第6話 縮まる距離


 ――異世界召喚――勇者召喚――



 そんなラノベのような出来事が俺たちに起きてから一週間ほど経過した。その間俺たちはひたすら武器を扱うための訓練とこの世界の知識やスキル・魔法のことについての座学を中心に勉強していた。



 最初はハードな訓練に全員がグロッキー状態になり余裕がなかったが一週間経つと大分慣れてきて余裕ができ始めた。



 それを見たライオットさんが一日休日を提案し、今日は訓練も座学もない休日になった。



 みんなはそれぞれ二度寝したり、部屋でくつろいだり、何人かで集まってお茶会なんかを開いたりと休日を満喫していた。



 そんな中、俺はユニークスキルのことを調べるために王城内の図書館に来ていた。



 図書館は王城一階の中央奥にあり、王城内にいる人であるなら自由に出入りできる。しかし、入り口にある受付でチャックは受けなければいけないのでまずは受付に行く。



 受付には中学生か?と思うぐらいの女の子がいた。赤い髪にメガネ……メアリー先生に似てるなって思う女の子だ。



「すいません、図書館使いたいんで受付いいですか?」



 女の子は俺のことをチラッと見て引き出しから紙を一枚取り出した。



「……ここに名前かいて」



 と言われ紙を渡された。この世界の言葉は日本語ではないが、なぜかこの世界の言葉が分かり書くことが出来る。異世界召喚の特典の一つだな。



 名前を書く欄に「アサヒナ・ハルキ」と名前を書き渡すと受付の女の子に「自由に見ていいよ」と言われたので目的の本を探す。



「にしても凄いな~。めちゃくちゃな本の数だぞ」



 日本にある図書館と同じくらいの本の数。この中から目的の本を探すのは骨が折れそうだが、本がしっかりと区画わけされ、整えられていたため割とすぐに見つかった。




 目的の本を三冊ほど手に取って席に着く。持ってきた中の【スキル・魔法について】という本を読む。



 初歩的なことを書いてある本だけどこれに何か書いてあるかもしれないしな。



 ――スキルとはその人が持っている能力のこと。そのスキルには主に二つの種類がある。「単一スキル」と「複数スキル」だ。



 単一スキルはそのスキルの能力をそのまま使用することの出来るスキル。例えば《鑑定》や《索敵》なんかのスキルがこれに該当する。



 複数スキルはそのスキルを持っているとその系統のスキル・魔法を使用することの出来るスキルのこと。《剣術》や《魔法》系のスキルがこれに該当する。



 複数スキルのスキル・魔法を使う場合はMPを消費する。しかし、単一スキルの場合はMPを消費しない。




 ――魔法は《魔法》系のスキルを持っている人が使えるスキルの一種。攻撃や防御、回復など様々な効果を及ぼすことが出来る。


 使用する魔法により及ぼす効果が変わり、使用する魔法の効果が高ければ高いほど消費MPが多くなる。




 複数スキルの《魔法》系のスキルの使用は魔法と称されるが《剣術》などのスキルはそのままスキルと称される。














 まぁ結果的にメアリー先生が教えてくれたような本当に初歩的なことが永遠に書いてあっただけだった。



 ――おし!次!



 と読み進め、持ってきた本を全部読んだけど、ユニークスキルのことについては分からなかった。



「ふ~~、やっぱりそう簡単には分からないか」



 まぁ、勇者でさえ一人しか持ってないんだ。珍しいどころかユニークスキルの存在自体が知られてない可能性がある。



 だとしたら、もう調べようがないぞ……



 どうしようかと悩んでいる時、隣から声をかけられた。



「ねぇ、朝比奈くん。隣、いい……?」



「え……?」



 俺は声のした方向に顔を向け、そして固まった。



 そこには俺の好きな人である佐々木唯香がいたからだ。












 …………なんで?










「あの……?」



「ああ、ごめんごめん。うん、いいよ。全然、隣」



「ありがとう」



 片言になった俺の了承の言葉を聞いて佐々木が満面の笑みを浮かべ隣に座った。




 ――いや、緊張するんですけど!?



「ねぇ、朝比奈くんは何で図書館に来たの?」



「え?ああ、俺はスキルについて調べに来たんだよ……佐々木は?どうして図書館に?」



「私も似たようなものだよ……ほら、私って攻撃魔法よりも治癒魔法や補助魔法の方が得意でしょ。だから専門的な知識がいるかな~~って」



「なるほどね」



 佐々木が持っているスキル《賢者》は複数スキルの一種で攻撃魔法も習得できるが大半は治癒・補助の魔法だ。そのための本を読みに来たのか……相変わらず真面目だな~。



「で、その~私一人だとサボっちゃいそうだから……一緒に勉強しない?」



「え?……佐々木はサボることはなさそうだけど、いいよ」



 むしろ大歓迎です!



「ほんと!?ありがとう!」



 満面の笑みでお礼を言われた……その笑顔、反則過ぎね?




 それから二人で、席は隣同士で本を読む。




 ――ペラッ―――ペラッ




 そんな本のページをめくる音。お互いの息遣い。それがその場を支配する。現在、図書館には俺と佐々木の二人だけ。それがさらに雰囲気を作り出す。少し隣に意識を集中すると女の子特有のいい匂いがしてくる。









 いや、いやいやいや




 なにこれ!?




 めっちゃドキドキするんですけど!?




「ねぇ、朝比奈くん……」




「う、うん?なに?」



「この魔法ってどういうことか分かるかな?」



 そこに書かれていた魔法は【ストレングス】と【エクストラダメージ】の魔法。どちらも補助魔法で攻撃の威力が上がる魔法だ。



「この二つの魔法って同じじゃないの?」



 ああ、そう言うことね……なるほど把握。



「似ているようで二つは全く別物の魔法なんだ」



「別物?」



「そう……まずは前者の【ストレングス】。これは攻撃力を上げる魔法だけど、物理的なもの、主に筋力を増加させるんだ」



「筋力を?」



「そう、力が上がればパワーが上がる。例えば重いものを持つときに使えば軽々持てるようになるし、この魔法を使った後にパンチをすればいつも以上の威力が出る……筋力のことを英語で【Strength】って言うだろ?そこから転じてゲームなんかでは【STR】って略されて主に攻撃力のことを指すんだよ」



「へ~、そうなんだ」



「そして後者の【エクストラダメージ】。これも攻撃力を上げる魔法だけどさっきの【ストレングス】とは違い、主に攻撃魔法に作用されるんだ」



「攻撃魔法に?」



「そう、例えば火魔法に使えば火の熱量が上がったりするし、爆発系の魔法に使えば爆発の範囲が広がったりする。つまり物理的に強化するのが【ストレングス】で魔法的に強化するのが【エクストラダメージ】……二つとも似てるんだけど及ぼす効果は全く違うんだ」



「そうなんだ……ありがとう!朝比奈くんって物知りなんだね!」



「い、いやそれほどでもないよ……どういたしまして」



 中二病時代の知識ですけどね……でも、それで佐々木の役に立ててるのならいいかな。



「そ、そのまだ聞いてもいいかな?分からないことがあるんだけど……」



 佐々木が申し訳なさそうに聞いてくる。上目遣いで……




 いやいやいや、反則だろ……それは……



「かわいい……」



「え?……」



 何かと限界にきていた俺はボソッとそんなことを言ってしまった。



「あ、いや、あの、これは……」



 いや、やばいやばいやばい!!なに口走ってるんだ俺は!!絶対いやらしいこと考えてるって思われたよ!!!



「あ、あの……ありがとう……」



「う、うん」



 そんな消え去りそうな、お互いに聞こえるくらいのギリギリの声で言った。










「…………」「…………」





 そして訪れる静寂。お互いの息遣いだけが聞こえる。



 やばい、耳まで真っ赤だよ俺!!ホント何言ってるの!?



 佐々木の方を見ていると同じく耳まで真っ赤にしていた。これはあれか、恥ずかしいからか?



 ……この状況を引き起こしたのは俺だ!だから、俺から話題を振らなきゃ。



「えーっと、さっき分からないことがあるって言ってたよな?どこだ?」



「あ、えーーっと、ここだよ」



「あ~、これは……」



 こんな感じで図書館での二人っきりの時間は過ぎていった。














 時間はもうお昼の時間帯。二人で色々調べたらあっという間に時間が経過した。



「ここまでにしてそろそろお昼ご飯に行こうか」



「うん、そうだね」



 受付で退出のチェックを入れて、食堂に向かう。




 いや、てか今まで二人きりだったから自然と二人で移動してるけど、これ、二人でご飯食べるパターン!?



 やばくね……



 なんて考えているうちに食堂に到着した。



 相変わらず豪華な食堂、というよりパーティー会場だよな、ここ。



「あっ!朝比奈くん、あそこ空いてるよ!」



 佐々木が空いてる席を見つけてそこに行く。ここで違う席に行くわけにはいかないので俺もその席に行く。俺たちが座るとすぐにメイド服姿の女の人が食事を持ってきてくれた。



 今日は、サンドイッチだ。だけど、日本のサンドイッチとはちょっと違う。分厚いパンを使い、そこにいろいろな具材を詰め込んだ「サンドーラ」という料理だ。



 こちらの世界の昼食の定番メニューだそうだ。



「いただきます!」



 そういい、サンドーラを一口。中には肉やら野菜やら卵やらが詰め込まれ、中にかかっているソースがそれらの食材を束ねる。非常においしい料理だ。



「このサンドーラ。本当においしいね」



「ああ、だけどこの世界にご飯がないのが残念だな」



「うん、やっぱりお米は欲しくなるよね~」



 妄想再現でお米も再現できたらいいのに?



 無理か……



 その後二人で話をしながらサンドーラを食べる。好きな人とのご飯だ。緊張はするけど楽しくないわけない。



「じゃあ、問題な。剣技系のスキルを味方が使っています。この状況では【ストレングス】【エクストラダメージ】どちらを使用するのが正しいですか」




「え?……ええと、剣を使うから物理的に強化する【ストレングス】?いや、スキルを使ってるから……答は【エクストラダメージ】!」



「おお!正解!さすが佐々木だな!そう、この世界ではスキルの使用はすべて魔法扱いなんだ。だから魔法的に強化する【エクストラダメージ】が正しいよ」



「えへへ。やった!」



 こんな感じで先ほど調べたことに対する復習をしたり、



「へ~、佐々木って中学の時は吹奏楽部だったんだ」



「うん。そんなに上手じゃなかったけどね……朝比奈くんは?」



「俺は中学時代から帰宅部です」



 中学の時の話をしたり……俺の中学の話はあまりしたくないけどな!



「えっ?佐々木もあのアニメ知ってるの?」



「うん!知ってるよ!朝比奈くんも?」



「めっちゃ好きだよ!そのアニメ!」



 佐々木が中学の時、吹奏楽やってたってことだったから吹奏楽をテーマにしたアニメの話をしたらまさか知っているとは……



 アニメの話を持ち出したりして、完全に失敗したって思ったけど……



「吹部の子たちで結構見てる子多くて、それで私も見てみたらめちゃくちゃハマったの」



「へ~、そんなんだ。てっきりアニメとか見ないと思ってた」



「女の子だってアニメ見るよ」



 俺たちが話してるのは弱小の吹奏楽部が全国大会を目指すアニメだ。吹奏楽のリアルな描写が描かれており、部活特有の人間関係もリアルに描かれている。



「ねぇ、朝比奈くんはどのシーンが好き?」



「う~ん。俺はやっぱり、主人公が先輩に対して『一緒に全国大会に出たいんです!!』って伝えるシーンかな」



 全国大会目前、主人公の憧れの先輩が全国大会に出れなくなってしまいそうになる。そこで主人公は先輩に「一緒に出たい!」と説得するシーンだ。



「そのシーンいいよねー!主人公の感情爆発!!って感じで」



「そうそう!本当にいいシーンなんだよな~。佐々木は?どのシーンが好き?」



「私はやっぱり、大会目前の練習中に先生に『ここは先輩一人で吹いてください』って主人公が言われるシーンかな~。わかるんだよね。先生に『ここ吹かなくていいです』って言われる悲しみ」



 大会目前の練習中に主人公が必死に練習していた箇所を、先生から『吹かなくていい』と告げられるシーン。



「そのシーンもいいよな!その後、自分の実力が足りないって感じた主人公が『上手くなりたい!』って叫ぶとことか、もう……」



「そうそう!!そうなんだよね!わかるよ!上手くなりたいよね!ってなるんだよね」



 こんな感じで二人でとても盛り上がった。ここは食堂で今はお昼時、つまり他のみんなも来ているのだが、二人は話に夢中で気が付いていない。



 二人が笑顔で笑いあいながら話しているところを憎しみを込めて見ている視線など…………











 午後から佐々木は西山との約束があるらしく、昼食を食べ終わったあと別れ、俺はまた図書館に来ていた。



 さっきは佐々木の登場により詳しく調べられなかったからこれから夕方までしっかりスキルのことについて調べよう。



 別に佐々木が邪魔だったわけじゃないぞ。むしろ幸せな時間だったし、二人っきりで話してご飯を食べたことによってグッと距離が縮まったと思う。



 俺がそう思っているだけかもしれないけどな。



 受付に行ってあの女の子に紙をもらい、名前を書き、渡すと、



「さっきの女の子はいいの?」



 ニヤニヤしながら受付に来たことに対する罰なのか女の子が突然そう言ってきた。



「え?いや?さっきの女の子って?」



「さっき来た時に一緒にいた女の子。あなたの彼女じゃないの?」



 へ?彼女って……彼女!?



「い、いえ、違います!違いますよ!そんな……俺と彼女はまだ……」


「まだ……?」



「じゃ、じゃあ本探してきまーす」



 俺は逃げるように奥に入っていった。







 その後、夕方まで調べたけどユニークスキルについての本は一冊どころか一文すらなかった。




 やっぱりユニークスキルって存在を知られてないのか……

















 その日の夜……




「ねえ、楓ちゃん!聞いてる!?」



「うん、聞いてる。聞いてるから……」



「本当に幸せだったよ~」



 私は親友である唯香のお話、もといのろけ話を聞いている最中だ。



「朝比奈くん、すごい丁寧にスキルとか魔法のこととか教えてくれるんだよ!話聞いててめちゃくちゃ分かりやすかったよ……それに、私のことをか、かわいいって言ってくれたんだよ!!もう、心臓破裂するかと思ったよ」



 そののろけ話とは唯香の想い人、朝比奈春樹の話だ。彼女は中学生の時に一度朝比奈くんと会っていて、その時から好きらしい。朝比奈くん本人は覚えてるか分からないけど……



「それから一緒にお昼ご飯食べたんだよ!まさか二人っきりでお昼食べれるなんて思わなかったよ!」



 唯香は普段はすごくおとなしいんだけど朝比奈くんの話になるとテンションが上がってこういう感じになる。私にとっては見慣れた光景だ。学校の教室とかじゃ絶対に見ないけど……



「それでね!まさかなんだけど私のだいっすきなアニメ、朝比奈くんも知ってたんだよ!二人でずっとそのアニメの話をしてたんだよ!もう幸せだよ」



 こっちに来てからもなかなか唯香が話しかけないから「思い切って話しかけてみたら?」って提案したのは私なんだけどさ……



「ねぇ、聞いてる?」



「聞いてる聞いてるから」



「それでね……」




 かれこれ一時間以上もこんな話を聞かされるとは思わなかったよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る