第10話 妨害に次ぐ妨害
「グギyAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
その咆哮にその場に居たほぼ全ての人が怯み、動けなくなる。
―――絶望
その言葉が瞬時に出てくる。人である以上絶対に勝てない存在。それが目の前の黒竜。
そう思わせる姿。風格。
黒竜がその巨体を動かし、こちらに近づいてくる。だが俺も、みんなも動けない。
「……っ!!全員、逃げろーーーーーー!!!!」
ライオットさんの怒号が飛ぶ。その声でようやく金縛り状態から解けた女子の一人が叫んだ。
「きゃああああああぁぁぁぁあああああ!!!!」
「うああああああああぁぁぁあぁ!!!!」
その叫びを気に、一斉にこのフロアから出るための出口に駆け出す。
出口に近い人はいい。だが、遠くにいた人は出口までかなりの距離があり黒竜の攻撃を受けてしまう可能性がある。
「くっ!!」
それに一瞬で気が付いたライオットさんが黒竜に向かって攻撃を与える。
「破壊斬っ!!!!」
《剣豪》スキルの中でも上位のスキル《破壊斬》を使用。ライオットさんの剣が眩いばかりに輝き、剣を振るう。
―――ゴウッ!!!
という轟音と共に斬撃が黒竜に向かって飛んでいく。どんなに硬いものでも破壊してしまう超高攻撃力の斬撃だ。
だが……
――ガーーンッ
黒竜にその斬撃が当たり後ろに退かせることは出来たが、その漆黒の鱗に防がれダメージを与えられていない。
「くっ!!」
だが、黒竜の意識はライオットさんへと向いた。そこでライオットさんは俺たちが逃げている方向とは逆の方向に移動する。
「団長!?」
それに気づいた騎士団の人がライオットさんに加勢しようとするが、
「駄目だ!!来るんじゃない!!!」
「しかし!!」
「今は勇者たちを守ることを優先しろ!!勇者たちはこの世界の希望だ!!ここで全滅などはあってはならない!!」
「……わかりました」
そう言い、騎士の人は勇者たちのところへ行く。それを見たライオットさんは再び黒竜に攻撃を与える。
「《鬼人》!!《連撃斬》!!」
ライオットさんの目にもとまらぬ連続攻撃が黒竜に炸裂する。しかし、黒竜はその攻撃をものともすることなくライオットさんに迫り、爪での薙ぎ払い攻撃を仕掛けた。
「グギyAAAAAAAA!!!」
「くっ!!」
ライオットさんはギリギリで攻撃を回避し、距離をとる。
そんな攻防を繰り広げ、黒竜の注意をひいてくれたおかげで大半の人達は出口に避難できていた。恐怖にかられ先に上に逃げた奴も何人かいたけど騎士団の人達がついて行ってくれたから大丈夫だろう。
俺も、もう少しで出口のところまで到着する。というところで、悲鳴が発せられた。
「剣斗っ!!!」
それは西山から発せられた悲鳴だ。振り返ると剣斗が黒竜の近くで立ち止まったまま動かないでいる。今はライオットさんが注意をひいてくれているから攻撃は飛んできていないが、いつ攻撃されるか分からない。
「何やってんだ!剣斗!!早くこっちにこい!!」
それに気が付いた大介も大声で叫ぶ。だが、
「う、うごけない、ん、だ……」
なんだ??………っ!!
よく剣斗を見ると足に何かが絡みついており、動けない状態だということが分かる。
くっそ!!あのままじゃ剣斗がやばい……
俺は剣斗に向かって走り出す。こんなことらしくないって自分でも思うけど……でも、剣斗がこのまま死んでしまうと悲しむ人が出てくる……絶対に……だから……
「あ、おい!春樹っ!!……くっそ!!」
「……っ!!」
「あ、朝比奈くん!?楓ちゃんっ!?」
俺に続き、大介、西山、佐々木も剣斗に向かって飛び出した。その瞬間もライオットさんが戦ってくれているが限界が近そうだ。急がないとやばい……そう思ったとき
「ぐっっ!!!」
唸るような悲鳴。ライオットさんだ。ついに黒竜の攻撃をもろに食らってしまい、壁に激突した。
ライオットさんが倒れたことにより、黒竜がこちらを向く。剣斗に向かって走っている俺たちと目が合った直後、黒竜が何かを吸い込むような動作をした。
まずい……
「ブレスだ!!大介!!」
「……っ!!」
俺は瞬時に《妄想再現》で《俊足》を再現。そして《疾走》のスキルを使いブレスの範囲から脱出。俺の声に反応した大介は《盾術》のスキル《マジックシールド》を発動。大介と西山、佐々木を守るように青色をした盾が現れる。
そして……
―――ゴゥゥーーーーーーー!!!!
という轟音と共に灼熱の炎が黒竜から放たれた。
「くっ!!!」
大介が使った《マジックシールド》はその名の通り、魔法系の攻撃を防ぐスキルだ。しかし、黒竜のブレスのあまりの威力に盾にひびが入り、砕け散った。
「ぐわぁぁっ!!!」
「「きゃぁぁっ!!!」」
三人が熱風と風圧により吹き飛ぶ。しかし、《マジックシールド》でほとんどブレスの威力を相殺できていたのか大したダメージは入っていないようだ。
三人は大丈夫!今は剣斗だ!
俺は《疾走》をフルに使い、剣斗のもとにたどり着く。
「大丈夫か!?剣斗!!」
「は、春樹くん。大丈夫だけど、足が……」
剣斗の足を見ると、地面から生えている土で出来た鎖のようなものが巻き付い
ていた。
「こ、この鎖、僕の力じゃ切れなくて……」
その鎖を見て俺は原崎の顔が思い浮かぶ。なぜならこんなことが出来るのはスキルだけだからだ。剣斗を事故でもなく、偶然でもなく、確実に殺そうとしている。そんなスキルの使い方……
―――っ!!今はそんなこと考えてる場合じゃない!!
すぐに俺は《妄想再現》で《水魔法》を再現。魔法には属性によって有利不利があり、土に強いのは水。なので《水魔法》の《ウォータースラッシュ》を発動させ、鎖を断ち切る。
「よし!これでいける!立てるか?」
「う、うん」
後は逃げればいい。だが、遅かった。
「っ!!!」
すでに黒竜はすぐそこに居たからだ。黒竜が右腕を振り上げる動作をする。
―――まずい……
圧縮されていく時間。黒竜の動きがやたら遅く見える中、俺には恐怖の感情が渦巻いていた。
―――やばい……
確実に、的確に。その腕が俺に向かってきているのが分かる。
―――このままじゃ、死ぬ……
そう思った瞬間 《妄想再現》で《硬質化》のスキルを再現し、《硬化》のスキルを使用。
その直後、
「がっ!!!」
とんでもない衝撃が俺を襲い、吹っ飛んだ。一回、二回、三回とバウンドし、地面を転がる。
――なんなんだよ!?この攻撃力は!?
《硬化》のスキルを使ってなお、ダメージがそれを貫いて襲ってくる。
「ぐっ!!」
顔を剣斗の方に向ける。すると今度は黒竜が左腕を振り上げた。
やばいっ!!いまの剣斗じゃ、黒竜の攻撃を防げない。食らえば確実に致命傷だ。
剣斗が絶望の表情を浮かべる。
―――いや、まだだ!
ある。可能性が。
剣斗のステータスは他の勇者と比べてあまりにも低すぎる。だからこそある可能性。
―――覚醒しろ!剣斗!!
勇者としての真の力の解放。覚醒。
それが剣斗にはある可能性がある。自分の死の直前。絶体絶命な状況。そんな状況でこそ覚醒するのが定番だろ。
―――いけ!諦めるな!!覚醒しろ!!!
そんな思いは無情にも打ち破られた。
「がhっ!!」
黒竜の爪に貫かれ、剣斗から声にならない声が上がる。
飛び散る鮮血。黒竜は腕を振るい、貫いた剣斗を放り投げた。地面に叩きつけられ、その周りには血が大量に巻き散る。
「剣斗っ!!!!!」
西山から絶叫にも似た悲鳴が上がり、剣斗のもとに向かっていく。
くっっっそがぁ!!!!覚醒しないのかよ!!!!
俺も立ち上がり剣斗のところに向かう。運が良かったのか剣斗が貫かれたのは頭や心臓といった即死するような急所ではなくお腹だ。なら回復魔法で直せる。
「フラッシュ!!!」
俺は追撃しようとしている黒竜に向かって《妄想再現》で再現した《光魔法》の《フラッシュ》を使用。黒竜の目の前に強烈な光が現れる。
「グギyAAAAAAAA!!!!!」
光りにより目がくらんだ黒竜は一歩、二歩と後退。今がチャンスだ。
「佐々木!!剣斗を回復してくれ!ある程度でいい!!大介はみんなを守りながら剣斗が回復したら背負って出口まで走ってくれ!!その間の時間は俺が稼ぐから!!」
「わかった!」「うん!」
という頼もしい声を聞いて黒竜と対峙する。まだ黒竜は目を開けれていない。
俺はすぐに次に使うスキルを妄想する。別に黒竜を倒すわけじゃない。逃げるまでの時間稼ぎをすればいいだけだ。
なら……
【妄想再現の条件が達成しました】
【スキル《重力操作》を再現します】
例え黒竜でも逆らえない、重力で足止めすればいい。
「グラビティプレス!!!」
黒竜に向けスキル《グラビティプレス》を発動する。かなりの重力がかかり黒竜が地面に叩きつけられる。
「グギyAAAAAAAA!!!!」
黒竜が重力に逆らい必死に起きようとする。地面がひび割れ、クレーターを作る。が、起きれない。
よし!!黒竜の動きは止めた。
後は回復を待つだけ。だが、
「グギyAAAAAAAAAAAA!!!!」
黒竜がとんでもない咆哮と共に起き上がろうとする。
―――っ!?なんつー力だよ!?
少しでも気を抜けば《グラビティプレス》が破られてしまう。それほどまでの力だ。それを必死に抑え込むが……
やばい……破られる……
その時、
「はぁっ!!!!」
ライオットさんが黒竜の頭上からスキルを発動し、黒竜を再び地面に叩きつける。
「ライオットさんっ!!」
「すまない……お前たちを、守り切れなかった」
「いえ……」
ライオットさんはそう言うが、黒竜相手にたった一人で戦い、50人もの人たちが逃げる時間を稼いだのは本当に凄まじいことだ。それにライオットさんの顔からは血が流れており、鎧もところどころひび割れ、壊れているところもあり、その戦いの凄まじさが理解できる。
「朝比奈くん!!佐藤くんを回復させたよ!!」
「……っ!!大介!剣斗を背負って出口まで行け!!俺も後から行くから!!」
「…………、わかった!!」
何か言いたそうだったけど、しっかりと返事をした大介たちが剣斗を背負い、出口に向かう。
「ライオットさんも行ってください!!」
「バカ言え!お前を置いて行けるか!!」
「その怪我で黒竜と戦えますか!?」
「……っ!!」
ライオットさんの今の状態を見る限り、黒竜を相手にまともに戦うことは出来ない。ここは引いてもらわないと。
「俺は大丈夫です!それに今、ライオットさんが死ぬと俺たちの訓練は誰がやるんですか!みんなにはライオットさんが必要なんですよ!騎士団の人達にも……」
「わかった……」
ライオットさんが引き下がってくれて出口へと向かってくれた。
―――よし!後は俺も出口に向かうだけだ。
この《グラビティプレス》は強力だが使用中は動けないというデメリットもある。だから一旦 《グラビティプレス》を解除。
もう隠していてもしょうがない。俺は《妄想再現》の力をフルで使う。《妄想再現》で再現した《水魔法》と《光魔法》を解除し、新たに《土魔法》と《魔法威力増加》のスキルを再現する。
「《ロックウォール》!!」
土魔法で黒竜の周りに円型に土の壁を作り出し、閉じ込める。元々俺には《魔法強化》のスキルがあったからそれに《魔法威力増加》のスキルも合わせてかなり強靭な壁が出来た。
―――これで時間を稼げる
全力で《疾走》を使用し、出口まで走る。大介と剣斗、西山、佐々木と出口まで到着。ライオットさんもその後すぐに出口まで到着した。
―――後は俺だけ!
「朝比奈くん!!早く!!」
佐々木のその声で足に力が入り、より早くなる。
もう少し!あと少し!!
あと一歩、というところまできて俺の目の前に突然土の壁が現れた。
「は??」
直後、ドーーーンという衝撃。俺は壁に激突し、その場に倒れる。
「いっっ!!!なんだよ!!」
勇者としてのステータスのおかげか怪我はたんこぶ程度だったけどそれでも痛い。痛みが走る頭を押さえながら出口を見ると土の壁で防がれていた。
「これは土魔法の《ロックシールド》……」
これで確定だ。これは明らかに魔法での妨害。思えば剣斗の足に絡みついていたのも土魔法の一種。つまりこれを引き起こした人物は剣斗の動きを止めていた奴と同一人物ということだ。
「グギyAAAAAAAA!!!!!!!!」
黒竜の咆哮。後ろを振り向くと黒竜が無理やり俺の《ロックウォール》をぶち破った光景が目に映った。そして、その残骸が俺の場所まで飛んでくる。
やっっべ!!そんなこと考えてる場合じゃない!!!
このままだと土に押しつぶされる。《疾走》を使い、右側に回避。
ズドーーーーン!!!
という衝撃と共にさっきまで俺のいたところに巨大な土の塊が降ってきて完全に出口をふさいでしまった。
「くっっっそ!!!」
やばい!!かなりやばい!!
出口が塞がれ黒竜と一対一の状況。定番のパターンだけど相手が悪すぎる。
反対側にある地下11階層に行くための道に逃げれば可能性があるか?
そんなことを考えていたその時、地面から爆発音がした。
「今度はなんだよ!?」
その後、地面がバキバキバキとひび割れ、そして崩落した。
「うっっそだろ!?」
一瞬の浮遊感。そして、一気に下に落ちていった。
「っ!!!ここまでして!!!!」
完全に狙ったようなタイミングの崩落。こんなことが自然に起こるなんて考えられない。
そう言えば黒竜は?
そう思い頭上に意識を向けると黒竜はその漆黒の翼を広げ、飛んでいた。
いや、そりゃ飛ぶよな。竜だし。
このままどっか行ってくれればいいんだけどそうはいかない。黒竜は唯一の獲物の俺に向かって飛んできた。
「追ってくるよなっ!!」
このままだと黒竜に食われるか、地面に激突して死ぬかだ。そのため急いで《妄想再現》でスキルを再現する。
「朝比奈くん!!!!」
春樹が後一歩で到着というところで目の前に土の壁が現れた。
「なっ!!!」
どうなっているんだ!?なんで!?
ライオットがそんなことを考えているところにズドーーーーンという何かが落ちるような音がした。
「ライオットさん!!!早くその壁を壊してください!!」
「っ!!ああ、わかった!!」
大介に言われ考えるのをやめ、ライオットは剣を抜き、スキルを発動した。
「《破壊斬》!!」
ライオットの剣撃が壁を壊す。だがそのさらに奥にも土の壁があった。
「……っ!!《破壊斬》!!」
もう一度スキルを使う。だが、その壁は先ほどの壁と違い破壊できなかった。
「なんだ、あの土は。硬さがまるで違う……」
それは春樹が黒竜を止めるために全力で作った土だ。ここにきて運の悪さが出た。
「ライオットさん!!もう一度!!」
「すまん。無理だ。俺にはあの土は壊せない」
「そ、そんな……」
佐々木が絶望の入り混じった声で呟く。だが、諦めない。
「な、なら、ダンジョンの壁を!!」
「駄目だ!そんなことをすれば崩落の恐れがある。そんなことになれば全員生き埋めになるぞ」
その直後、ドーーーーーーーンという今までにない轟音が響き、そして地面が割れだした。
「いかん!!このままでは崩落する!!早く上に上がるんだ!」
「ま、待ってください!!まだ朝比奈くんが!!」
「…………っ、すまない」
ライオットが暗い表情で呟く。そんなライオットを見て、佐々木は悟った。もう、春樹は助からないと……
「そ、そんな……朝比奈くん……いやーーーーーー!!!!!!!いやーーーーーーー!!!!!」
「唯香!!」
発狂する佐々木を抱きしめる西山。だが、そんな中にも崩落が近づいている。
泣き叫ぶ佐々木に近づいたライオットは佐々木のお腹をパンチして気絶させる。
「ライオットさんっ!?」
「このままじゃ危険だ!とにかくダンジョンを出るぞ!分かってくれ……お前たちまで失うわけにはいかないんだ!!!」
そんなライオットの拳は震えていた。自分の不甲斐なさに。何もできない虚しさに……
それが大介にも西山にも分かった。だからこそ何も言うことが出来なかった。なぜなら自分たちは黒竜に対してライオット以上に何もできなかったから……
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