第15話 朝……そして……
黒い髪の女の子が元気に公園を走り回っている。
小学中学年くらいの女の子だ。
その女の子が笑顔をこちらに向けている。
場面が変わり、小学校に移る。
そこでも休み時間に元気に校庭を走っている。同じ年の女の子とかけっこをしたり、鬼ごっこをしたり……
そんな楽しい光景……しかし、ある日を境にその光景はなくなる。
そして何故かこの異世界、シリアのアイゼンブル王国の王城内に場面が移る。王城内でその女の子が何かを言っている。
だけどその声を俺は聞き取れない。
―――なんて言ってるんだ?
―――なにを伝えたがってるんだ?
しかし、その答えは返ってこない。
辺りが光に包まれる……
―――チュンチュンチュン
「う、う~~ん」
窓から日の光が差し込み、小鳥の声がする。
ゆっくり目を開けて周りを見渡す。簡素な造りの机にイスがあり、今、俺が寝ているベッドも決して豪華とは言えない。
それもそうだ。ここは王都の中央からかなり離れた場所にある宿屋の一室。豪華とは程遠いが、それでもその部屋には花がある。それは俺の隣に寝ている女の子、佐々木唯香だ。
あの告白の後、俺たちは食事をし、風呂に入り、そして同じベッドで寝た。
…………
…………いや、寝たって言っても普通に寝ただけだからな!
それ以上のことはしてないからな!!
流石に付き合ってすぐにそんなこと出来るわけない。
それにしても、朝起きて隣に好きな人の寝顔があるっていいな。本当に幸せな気持ちになる。
そんなことを思っていると佐々木……じゃなくて唯香が目を覚ました。
「ふぁ~~~。あっ……お、おはよう……春樹くん……」
やっっんばぁぁああくね!!!!
寝起きで少し恥ずかしがりながら、そして照れながら「おはよう」って言ってくるのは反則過ぎでしょ!!
「お、おはよう。唯香……」
二人して恥ずかしながら挨拶をする。
なにこれ!?
この甘酸っぱい感じは!?
完全に付き合いたてのカップルじゃん!!??
いや、実際そうなんだけどさ……ただ自分がこんな状況になるって思ってなかったからそうなると……なんかさ……
「幸せだな~」
「……え?」
「あっ!いや……」
「嬉しい……私も幸せ」
うわぁぁあ……なんか心臓が凄い絞めつけられて、こう胸が凄い幸せな気持ちになる。
やばすぎね……
好きな人と同じ時間を共有するってこんなに幸せなの?
ただ、このままゆっくりもしてられない。今の時間は6時前後。すぐにこの王都から出ないと俺たちの存在がばれてしまう。
「よし!準備してすぐにイクシオンに向かうぞ!唯香」
「うん!」
俺たちはすぐに宿屋をチェックアウトして王都を出た。その時に、宿屋の人から「昨夜はお楽しみでしたね」的な温かい笑顔を向けられて恥ずかしかったけど、気にしたら負けだ。
王都を出てしばらく整備された道を歩いていると唯香から質問がきた。
「ねぇ、春樹くん。これからイクシオンっていう街に行って冒険者として情報を集めるって言ってたけど具体的にはどんなことをするの?」
「そうだな~。一番の目的は王国の内情とか貴族の情報を集めること。でも、そんな重要な情報は普通の人じゃ知ることが出来ない。でも、例外もある」
「例外?」
「そう。それが冒険者。魔王が復活し、モンスターたちが凶暴になった今、モンスターと戦う冒険者はかなり重宝される。だから、まずは冒険者として活動し、信用を得ることが大切だな」
「なるほど……じゃあ冒険者として活動するには私たちは偽名を使う必要があるよね。貴族の人達には私たちの名前は知られているし」
確かにそうだ。このまま「アサヒナ・ハルキ」と「ササキ・ユイカ」で冒険者登録するわけにはいかない。
「偽名……じゃあ俺はハルキの頭をとって『ハル』でいいかな」
「じゃあ私は『ユイ』かな……安易すぎない?」
「あまり凝った名前にしても普段の会話でぼろが出るかもしれないし、言いやすい方がいいと思う。それに『ハル』や『ユイ』はこの世界の名前としては珍しくないし」
「うん!分かった!……なんか愛称みたいでいいね!」
なんで好きな人との会話ってなんでも楽しくて幸せな気持ちになるのでしょう。
なんか夢みたいだな……
しばらく進んでいくと広大な森が広がっていた。だけど道がちゃんとあるから迷わすに進める。
「ねぇ、春樹くん」
「うん?なに?」
「春樹くんは嘆きの洞窟で原崎くんの妨害を受けたんだよね?」
「原崎の仕業かは分からないけど、妨害は確実に食らったよ」
「王国の人達も私たちに呪いをかけていた。これってどういうことなのかな?」
「う~ん。あくまで俺の考えだけど、今現状では二つの勢力がある状況かな。勇者たちに呪いをかけ、自分たちの手でコントロールしようとしている『王国側』とこの世界に連れてこられた『勇者側』。おそらく原崎はこの王国側の人達に上手いこと利用されているんだと思う」
「利用?」
「そう。原崎は剣斗を目の敵にしていたし、いろいろ権力を欲していた。そこに上手く付け込まれたんだと思う」
「でも、それだと王国側の人達の目的はなんなのかな?呪いがあるならわざわざ原崎くんに力を与える必要はないと思うんだけど……」
「そこは俺も気になっているところかな。でも、それも含めてこれから調べるよ。王国側にとっても魔王に対抗できる勇者たちには下手に手を出せない」
そう。そこが俺たちが今、優位に立てる唯一の生命線。俺たちがいなければ魔王に勝つことは出来ず、この世界は終わる。だから、王国側もすぐに呪いを発動させなかった。
勇者たちが魔王に近づくまでの間、かなりの時間があるとはいえ、しっかり調べて王国の企みを見破らないといけない。
「よし!着いたかな!」
「わぁ~、大きい街だね!」
王都に次ぐ街で、最大の冒険者ギルドがある街「イクシオン」に俺たちは到着し、その入り口を通った。
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