして、現に朝比奈が死んだ。ライオットの野郎はそれを助けようとすることすらせずに王都に逃げてきた。そんな奴らのところにこれからもいるのか?……佐々木はさっさと見切りをつけてこの国を出て行ったらしいぜ」
どうだ?と原崎はみんなに投げかける。普段なら原崎の言うことなんかまともに聞くことはない。そもそも、黒竜が現れた原因の一旦は原崎たちにあるし、ライオットはみんなを逃がすために戦ってくれた。
そんなことはみんな分かっている。けれど、こんな状況だからこそ原崎の言葉はみんなの心に残る。不安定な状態ほど正常な判断ができなくなる。
―――このままでいいのか?いずれは自分が死ぬんじゃないか?
黒竜の恐怖はそこまで影響を及ぼしている。原崎はその心理を狙っているのかいないのか分からないが、みんなの心に訴えかけるのには絶好のタイミングだ。
「ねぇ~原崎。自分につかないかって言ってるけど、具体的にはどうするの?この国を出たら私たち行くとこないよ?」
原崎がこの質問を待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべ、両手を広げかなりオーバーリアクションで答える。
「そこは大丈夫だぜ!霧島!俺たちには強い見方がついてるんだから!」
そこにタイミングを見計らったようにとある人物が食堂に姿を現した…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます