第8話 持つ者と持たざる者
初めてのダンジョン攻略から一週間程度経過した。
ダンジョンでのモンスターとの戦闘で得た経験値でレベルが上がったのと戦闘の経験が出来たことは非常に大きく、訓練もより実践的なものになった。
俺は午前中はライオットさんの訓練で、午後からはメアリー先生の授業を受けている。理由は至極単純でスキル的に両方を受けた方がいいと思ったからだ。
そして、現在。時間は朝の8時。ライオットさんの訓練が始まる時間だ。
いつもの訓練場に行きライオットさんが来ると、さっそく訓練開始。初めの頃は武器を振るだけだったが、ダンジョンに行く前はライオットさんとの一対一での訓練。そして、ダンジョンから帰ってきてからは参加メンバー同士での試合形式での訓練。と内容が変わっていった。
毎回ライオットさんが参加メンバーの技量を見極め、的確に対戦相手を決めていく。今日の俺の相手はクラスで桐生とよく一緒にいる陸上部の男子。名前は確か
「今日はよろしく!」
「こっちこそ、よろしく」
さすがリア充組のメンバーの一人。さらっと挨拶してきたな。まぁ、クラスではあまり絡みはなかったけどこうして毎日訓練に参加し、顔を合わせれば嫌でも少しは話する。
「よし!じゃあまずはショウとハルキだ。前に出てこい」
「はい!」
さっそく俺たちか。
俺と木原は訓練場の真ん中に行き、お互いに距離をとる。そこからライオットさんの合図で試合開始となる。
俺の武器は片手剣――もちろん木でできた剣だ――で木原の武器はリーチが長い槍。
戦いずらいな~。
槍は本当に厄介な武器だ。リーチが長く、貫通力もある。戦国時代では実際は剣ではなく槍が主要武器だったらしいし……
なんでそんなこと知ってるかどうかはさておき、どうするか……
「それでは……始め!」
そんなことを考えているとライオットさんの合図がかかり、試合開始となった。その途端、木原が俺に向かって距離を詰めてくる。槍のリーチを生かした先制攻撃。
(さすが……)
木原のステータスはクラスでもかなり上の方。佐々木や西山を上の上とするならば木原は上の中から下の間にいる。
そんな相手からの攻撃に、それほど高いステータスを有していない俺は呆気なく負けると思うがそうはならない。
冷静に槍の軌道を見極め、回避する。
(あぶね~。妄想再現様様だな~)
回避できたのは俺のユニークスキルである《妄想再現》の能力によるものだ。俺はこのスキルを有効に使うために実践式になってから常に使っている。
もちろんこんなスキルを持っていることを悟られないために気を付けながらだけど……
俺は《妄想再現》でスキル《見切り》《俊足》《剛力》の3つを即座に再現し、使用した。今では3つまでは即座に再現できるまでに《妄想再現》を使いこなせるようになっているのだ!
と言うわけで回避をした俺は反撃に転じた。左から右への切り払い攻撃。木原はそれを槍で受け止める。
しばらく攻防が続いたが、お互いに決定打は与えられない。
「くっ!!」
業を煮やした木原が《槍術》のスキルである《
「……そこまで!勝者ショウ!」
「よし!」
木原が勝ったことによりガッツポーズをとる。俺は技を食らったお腹を押さえながら立つ。するとすぐに木原が駆け寄ってきて、
「お疲れ。大丈夫か?」
と言ってきた。さすがリア充組!気が利くな。
「ああ、大丈夫」
「いい試合だったぜ!」
そう言って去っていった。まぁ、俺もいい試合だったよ。言わないけど……
俺は勝つことが目的じゃない。目的は目立つことなくユニークスキルである《妄想再現》を使いこなせるようになることだ。
この《妄想再現》こそ俺の最大のアドバンテージ!!だからこそ俺はこのスキルを使いこなすことに全力を注いでいるのだ!!
俺は真ん中の位置からニヤリとしながら退場し、そんなことを考えた。
…………
…………いや!!!なんなんだよ!!!そのキャラ!!!!
完全に実力を隠して生活してるキザ主人公じゃん!!!!!
いや、実際にスキルは隠してるんだけどな!!!
やっっべ!!ここ最近ずっと《妄想再現》を使っていたから中二病時代のキャラにだんだん戻ってね!?
こんなところで弊害がぁぁああ!!!
と俺が悶絶している間にも訓練が進んでいき、あっという間に午前中の訓練が終了した。
「はぁ~~」
「どうしたの?朝比奈くん」
今はメアリー先生の訓練の時間。最近は魔法メインになっているので、城の外での訓練になっている。訓練中、ため息をついていた俺に佐々木が心配して声をかけてきた。
上目遣いがかわいい。
いや、じゃなくて。俺が中二病だったことは絶対に知られちゃいけない!!絶対引かれる……
「い、いや、なんでもないよ」
「そう……困ったことがあったら何でも言ってね」
「うん。ありがとう」
そう言って満足したのか佐々木は魔法の訓練に集中する。俺もそれにならい余計なことは考えずに訓練に集中する。
ちなみに俺の現在のステータスは、
名前 朝比奈 春樹
性別 男
年齢 16
Lv 5
HP 225/225
MP 150/150
攻撃力 108
物理防御力 98
魔法防御力 92
敏捷性 87
魔法力 107
運 30
スキル
《勇者》《武器強化》《魔法強化》《剣術》《火魔法》
ユニークスキル
《妄想再現》
称号
【架空の勇者】
こんな感じだ。レベルはこの間のダンジョンで上がってステータスも少し伸びた。《剣術》スキルはライオットさんの訓練で、《火魔法》はメアリー先生の訓練で習得した。
《妄想再現》で再現すればいいだけだけど、やっぱり自分で努力して習得できるのは嬉しいし、《妄想再現》は再現の限界があるから自分でスキルを習得しておいて損なことはない。
こんな感じで訓練の時間はいつも通りに過ぎていった。
そう、訓練の時間は。だ。
問題が起こったのは訓練が終了し、夕食まで自由時間になった時。正確には午後5時を少し回ったタイミングだ。
俺は大介と一緒に少し外に出ていた。
「なんで外に出なきゃいけないんだ?」
「いいじゃねえか。お前ここ最近、休みの日は図書館に籠りっぱなしみたいだしな……図書館に何の用なんだ?」
「いや、別に……調べ物があるだけだよ」
半分くらいは本当。もう半分は佐々木にたまに会えるからって理由だけど。
「で、何の用だよ……」
「いや、別に用ってわけじゃ……」
その時、ドンッ!!ボンッ!!ていう音がした。
「なんだ?」
なにかを殴るような。魔法で攻撃するような音だ。
何かと思い大介と音がした方向に行く。そこは庭の奥。正面からは見えないような場所だった。すると、少し先に不良三人組が見えた。だけど、様子がおかしい。
「おらおらおら!!どうした?おら!!」
「こいつ弱すぎだろ!」
「それでも勇者か?こいつ」
その声が耳に入った瞬間に分かった……誰かがいじめられてるって。
「……っ!!大介!!」
「ああ!!」
大介が走りながらスキル《盾術》の《クリアシールド》を発動する。これは任意の場所に透明な盾を出現させ、物理攻撃を防ぐスキルだ。
それを今まさに訓練用の剣を振りかざした原崎の前に出現させる。
――ゴーンッ
という鈍い音。
「おい!!お前ら!!なにやってんだ!!」
その音が鳴りやむと同時に大介が原崎たちの前に立つ。大介が原崎たちの相手をするなら俺は原崎たちにいじめられていた奴のもとに行く。
……っ!!やっぱり佐藤か……
いじめられてたのは西山の幼馴染で勇者の中で最低ステータスを持っている佐藤剣斗だった。
「佐藤……大丈夫か?」
「……うぅ」
声がしっかり上げられず、意識ももうろうとしている。やばいな……
俺は《妄想再現》で《回復魔法》のスキルを再現。そして《回復魔法》の上位魔法である《エクストラヒーリング》の魔法を佐藤に向けて発動。俺がここ最近、図書館に籠っていたのはこれが理由だ。
通常、自分が覚えたスキルはその使い方を熟知していないと上手く扱うことが出来ない。特に複数スキルの場合は習得して最初から上位のスキル・魔法が使えるわけじゃなく、そのスキルを使っているうちにだんだん使えるようになる。
おそらく熟練度のようなものが目に見えない部分でカウントされているんだろう。でも《妄想再現》で再現したスキルにはその制約がなく、初めから上位のスキル・魔法が使える。
それを知った俺は図書館に籠り、ひたすらスキルと魔法に関する本を読んでいたんだ。
まぁ、そんなことでとりあえず佐藤はこれで大丈夫だろう。
「おい!お前ら!!これはどういうことだよ!!」
大介がこんなに声を荒げるのは珍しい。相当怒ってるってことだ。
だけど、それは俺も同じだ。今まで原崎たちは暴言は吐いても、暴力を振るういじめはしてこなかった。
しかし、今回のは違う。明確に暴力を振るう意思があった。いじめというものを楽しんでいた。
「あぁ?会津じゃねぇか。邪魔すんじゃねぇよ!お前には関係ねぇだろ!!」
「関係あるね。佐藤はクラスメイトだ。こんな現場を黙って見過ごすことは出来ねぇ」
「はっ!!正義のヒーローごっこしてんじゃねぇよ!!第一、こいつはクラスメイトなんかじゃねえ……ただのゴミだ」
「ゴミだと……」
「そう、ゴミだ!勇者の癖にステータスは最底辺でスキルも全く覚えない出来損ない。そんなのはゴミだ……人間じゃねえんだよ!」
「お前……っ!!」
大介が我慢の限界を迎え、戦う体勢をとる。
「聞いてるぜ会津。お前入学早々、三年の先輩ボコって病院送りにしたそうじゃねぇか」
「……っ!!」
―――違う。それはあの先輩が勝手に広めたデマだ。大介は一切手を出していない。それを俺はよく知っている。
「あ~あ、怖い怖い。言葉で解決できなかったらすぐに暴力か?最低だなお前は……クズだよ!クズ!!」
こいつっ!!……言わせておけば……さっきは自分たちが暴力を振るってたくせに……
「おい!お前ら……!!」
俺も我慢できずに原崎に殴りかかろうとするが逆に冷静になった大介に止められる。
「春樹よせ」
「だけど……」
「ここでこいつらを殴っても何も変わらないし、そんなことをしたらこいつらと一緒だぞ」
その言葉で我に返る。そう、暴力は結局振るった者が悪いのだから。
「おい、お前は朝比奈だったか?なんだよ、教室にいた時よりえらく元気じゃねぇか?あぁ、なんだ?勇者になってイキってんのか?」
「イキってるわりに手出さないとか、とんだチキン野郎だな」
「ダッセ!!こいつクソダセェ!!」
ゲラゲラ笑いながら俺を馬鹿にしてくる原崎たち。ちらっと大介が俺のことを見てくる。
……分かってるよ。何言われても気にしなきゃいいんだろ。
分かってる。と伝えるために大介を見る。それが伝わったのか大介は俺を見るのをやめ原崎たちを見る。
「あ~あ、笑ったらなんか気変わったわ。お前ら行くぞ」
そう言って原崎たちは離れていく。見えなくなったところで佐藤に声をかける。
「佐藤、大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫。ありがとう」
そう言って立ち上がり、ここから離れようとするがフラフラだ。怪我と体力は回復しているが頭が追いついてない。
「おい、フラフラじゃねぇか。少し休めよ」
「大介の言う通り、休んだ方がいいぞ」
「……うん」
ここから少し南の風通しのいい場所に移動し、座って一休みする。
「そういや、春樹。お前回復魔法使えたのか?」
「え?……あ、あぁ、ついこの間 《回復魔法》のスキルを覚えたんだ」
「へ~、すげぇじゃねか」
本当はスキルを再現しただけだけどね。
「僕を回復してくれたのは朝比奈くんなんだよね。本当にありがとう」
「どういたしまして……それより、なんでこんなことになったんだ?原崎って今まで佐藤に絡んでくることはあっても暴力に出ることはなかっただろ」
「う、うん……それが、ここ最近、楓が夜に僕の部屋に来て魔法を教えてくれてるんだ。だけどそれが原崎くんたちに伝わったみたいで……」
「はぁ?なんだよ、嫉妬丸出しのただの八つ当たりじゃねぇか。ダセェのはどっちだよ……なあ、佐藤。さっき原崎たちがお前にしたことはいくら何でもやり過ぎだ。しっかりライオットさんに報告して、処罰してもらわないと……」
「それは……」
「大介の言う通り、あれは明らかにやり過ぎだ。しっかり言った方がいい」
訓練用の剣で痛めつけ、さらに魔法で攻撃。俺たちが駆け付けた時には意識がもうろうとしていて、半殺し状態だった。やりすぎにもほどがある。
「二人とも心配してくれてありがとう……でも、僕は大丈夫だから……」
「……佐藤。強がってるだけならやめときな。それは強がりじゃ……」
「強がってないよ……」
「だけど……」
「大丈夫だからっ!!」
「……っ!?」
佐藤にしては珍しい叫びに俺も大介もびっくりした。
「僕は大丈夫。このことは誰にも言わないで……とくに楓には……絶対に」
その佐藤の目は強がっている目じゃなく、覚悟を持っている奴の目だった。その目を見て俺も大介もニヤッと笑う。
「わかった。俺らはもう何も言わねぇ。ただしばらくは一人になるな」
「会津くん……」
「困ったことがあれば俺か大介に言えよ。西山には知られたくないんだろ」
「朝比奈くん……」
「春樹でいいよ」
「じゃあ俺も大介で」
「……っ!!分かったよ。ありがとう、大介くん。春樹くん。僕も剣斗でいいよ」
「くん」はいらねぇよ。と大介は言いながら握手をする。俺も……
この日を境に剣斗と一緒にいる時間が増えたため原崎が何かを仕掛けてくることはなかった。
だがこの時、城の二階から春樹たちを見ている者がいることを春樹も大介も剣斗も気が付かなかった……
―――数日後……
「くっそ!!」
原崎が城内を苛立ちながら歩く。ここ最近はずっと苛立っている。
「あのゴミ!!最近ずっと誰かと居やがる!!」
その苛立ちの原因は佐藤剣斗だ。ここ最近は一人でいることは少なく、いつも誰かといる。だからいじめることが出来ない。
いつかは殺す予定だ。だが今はまだ殺せない。
原崎はまだライオットに勝てるだけの力は身に着けてないからだ。
佐藤は最後にと思っていたが、ダンジョンから帰ってきてからは西山と夜ずっと部屋で魔法の訓練をしている。その事実が原崎には耐えがたいものだった。
「あのゴミ!!俺の西山に対して馴れ馴れしいんだよ!!クソがっ!!」
……やっぱり、あの時にもっと絞めとくべきだったか?
数日前、城の裏庭の死角になっている場所に上手く佐藤を誘い出し、ボコボコにしたときのことを思い出していた。
あの時の佐藤の顔。あの時の快感。それは原崎にとって忘れられない快楽だった。
「あいつらさえ邪魔しなければ……っ!!」
気分が良くなってきたときに乱入してきた二人。
「会津と朝比奈。この俺様の邪魔しやがって……あいつらも殺すの確定だな」
クククッ……と一人で笑っていると、
「随分と苛立っていますな。勇者様」
「……っ!!誰だ!?」
原崎が声のした方を振り向くと、そこには60代くらいの白い髭を生やした男がいた。
「てめぇ!俺の言ってたことを聞いてやがったのか!だったら……」
「落ち着いてください、勇者様。私はあなたの味方です」
「味方だぁ……?」
「はい、私は…………といい、この王家に古くから仕える貴族です。こう見えてもこの国ではかなりの権力を持っているのですよ」
「それがどうした?……ただの貴族が調子に乗んじゃねぇよ!」
興味がない。と言う風に立ち去ろうとするが。
「憎くないですか?サトウ・ケントを……」
「なに?」
その男の一言で立ち去る足を止めた。
「あなたは力を持つ勇者。サトウ・ケントは力を持たざる勇者……そんな彼があなたと対等の立場にいるのですよ……憎くないですか」
……対等だと……俺があのクズと……?
ふざけんじゃねぇぞ!!あんなゴミと……!!!
不意に脳裏に佐藤と西山が部屋で楽しく過ごしている妄想が浮かんでくる。
「あのクソ野郎っ!!!」
「わたしなら……あなたに協力できますよ」
「なに?」
「先ほども言いましたがわたしはこの国の権力者。わたしがあなたに協力します。なにせあなたは特別な力を持つ者。対してサトウ・ケントは持たざる者ですから」
「へ~、良くわかってんじゃねぇかじじい……俺の協力者にしてやるよ」
この男の言葉にまんまと乗せられ、自分はこの国を味方につけた。と思いこんでいる原崎。
そんな原崎にはこの男がその赤い瞳を輝かせ、気味の悪い笑みを浮かべているなど、分からなかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます