第9話 やっぱりこうなるよね
原崎の件から二週間ほどが経過した。その間、俺か大介が剣斗の近くにいたから原崎から絡まれることはなかった。
むしろ、なんか妙に原崎たちが大人しくて気持ち悪い。2、3回は絡まれるかと思ったけど……
まぁ、そんなことより明日はもう一度ダンジョンに挑戦することになった。前回のような初心者用のものなんかじゃなく、ちゃんとしたダンジョンだ。
王都から馬車で南に4時間も行ったところにある通称「嘆きの洞窟」と言われるダンジョン。地下50階層以上もあり、最下層まで行ったものはほぼいないとされる王都周辺でも有名なダンジョンの一つだ。
やっぱりダンジョン挑戦っていうと何かが起こりそうなんだけど、前回も大丈夫だったし今回も大丈夫か?
変に考えすぎるのもあれだけど、用心するのに越したことないんだよな~。
と自分の部屋で考えていたら、突然ドアがコンコンコンとノックされた。大介かな、と思いドアを開けてみると……
「えへへ、こ、こんばんは~。朝比奈くん」
「佐々木……?ど、どうしたの?」
「ちょっと話がしたくて……」
そう言われ俺は佐々木を部屋の中に招き入れる。
…………
…………いや、いやいやいや!!
もう時間は夜の10時近いぞ!こんな時間に女の子を部屋に入れちゃ駄目だろ!!!
佐々木は風呂から出た後なのか髪が少し濡れており、その艶やかな白い肌からは色気を感じる。近くに行くとふわぁっと女の子特有のいい匂いがして、いろいろ意識せざる負えない。
やばい……これはいろいろやばい……
「ねぇ、朝比奈くん」
「な、なに?」
「その……ね……」
しばらく続く沈黙。それがこの場の空気を作り上げ、緊張が増していく。
「その……私不安なんだ。明日のダンジョン」
「え?……」
「なんていうかな、こう、胸がざわつくというか」
「なんて言ったらいいか自分でも分からないんだけど」と苦笑いを浮かべて言う佐々木。そんな言葉で今までの緊張とかやばい感じとかは俺の中から消えていた。
「不安なのは何かあったから?誰かに何か言われたとか?」
「ううん、違うよ。何となくって感じ。しいて言えば女の勘かな……」
――女の勘、恐るべし……
いや、いやいやいや!そんなことを考えている場合じゃないだろ!
佐々木は不安な気持ちになっている時に俺のもとに来てくれたんだ。俺を頼って。
だったら俺が励ましたり、気を紛らわしたり、不安を解消させてあげないと。
特に好きな女の子相手ならなおさらだ。
「……っ!!」
佐々木に声をかけようとするがなんて言ったらいいか分からない。「大丈夫」「心配ない」そんな言葉でいいのか?俺がそんなことを言っても何かなるのか?
いや、落ち着け俺。
そう!ここは中二病時代を思い出せ!!圧倒的な語彙力と表現力を!!
――フッ……この俺にかかればたかがダンジョンごときのモンスターなぞ、そこら辺のスライムと同じ。恐れるに足らず!この「爆炎の勇者」に任せるがいい!!……必殺!!「伝説の爆炎のs……
だめだろぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!
そんなこと言ったら引かれるわ!!!!
落ち着け……落ち着け……
「……」
佐々木を見ると不安そうな顔で俺を見ている。
ずるいだろ……
そんな顔されたら、どうにかしないといけないじゃん。
例え、カッコつけとかキザとかそんなことを思われても。それでも、それで不安が少しでも和らぐなら……
「大丈夫だよ……」
「……!!朝比奈くん」
俺はゆっくりと佐々木に近づく。この瞬間だけでいいから……だから、勇気をください。
「この世界に来てからみんな訓練を頑張ってた。それこそ、倒れたりしながらも……それに佐々木だって本でいろいろ調べてただろ」
「うん……」
「その努力は決して無駄にはならない。絶対に自分の力になる。だから大丈夫……それに俺もいるし……俺が、守るよ……」
「……っ!?」
少しでも不安を消してあげたい。そんな思いで佐々木の頭をゆっくりと優しくなでた。
…………あっ!やっっべ!!つい…………
昔の癖で無意識のうちに頭なでちゃったじゃん!!やばい……佐々木、顔真っ赤だ。
「ご、ごめん……つい」
「う、ううん。大丈夫だからっ……その、もう一回なでてほしいな」
「え?……」
「すごく落ち着くの……だめ、かな?」
そんな期待しているような顔で言われたら断れないよ。
俺はもう一度、佐々木の頭をなでる。ゆっくり、優しく。
「…………」「…………」
お互い沈黙した状態で頭をなで、時間だけが過ぎていく。一分?五分?十分?……もうどれくらい経ったのか分からない。
「も、もう大丈夫だよ!」
「う、うん」
頭のぬくもりや髪の柔らかな感触に名残惜しさを感じながら手を放す。
「そ、その……ありがとう」
「ど、どういたしまして」
お互いに恥ずかしくなってうつむく。
てかなんだよ!さっきの俺の言葉!俺が守るよって何様だよ!!
めっちゃ恥ずかしいんだけど!?
「じゃ、じゃあ私もう部屋戻るね!?」
「う、うん。わかった」
「あ……あの」
佐々木が部屋から出る直前に何か言おうとするが、言いよどんだ後ドアを開け部屋を出た。
「なんでもない。お、おやすみなさい」
「お、おやすみ」
…………
…………はぁ~~~~~~~
疲れてベットに横になる。まだ、佐々木の頭をなでた時の感触や、匂いが残っているように感じて顔が赤くなり、心臓がバクバクする。
こういう時になると改めて分かるよな。佐々木のことが好きなんだって。
「守んなきゃな……」
おもわず佐々木に言っちゃったけど、でも、うぬぼれでも何でもなく気付いているの多分俺だけだと思うから……
この世界に来た初日の夜。《妄想再現》で《鑑定・極み》を再現し、ステータスを見たときに分かった。
改めて佐々木のステータスを思い出す。
名前 佐々木 唯香
・佐々木家長女
性別 女
年齢 16
・誕生日8月30日
Lv 1
・経験値 0
HP 150/150
MP 180/180
攻撃力 30
物理防御力 80
魔法防御力 110
敏捷性 40
魔法力 210
運 45
スキル
《勇者》《賢者》《魔法最適化》《魔力増加》《自然治癒》
称号
【癒しの勇者】
【身長 162㎝】【体重 45㎏】
【バスト 82】【ウエスト 60】【ヒップ 84】
ちなみに処女である。
状態
【呪い】
《呪怨・王家への服従》
《呪怨・王家への服従》
王家への絶対服従を誓わせる呪い。この呪いをかけられた者は王家に逆らうことが出来ず、また、呪いを発動することによって操ることも可能。
長時間操ると、その代償として廃人となる可能性もあり、最悪死に至る。
「はぁ~~~~、幸せ~~~~~」
私は朝比奈くんの部屋から自分の部屋に帰ってきた後、ベッドにダイブしてさっきのことを思い出していた。
「朝比奈くんに頭なでなでしてもらっちゃった~」
それに朝比奈くんに、ま、守るって言ってもらっちゃった。やばいよ~。本当に幸せ~。
一緒にいるだけで体が熱くなってドキドキして、心臓がキューってなって苦しくなって、一言一言で嬉しくなって舞い上がって……
やっぱり、私。朝比奈くんのことが好き。大好き。
そのことを再認識すると同時に急に怖くなる。
「ダンジョン……大丈夫だよね……」
ダンジョンに行くってなってから急に不安が押し寄せてきた。大切な人がどこかに行っちゃうような。そんな不安。
「大丈夫!朝比奈くんだってそう言ってくれたし!」
不安を拭うように首を振った。
「明日も早いし、もう寝よう」
同時刻。
「おい!本当に大丈夫なんだろうな」
「はい、問題ありません。すべては計画通りです」
「へへっ、そうかよ。明日が楽しみだなぁ~。なぁ、会津、朝比奈、ライオット。それに佐藤……」
原崎は薄気味悪い笑顔を浮かべながらそう言った。
―――翌日
「よし!全員集合しているな!ここから4時間ほどかかるが着いたらすぐにダンジョンに行く。各自馬車の中で打ち合わせをしといてくれ。では、出発するぞ」
前回と同じようにライオットの指示で馬車に乗り、移動を開始する。
ここから4時間か~。
チームも前回と同じで、俺と大介と岸田と岡本だ。ここでライオットが言っていたように、打ち合わせをしようと提案してもまた言い合いになるのが分かったのでもう何も言うまい。
ちらっと馬車の中から外を見ると、朝の7時前だというのに強い日差しが照り付け、木々に付く葉は青々敷く茂っている。
この異世界に召喚されてから二か月程度が経過した。日本にいた頃が6月だからいまは8月頃。この世界にも季節があり、春夏秋冬の四季であらわされ、一年は12ヵ月。日本と同じだ。ただし、日本ほど熱くなければ寒くないらしい。
なので今は8月といっても日本ほどの熱さは感じない。けれど、照り付ける日差しや吹き付ける風の暖かさは完全に夏のそれだ。
(夏だな~~)
などと考えながら時間を過ごし、そして4時間後、ダンジョンに到着した。
「嘆きの洞窟」はそびえ立つ岩盤に出来ており、相変わらず入り口の両サイドには豪華な柱が立っている。しかし、入り口の大きさは前回の「初心の洞窟」と比較にならないくらい大きく、高さは5mを軽く超えている。
「よし!前回と同じく隊列を組み進んでいくぞ。ユウキのチームが最前列でダイスケのチームが最後尾だ。モンスターと遭遇したら止まって冷静に対応。何かあれば騎士団が動くから無茶はするなよ。今日の目標は地下10階層まで行くこと。それから先はその場での判断となるが、出来れば地下15階層ぐらいまでは行きたいと思っている。夜の6時頃にはここに戻ってきて今日は近くの街に泊まる。明日はさらに進んでいき、地下20階層までは行こうと思っている」
入り口の大きさにみんな圧倒されていたがライオットさんの言葉で我に返る。
「じゃぁ、行くぞ!気を引き締めろよ!」
そしてライオットさんを先頭にいよいよダンジョンへの挑戦がスタートした。
地下1階層は正に洞窟と言った感じの構造をしているが「初心の洞窟」とさほど変わりはなく、ところどころに松明が設置されており、明るくて前が見やすい。しかし、道がいくつにも分かれているため慣れないと迷子になりそうだ。
しばらく進んでいくと、その歩みが止まった。前の方でモンスターに遭遇し、戦闘になったようだ。俺らも注意しながら辺りを見回す。すると、後ろから何かが近づいてくる音がした。後ろを振り返ると、
「キシャー」
という叫び声と共に現れたモンスターは、小学低学年程度の身長に緑色の肌、腰にはボロい布を巻き、手には棍棒のような武器、大きく裂けた口に尖った耳。これまたRPGでは定番のモンスター「ゴブリン」だ。
「初心の洞窟」では地下5階層に出てきて、初心者の最初の壁と言われている。だけど俺たちは前回、結構簡単にゴブリンを倒せてしまった。勇者として高いステータスとスキルがあるからこそだな。
そのため今回も慌てることなく冷静に対応する。大介がゴブリンに対して盾を油断なく構え、牽制。俺はその隙に大介の右側に回り、攻撃の隙をうかがう。
と、ゴブリンが甲高い声を上げて大介に突っ込んできた。振られた棍棒を大介は盾でしっかりとガード。怯んだその隙をつき俺は剣をゴブリンに向けスキルを発動。発動するのは《剣術》スキルの《
「お~、真っ二つ」
「この方がやりやすいんだよ」
そう言い俺はゴブリンの魔石を回収する。魔石はどんなモンスターにもあり、街で売れる。が、ゴブリン程度の魔石はそれほど高くは売れない。そしてゴブリンの死体はそのままだ。ゲームみたく消えてくれればいいんだけどそんなことは起きない。本当は《アイテムボックス》なんかのスキルや特殊な魔道具を使ってモンスターを入れるんだけど、今はそんなものはないし、ゴブリンの素材もほとんどお金にならないらしい。
だから放置。そうすれば他のゴブリンがその死体を食べるそうだ。
前を確認すると、どうやらそちらも倒し終わったようで前へと移動していっているのが分かる。左右には、すまし顔の岸田と岡本。俺たちが戦っている最中、岸田と岡本は離れて見ているだけ。この二人、前回のダンジョンの時もそうだったから未だにレベル1のままだ。
大丈夫かよ……こいつら……
そんな俺の不安をよそに二人が前に歩き出したから俺と大介も前に進む。
そんな感じで時折モンスターと戦いながらダンジョンを進んでいく。そして当初の目標の地下10階層に到達した。
地下10階層の一本道を少し進むと円型に開けた場所に出た。ドーム型の造りで東京ドームとまではいかないがかなり広い場所だ。反対側には奥に進むための道が1つだけあり、それ以外にはない。
ここはモンスターが出ることがない安全な場所。いわゆるセーフティーゾーンらしい。地下20階層を超えるような大規模ダンジョンではこういうセーフティーゾーンがいくつかダンジョン内にあるそうだ。
「よし!では30分休憩だ。その後、地下15階層まで行くぞ」
ライオットさんの指示でみんな腰を下ろし、休憩する。ここまで苦労することなく来れたため、先に進む判断をライオットさんはしたのだろう。
「いや~、今回もそんなに苦戦しなかったな」
「まぁ、拍子向けな感じはあるけど……安全なのが一番だな」
「だな~」
大介とそんなことを言いながら「このまま何事もなく終わって欲しい」と願う。
そう願ったからなのか、あるいは今まで順調すぎたせいなのか……
何事もなく終わることはなかった……
それは唐突に突然発せられた。
「あん?なんだ、あれ?」
そう原崎がかなりでかい声で言った。その視線の先には赤黒く光る水晶のようなものがあった。
原崎とその取り巻きである清水と斎藤もその水晶に近づく。
「なんだ?あれは?……あんな水晶、ここにはなかったはずだが」
ライオットさんのそんな言葉を聞いて嫌な予感がする。
「うっわ……なんか気味悪いな」
「なんだ?この水晶?」
「おい和樹、昭。この水晶お宝かもしれないぜ」
「ホントか!?だったら取ろうぜ!」
「見つけたのは俺たちだから俺たちのものだよな!」
そう言い清水と斎藤は地面に埋まっている水晶に手を当て、引っこ抜こうとする。
「おい!お前たち!勝手に触るんじゃない」
ライオットさんの言葉を無視し、水晶を引っこ抜こうとする不良組。
「なんだこれ!?……全然抜けねー」
「くっそ!固て~」
そんな二人を見てニヤリとする原崎。
なんだ?その表情は……まるで何かを楽しんでいるような……
「おい!二人とも変われ。引っこ抜けねぇなら……こうやりゃいいんだよ!」
原崎は剣を抜き、水晶に向かって剣を振り下ろした。
――パリ―ン
と水晶が砕ける音。その音がすると少し欠けた水晶が強く光りだした。
赤黒く不気味な光。それと同時に地面に魔法陣が形成される。このドーム状のフロアの半分以上を覆う途轍もなく大きな魔法陣。
「なっ!!」
ライオットさんが驚きの声を上げる。そして、オタク組は真っ青な顔をしていた。当然だ。ラノベではここでいいことが起きるような展開はない。大抵が最悪の展開になるからだ。
だが、原崎だけは顔をニヤけさせていた。
魔法陣から黒い煙が出てくる。そして、その煙の中から出てきたものにみんな驚愕する。
何物をも怯ませる赤黒い鋭い目つき、そしてどんなものをも噛み砕く強靭な牙に口。体は見上げるほどに巨大で、その手から延びる爪はどんなものをも切り裂き、貫くであろう鋭さ。まるで爪一つ一つが槍のようだ。全身を黒い鱗で覆われており、その鱗は刃を通さないと感じさせる。そして、鱗の色と同じ漆黒の大きな翼を持つモンスター。
RPGでは終盤に出てくる定番のモンスターであり、ある作品では最強のモンスターとして選ばれるほどの強さの象徴とされている存在。
――竜―――ドラゴンだ――
しかも……
「こ、こくりゅう、だと……」
ライオットさんが絶望を混じり合わせた声で呟く。
そう、竜種の中でも最上位とされる竜。
―――黒竜だ―――
「グギyAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
黒竜がその場を破壊させようとするが如く、叫んだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます