第3話 主人公と主人公


 大介がニヤニヤしながら俺のことを見てくる。近くにいたから俺がドヤ顔してたのが見えたらしい。



 くっっっっっそ!!!!!



 もう二度とドヤ顔とか調子乗ったりしねえぞ!!!!!



 俺は心からそう誓いながら王様のもとから離れた。



 あとステータスを確認していないのはクラス一のモテ男の桐生勇気と地味男子の佐藤剣斗だ。



「佐藤くん、先に行っていいよ」



「う、うん。ありがとう」



 おお、さすがモテ男。自分からトリを務めるとは……




 桐生に促されて佐藤は王様の前まで行き、水晶に手を置く。現れたステータスは……




「……っ!!これは……」



「おおう……」



 俺と大介が同時に驚く。いや、俺たちだけじゃなく他のみんなも……



「これは……」



「う、うむ……」



 王女様も王様も同じように。そして……



「おい、おいおいおい!!」



 佐藤を目の敵にしている原崎もそのステータスを見て声を上げた。














 心の底から嬉しそうに、馬鹿にしたように、あざ笑うかのように……




「なんだよ!そのステータスは!!」




 名前 佐藤 剣斗


 性別 男


 年齢 16


 Lv 1


 HP    50/50

 MP    20/20

 攻撃力   15

 物理防御力 10

 魔法防御力 10

 敏捷性   8

 魔法力   10

 運     2



 スキル

《勇者》



 称号

【勇者】




「低すぎだろ!なんなんだよそのステータスは!」



 原崎とその取り巻きが大爆笑していた。



「あーはははっははあっは!!腹痛てーー」



「おいおい、そんなんじゃ赤ちゃんにも負けるんじゃね?」



 あまりの言いたい放題っぷりに我慢の限界とばかりに西山が声を上げた。



「あなたたち、ステータスが低いからってなんなの?そんなに笑って何が楽しいの?」



「あぁ!!うるせえよ!……なあ西山?あんな雑魚かまってないで俺たちといた方が楽しいぜ!あんな雑魚役立たずだろ……捨てた方がましだ」



「ふざけないで!剣斗は私の幼馴染よ!そんなことするわけないじゃない!」



「黙れよ!!あんなクズ、放っておけばいいだろ!!」



「この……」



 西山が原崎をひっぱたこうとしたとき、その手を佐藤が掴んで止める。



「……っ!!剣斗?」



「楓……僕は大丈夫だから……」



「でも……」



「おい!!ふざけんなよ、クズ!!そのきたねぇ手で西山に触るんじゃねえよ!!!」



 今度は原崎が佐藤に殴りかかろうとしたとき……




「静まりなさい!!!」



 王女が叫んだ。




「ここは王の間です。例え勇者様といえどこれ以上のことは許しません」



「ちっ……」



 王女の言葉に原崎が押し黙る。




 これだよ……




 原崎は偉そうにしているくせに自分よりかも力が上と判断すればそれに従うし、力が弱いと分かれば暴言を吐く。



 意気地なしのクズはどっちだよ。



 西山は離れていく原崎を怒りのこもった表情で見ている。それもそうだ。原崎は西山のことが好きなくせに嫌われることばっかりしてるから西山からの好感度は最低。その恋が実ることは一生ない。



 まぁ、自業自得だな。



 原崎が下がったことで場が落ち着いたと感じた王女は安堵の表情を浮かべ、



「最後の一人ですね。どうぞ」



「はい!」



 最後に桐生がステータス確認をする。




 いや……





 いやいやいやいや―――





 それよりも、さっきの佐藤のステータス。




 どう見ても主人公ステじゃね?




 だって明らかに低すぎる。勇者のスキルがあるから俺たちと同じ勇者だろう。ステータスが低いってことがまず不自然だ。



 それに称号の【勇者】



 今までの称号からも分かるようにその人にあった称号がもらえるはずだ。でも、佐藤のはただたんの【勇者】



【無能の勇者】でも【役立たずの勇者】でもなく【勇者】だ。




 これは覚醒パターンか?




 ダンジョンで一人取り残され、死の淵に立った時に真の力が覚醒。好きな女の子が魔王の幹部に連れ去られ恥辱されそうになった時に覚醒。大切な友人を失ったときに覚醒―――




 覚醒のパターンはいろいろあるけど……完全に主人公じゃ……




 そこまで考えた時にこれまで以上のどよめき、いや、驚きの声が上がる。



 何だと思い正面を見ると、そこにはステータスを確認して驚いている桐生。そこに映し出されているステータスは……



 名前 桐生 勇気


 性別 男


 年齢 16


 Lv 1


 HP    350/350

 MP    280/280

 攻撃力   210

 物理防御力 180

 魔法防御力 195

 敏捷性   170

 魔法力   220

 運     80



 スキル

《勇者》《神聖》《剣王術》《全魔法術》《精霊術》《状態異常耐性》《起死回生》《悪魔特化》



 称号

【神聖の勇者】










 …………






 …………は?





 いや、いやいやいや―――





 なんだそのステータスは!!??




「なっ……なっ」



「これは……すごいな」



 王女は口を開け呆けている。国王はさすがにそんなことにはなっていないが唖然としている。



「あ、あははは」



 これをやらかした本人(桐生)は苦笑いを浮かべていた。


















 いや、完全に主人公じゃん!!!チーレム主人公ポジじゃん!!!!




 なんだそのバカげたステータスは!?!?










 あれ……?俺って、完全モブポジ…………?




 だってチーレム主人公と覚醒主人公の二人がいるんだもん…………






















 ステータスの確認が全員終了し、まだ驚きから解放されていない王国側だったが、



「さて、これで勇者全員のステータス確認が終了したわけだが……」



 国王の声で我に返る。それは王女もだ。



「勇者たちも疲れただろう。召喚されてすぐだしな……それに我々も考えなければならないこともある」



 桐生のことだろうな。明らかに桐生を見ながら言ったし。



「本日はこれまでにしよう。詳しいことは明日だ。勇者には一人一つの部屋を用意してある。そちらでゆっくりと休むがいい。風呂も用意してあるし、食事の時間になったらメイドが呼びに行く」



 そう言って国王は立ち、



「では、これにて謁見を終了する」



 王国側の人達が恭しく頭を下げ、国王が退席する。



「で、では皆様。それぞれお部屋へと案内しますね」



 王女がそういうと初老の執事服を着た男性とメイド服を着た20歳くらいの女性数人が俺たちを部屋へと案内する。




 俺は部屋に入るとベットにドカンとダイブした。



「ふ~~、疲れた~~」



 想像以上に疲れていたんだろう。ベットが心地いい。



 部屋を見回してみると二人ほどが寝れるほどの大きさのベットに質のいい材質で出来た机、椅子は座り心地がよさそうな柔らかな素材で出来ており、部屋の中央には細長い机にソファー。





 さすが王城の部屋。豪華すぎるだろ。





 俺はベットに横になりながら改めてステータスを出す。




 名前 朝比奈 春樹


 性別 男


 年齢 16


 Lv 1


 HP    180/180

 MP    100/100

 攻撃力   80

 物理防御力 75

 魔法防御力 70

 敏捷性   60

 魔法力   80

 運     30



 スキル

《勇者》《武器強化》《魔法強化》


 ユニークスキル

《妄想再現》


 称号

【架空の勇者】





「やっぱりあるよな~。ユニークスキル……」




 じゃあなんであの時は出なかったんだ?




 考えられるのは水晶を使ったステータス確認ではユニークスキルが確認できない。ユニークスキル自体が希少なため存在が確認されていない、または知られていない。ユニークスキルは必要ないからステータスでは重要視されない。



 か……




 最後のはないだろう。妄想再現の効果を見るに破格のスキルだ。じゃあ前者の二つのうちのどっちかか……




 コンコン―――



 そこまで考えた時にドアがノックされた。



「どうぞ」



「よう!春樹」



「なんだ、大介か」



「なんだはないだろ……風呂入ろうぜ」



 考えるのをやめ大介からの誘いで風呂に行くことにした。



















「おおーーさすが王城の風呂だけあってでかいな」


「ホントにな」



 高級ホテルの大浴場以上の広さの風呂に驚きながら湯船につかる。



「ふ~~、生き返る~」



「おい、大介。おっさんくさいぞ」



「いいじゃねえかよ、風呂くらい」



 だが、大介の言っていることも分かる。



「今日はいろいろあったよな~。まさか異世界に来るとはな」



「ああ、俺もアニメの世界だけの話かと思ってたよ」



「俺も……」



 こうやってゆっくりと風呂に浸かってるとさっき考えていたことが浮かんでくる。ふと気になって大介に問いただす。



「なあ、大介。ユニークスキルって知ってるか?」



「ユニークスキル?あれか、強力なスキルとかオンリーワンのスキルとかか?」



「そう、そのユニークスキル」



「知ってはいるがこの世界にはないだろ。みんなのステータス確認の時もそんなスキルなかったし、王様たちもそんなスキルのこと言ってなかったし」




「だよな……」




 少なくとも大介は持ってないということだな。まぁ、嘘かもしれないけど。親友を疑うことはしたくないし。



 とりあえずユニークスキルのことは後から調べるか。



 俺たちは風呂を存分に満喫して部屋に戻った。

















 部屋に戻ってしばらくするとメイドさんが部屋に来て食事の用意が出来たことを教えてくれた。



 この世界も日本と同じく一日は24時間らしく、今の時間は午後7時。分かりやすくていいな。



 案内された食堂は食堂というよりかパーティー会場のようなところだった。丸いテーブルがいくつもありその上には豪華な料理。



 メイドさんに好きなところに座ってくださいと言われたので大介の隣に座る。しばらくして、クラス全員がやってくると俺たちがいる場所より一段上――階段を上った先にあるひときわ豪華なテーブルとイスがあるところに国王と王女がやってきた。



「勇者諸君、少しの間ではあったがゆっくりできたかな。今宵は歓迎も兼ねた宴だ。楽しんでくれ」



 国王の言葉が終わると同時にみんな食事に手を付ける。俺もさっそくいただく。




 骨付きの肉はとろけるほどに柔らかく、野菜は苦みが少なく甘い。シチューのようなスープはコクがあり、何杯でもいけそうだ。



 惜しむはご飯がないこと――この国の主食はパンらしい――だけどどれもめちゃくちゃ美味しい。



 みんなも初めての異世界の食事にテンションが上がって、どんどん食べている。



 ふと、王様たちがいる席を見ていると二人とも俺たちのことを見ながら食事をしていた。



 監視か……?



 原崎が暴れたからな。食事のときに問題が起きないようにみているのか。



 はたまた友好を深めようとしているのか。



 まあ、そこはよくわかんないけど。




「なぁ、春樹!この料理めっちゃうまいな!」



「そうだな」



 大介とやり取りしながら思いに耽る。



 俺だけが持っているかもしれないユニークスキル。どうやって調べようか……




 誰かに聞く?それが一番手っ取り早いけど、ユニークスキル持ちが誰かなんてわからないし、調べようがない。それに嘘をつかれたら分からないし、そもそも俺のユニークスキルはステータス確認では表示されなかったし。



 やっぱり本とかを探すか……




(こんな時、便利な《鑑定》が使えたらな~)



 でも、俺、鑑定ないし……

















 ―――いや





 いやいやいや





 出来るじゃん!




 妄想再現で《鑑定》を再現すればいいじゃん!!

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