第13話 急展開すぎるんだけど!?
ライオットと勇者たちが「嘆きの洞窟」から王都に帰ってきたその日の夜、ライオットはローランドに「嘆きの洞窟」で起こった出来事について報告をしていた。
「以上が昨日、嘆きの洞窟内で起こった出来事です」
「黒竜か……」
ローランドはため息交じりの声で呟いた。
「申し訳ございません陛下。私が付いていながら勇者を一人、守れませんでした」
「いや、よい。相手は竜種の中でも最強の黒竜。おぬしの所為ではない。それよりも崩落に巻き込まれた勇者のアサヒナ・ハルキは死亡したのか?」
「現在、騎士団10人がダンジョン内を捜索。私が王都に帰ってきてからリアーナを含む第一番隊を増援として送らせましたが、あの高さから落下し、なおかつ黒竜もいるとなると生存は絶望的でしょう」
「そうか……他の勇者たちはどうだ?」
「やはり精神的にきている勇者たちが多いようですね。勇者とはいえまだ16、17歳の少年少女たち。あの黒竜や仲間の死を見て、心が折れた者も少なくないかと……」
「であろうな。ライオットやメアリーには今後、勇者たちの精神面をケアするように頼む」
「分かりました。それと、これはアサヒナ・ハルキの親友であるアイズ・ダイスケからの情報ですが……」
ライオットからの知らせに、ローランドは目を細めた……
―――コンコンコン
「うん?誰だ?」
王都に帰ってきてから部屋で休んでいた大介だったけど、突然ドアをノックされた。出てみると、そこには佐藤剣斗の幼馴染であり佐々木唯香の親友の西山楓がいた。
「西山?」
「会津くん、少しいい?」
そう言われ大介は部屋に西山を通す。夜の遅い時間に年頃の男女が部屋で二人っきり。他の人にばれたら何か噂が立ちそうな状況だが、二人にそんな雰囲気は一切ない。
「佐々木の様子はどうだ?」
「今は少しだけ落ち着いてはいるけど……でも……」
「そうか……」
「剣斗も責任感じて塞ぎこんでるし、女子たちもあの竜に怯えちゃってて……茜がフォローしてはいるけど……」
「男子たちにも精神的にかなりきてる奴らが多いな。こっちも桐生がフォローしてるけど……」
「会津くんは……大丈夫なの?」
「大丈夫に見えるか?」
「ご、ごめんなさい……」
親友である春樹がいなくなったんだ。大丈夫なわけはない。
「いや、俺の方こそごめん。西山も辛いはずなのに」
「ううん。会津くんや唯香に比べれば……」
その言葉を最後に二人に沈黙が訪れる。
―――コンコン
と窓が叩かれる音。
それはそうだ。何せ今まで普通に話していたクラスメイトがいなくなったんだ。普通でいられるはずがない。
―――コンコンコン
しかも俺らは春樹が黒竜と戦ってるのを見てる。春樹はあの黒竜を相手に一歩も引かなかった。その雄姿を知っている。だからこそ何も言えない。
―――コンコンコンコン
もし、あの時に俺らにちゃんとした力があれば……
―――コンコンコンコンコン
何かが変わってたのかもしれないのに……
―――コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
「だぁーーー!!うるせえな!!誰だよ!さっきから!!!」
コンコンコンコンと窓叩くんじゃねぇよ!!
ていうかなんで窓から音がするんだ?
俺は音がする窓に行ってカーテンを開けると
「よっ!」
「…………は?」
さっきまで死んだと思っていた親友の春樹がいた。
「なっ!?はっ!?」
「え?……え!?あ、朝比奈くん……?」
春樹は窓を開け、大介の部屋に入ってきた。
「大介に西山……その~、心配かけたな」
二人は春樹の突然の訪問に驚きを隠せない。なにせ二人は口には決して出そうとはしなかったが春樹は死んだと思っていたからだ。
「え?え!?……本当に朝比奈くん?」
「そうだけど……」
「お前、幽霊とかじゃないよな……」
「いや、大介には俺が幽霊に見えるのか?」
親友のあまりの言い草に少し呆れる春樹。
「お、お前、無事だったのか?あんな崩落に巻き込まれて……黒竜も追ってきたんだろ?」
「あぁ、まぁ、何とかなった」
「いや、何とかって……」
でも、春樹が黒竜と対等に戦っているシーンを思い出す。そして、二人ともが本当に春樹が無事だったんだと実感する。
「あ、朝比奈くん!!!ここで待っててね!!!ぜっったいどこにもいかないでね!!!!!」
西山が佐々木を呼びに行くために全力で部屋を出ていく。それを見届けてから大介は春樹に質問を投げ掛ける。
「お前、一体どうやってここまで戻ってきたんだ?」
その質問に春樹はニヤッとし、
「まずはライオットさんが一泊するっていった街に行ったんだけど、そこで勇者たちは王都に戻ったって聞いてさ。それで王都まで行くっていう商人の人を見つけ出して。で、護衛を無料でする代わりに王都まで乗せてくれって交渉したんだ。いや~、大変だったぜ。そんなやさしい商人の人見つけるまで」
「いや!そんなこと聞いてねぇよ!!どうやって崩落したダンジョンから帰ってきたかって聞いてんだよ!!!」
「ああ、そっちか」
「……お前、分かってて言ったな?」
今まで死んだと思っていた親友との掛け合い。それで大介は確信する。本当に大丈夫だったんだと。
「とにかく無事でよかったぜ!春樹!」
「心配かけたな、大介」
二人で握手を交わしていると、ドタドタドタという誰かが走って近づいてくる足音が聞こえた。
そして、バタンと部屋の扉が開かれ、一人の女の子が入ってくる。
「あ、朝比奈くんっ!!」
「佐々木……ごめん、心配かけ……」
「朝比奈くん!!!」
春樹の姿を見た瞬間、佐々木は目に涙を浮かべ、そして春樹に抱き着いた。
「え?」
佐々木に抱き着かれて春樹は固まった。
―――いやいやいやいや!!これどういうこと!?どういう状況!?
何せ好きな人に抱き着かれたのだ。佐々木の体の柔らかさや温かさがダイレクトに春樹に伝わり、春樹の顔が赤くなる。
「あ、朝比奈くんっ!!ぶ、無事だったんだね!!」
「ああ、俺は大丈夫だよ……だから……」
「よ、良かったよ~~~~~」
そのまま泣き出してしまった佐々木をどうしたらいいか分からず、大介に目線を合わせるがそっぽを向いてしまった。
―――いや、そっぽ向くんじゃねぇよ!!!
今度は西山に視線を送るが、
「あ、私、剣斗も呼んでくるね」
そう言って部屋を出ていってしまった。
―――え?西山も助けてくれないの!?
この状況どうしたらいいの?と悩む春樹。今まで女性との経験が乏しいからこそこんな状況をどう対応していいか分からない。
―――でも
―――佐々木は俺のために泣いてくれているんだ。
心配かけないように早く帰ってきたけど、それでも心配をかけてしまった。
人が死んでしまう悲しみ。いなくなってしまう苦しみ。それを俺はよく知っている。だから……
「もう、大丈夫だよ、佐々木。俺はここにいるから」
そう言い、俺は佐々木を抱きしめる。
「あわああああああああああああーーー」
それでさらに大きな声を上げて泣いてしまった。
―――え?これ何か間違った!?
それから佐々木が泣き止むまで少しかかった。
「その~、ご、ごめんなさい。いきなり泣いちゃって」
「ううん。全然大丈夫だから。それよりも心配かけてごめん」
佐々木が泣き止んだのは剣斗がやってきてからしばらくした後、お互いに恥ずかしさから少しぎこちない会話になる。
「その~、春樹くん。無事だったんだね」
「ああ、なんとかな」
「あの時は、本当にありがとう。僕を助けてくれて」
「どういたしまして、剣斗」
「で、春樹。どうやってダンジョンから帰ってきたんだ?あの黒竜は?いい加減教えろよ」
そこに大介からの質問が飛んでくる。それでそこにいるみんなが俺の方を向く。今この場にいるのは、大介、佐々木、西山、剣斗の四人。この四人なら話しても大丈夫だよな。
「分かった。話すよ……俺が助かったのは《妄想再現》っていうユニークスキルがあったからなんだ」
俺は自分に与えられたユニークスキル《妄想再現》について話す。その効果と能力を。
「ユニークスキル《妄想再現》。なんていうか、でたらめなスキルね」
「その《妄想再現》でスキルを再現して、崩落から助かった、と?」
「ああ、そういうこと。《妄想再現》で《硬質化》《身体強化》《衝撃吸収》のスキルを再現して落下の衝撃を防いだんだ」
「で、黒竜は?」
「倒した」
「倒しただ!?」
俺からの報告に大介が変な声を出す。そしてみんなも驚きをあらわにする。
「なんつー変な声だしてんだよ」
「いや、これで驚かない方が無理だぞ!だってライオットさんですら敵わなかったんだからな」
「これも《妄想再現》のおかげだな。まぁ、でも、かなりギリギリだったけど」
「ほんと、とんでもないスキルね。ねぇ、どうしてそんなスキルがあるって隠してたの?」
西山が呆れながらも聞いてくる。これも話さなきゃダメか……
「このユニークスキル自体が俺だけしか持ってないスキルだから、かな。こんなスキル持ってるって知られたら……」
「そうか、だから春樹は風呂で俺にユニークスキルについて聞いてきたのか」
大介が言っているのはこの世界に来た日に一緒に風呂に入ったときにした話だ。もう、二ヵ月も前なのによく覚えてるな。
「朝比奈くんしか持ってないの?ライオットさんとかは?」
「持ってないよ。勇者たちも含めて全員調べたけど、ユニークスキルを持ってるのは俺だけだった」
「調べた?どうやって?」
「《妄想再現》は妄想したスキルを再現する。だから俺は《鑑定》のスキルを再現して、調べたんだ」
「なるほど。つくづく便利ね、そのスキル……じゃあ、仕方ないか。朝比奈くん目立つの苦手そうだし」
それだけじゃないんだけど、どうしようか。《呪い》のこと、みんなに言うか?
「まぁ、とにかく!朝比奈くんも無事だったんだから、みんなに知らせないとね!」
「あっ!それはちょっと待ってほしい」
「え?どうして?」
どうする?言うか?
「今回の件は、原崎が関わっている可能性があるから。だろ?」
俺が迷っていると大介がそう言った。
「……どういうこと?会津くん」
西山が怒りのこもった声で言う。
「今日の昼間、原崎に絡まれたんだ。その時の原崎の言いようはあの水晶を壊すと黒竜が出ることを知っているかのようだった。多分、あれはわざと水晶を壊して、黒竜を出したんだ」
「そんな……」
「どうして、そんなことを……」
佐々木と西山がショックを受けた声で言う。それは俺も初めて知ったけど、予想は出来てたし、こうなったらもう言うしかない。
「多分、狙いは……剣斗だと思う」
「え?僕?」
「そう。黒竜が現れた時、剣斗の足に土で出来た鎖が絡んで逃げられなかっただろ。あれは《土魔法》の魔法だと思う。あれで剣斗を逃げられなくさせたんだ。確実に、殺すために……」
「そ、そんな……」
剣斗はショックを受け、西山はこぶしを握り締めている。
「それに俺が黒竜から逃げて出口に向かったとき、土の壁が突然現れて逃げれなかった。あれは《土魔法》の《ロックシールド》。剣斗を足止めしていた奴と同一人物だと思う」
「だから……朝比奈くんはみんなに知らせるべきじゃないって思ったの?」
「まぁそれだけじゃないけど、でもだいた……」
「全部教えて!朝比奈くんの知ってること全部!!」
西山から発せられた強い声。それは原崎に対する怒りか、それとも自分自身の不甲斐なさからくる怒りなのか。それは本人しか分からないがそんな強く言われたら言わざるを得ない。
「みんなを《鑑定》で確認したって言っただろ。その時に、みんなに【呪い】がかかってることを知ったんだ」
―――呪い《呪怨・王家への服従》
この呪いは王家に逆らうことは出来ず、その者を傀儡とさせる呪い。最悪の場合は死に至る可能性すらある。
「《呪怨・王家への服従》……そんな呪いが……」
「王家へ絶対服従させる呪いか……だとしたらかなりやばいな……自分たちが都合悪くなると、いつでも俺たちを操れるってことじゃねぇか」
「いや、その呪い自体は俺が解いたから別にいいんだけど」
「は?解いた?どうやって?」
「《妄想再現》で《解呪》のスキルを再現してみんなの呪いを解いた。その後、《隠蔽》のスキルを使ってみんなのステータスに嘘の呪いを付け足したからばれることはないと思う」
「手際いいな……つかそのスキルチート過ぎないか?」
「こんな危険な状態、すぐに解除しなきゃやばいだろ……俺もこの《妄想再現》はチートだと思う」
「それなら問題ないんじゃない?呪いがない以上この国の人は私たちを止められない。なら王様にそのことを問い詰めて……」
「それは絶対にやっちゃいけない。問題は呪いがあるかどうかじゃなくて、この国の人がそんな呪いを俺たちにかけたってこと。確かに俺たちを操ることは出来ないけど、俺たちのレベルはまだそんなに上がってない。そんな状態で王国を敵に回すのはダメ。それに武力だけが力じゃない。王家には権力がある。今、王家に逆らうのはダメだ」
「…………」
その場にいる全員の顔が暗くなる。
「なぁ、大介。今、俺ってどういう扱いなんだ?」
「どういう扱いって……そりゃ、ダンジョンで死んだって扱いだろうな」
「なら、余計に言わない方がいいな。生きて帰ってきたなんて知られたらどうやって帰ってきたのか問い詰められる。そうなると《妄想再現》のことがばれて、最悪、呪いを解除したこともばれるかもしれない」
「なら、どうするんだ?」
王都に来るまでにずっとこれからのことを考えていたけど、でも、これしか思い浮かばない。
「俺は冒険者としてこの国を周って、外から王国の企みを暴こうと思う」
「外から?」
「そう。こんな企み、国王一人だけで動いているとは思えない。少なくとも貴族たちが絡んでるはず」
っていうかそう言う展開が多いしな。これで確定だと思う。
「だから冒険者として外からいろんな情報を集める。ここにいるみんなにはこのまま王城にいて、中からみんなを守ってほしい」
それが王国の企みを看破するには一番いいと思う。俺は死んでるって思われてるから動きやすいし。
「ねぇ、朝比奈くん……」
それまで黙っていた佐々木が真剣な顔で俺の前まで来る。
「朝比奈くんはもう、ここには帰ってこないんだよね」
「う、うん。そういうことになるな。このままこの国を旅して情報を集める」
「なら……その旅に私も連れてって」
「…………え?」
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