第7話 香、籠城する。

中野という少女がこの教室に転校して来た。

これに対して俺は眉を顰めるしか無い。

何故ならその中のという少女が俺に対して、学校の中を案内してほしい、と言った。


信じられないんだが。

この少女は.....俺の知り合いでも何でもないのに、と思いつつも任せられたのでしぶしぶ案内する。

何だか注目を浴びるのがきつかったのだ。


「八重島君」


「.....何でしょうか」


「あはは。敬語?面白い返事だね」


「.....いや、面白いってかね.....」


貴方が美少女過ぎるから。

こんなモブが一緒に居るのがおかしいんだ。

周りがマジ何であんなモブと歩いているのよ?、的な感じの目線をしているしな。


俺は盛大に溜息を吐きながら中野を見つめる。

中野は楽しそうだった。

いや.....本格的に何なんだコイツ.....って感じにしかならない。

俺を指名するとか何かあるのか?

裏でも意図が、だ。


「.....中野」


「何?八重島君」


「.....お前さ、何で俺を指名した。何か裏が有るのか?見ず知らずの少女にこれは有り得ないんだが.....」


「.....アハハ。スパイみたいな事を言うね。酷いなぁ。.....でもそれは無いよ。それに私、貴方の事は昔から知っているんだよ」


「.....?.....え?」


何処で知ったんだ。

俺は???を浮かべる。

しかしこの様な女性に会った事は無い。

俺は目をパチクリしながら中野を見つめる。

すると中野は予想外の言葉を放った。


「私は.....豊臣小学校に居た、男の子の姿をしていた女の子だった。覚えてない?」


「.....は?.....え?」


「あの黒縁眼鏡の男の子。君が助けてくれた。あれ私なの」


「.....女だったのか!!!!?お前だったのか!!!!?」


うん、そうだよ。

とニコッとする中野。

確かに男かと思っていたヤツは居たな。


小学校時代に、だ。

ボッチだったから保健室が好きだったから通っていたが。

その場に保健室登校で居たのだ。


そんな滅茶苦茶な事が!?

確か当時は完全に男と思っていたんだが。

女の子だったのか!?


「.....私ね、強くなりたかったから女を辞めていたの。だけど君は違った。私に.....女性の素晴らしいって事を教えてくれたの」


「でもそれは.....俺はお前が女だったら良いのにって言っただけじゃないか。そういう事しか言ってない」


「当時の私にとって君は本当に希望だった。だから引っ越して行った時にとても悲しかったよ。私は君に恋をしていたから」


「.....は?.....何だって?」


目が丸くなる。

すると中野は顔を赤くしながら俺を見てきた。

君は本当に魅力的な男の子だと思う。

私が女に戻れたのも君が助けてくれたからだよ。


君が好きだったんだ私。

だから今、言える。

素直にこう言えるんだ。

と上目遣いで俺を見てくる。


「私と付き合ってくれないかな」


「.....!」


「.....返事は今じゃなくていいよ。待ってる」


廊下に人が居ないからそう言ってきたのだろう。

俺は見開きながら中野を見つめる。

初めての告白だったが。

俺は.....何故かイエスと言えなかった。

頭にアイツが過ったから。


「.....中野。直ぐには返事が出来ない。御免な」


「.....良いよ。君は君らしくだから」


「.....」


俺の人生は男装の女性に巡り合う事が多いな。

でも.....みんな素を出せば本当に良い子ばかりだ。

だけど何でだろうか。

俺は女性のせっかくの告白を受け入れられなかった。

香が頭を過ったからである。


「.....じゃあ戻ろうか。休み時間も終わりそうだから」


「.....ああ。大体教室は分かったか」


「分かりやすかったよ。君は上手だね。案内がね。アハハ」


「.....」


少しだけ俺は赤面する。

そして中野を見る。

この子はとても良い子だと思う。

俺に勿体無いぐらいの美少女だしな。

だけど.....。



「八重島君。一緒に帰ろう」


「.....マジか?」


「うん。マジだよ」


中野が寄って来ながら俺に笑みを浮かべる。

それから俺の机に手を乗せた。

俺は.....周りに少しだけびくつきながら頷く。

そして立ち上がった。


「分かった。じゃあ行こうか」


「やった。有難うね」


そして俺は中野と一緒に帰宅する。

下駄箱から靴を取り出して昇降口を出た。

その途中で.....中野が俺を見て来る。

にこやかに、だ。


「君の家は何処に有るの?」


「俺の家は2丁目だ」


「.....じゃあ行っても良いかな」


「え?!.....いや、それは.....」


そんな会話をしていると。

ドサッと音がした。

音の方角を見ると.....そこに男装した香が立って居る。

俺達を見て目を丸くしていた。

ビニール袋に入った食い物を落としている。


「兄貴。その人は?」


「.....か、香。いや、この子は.....」


「え?弟さん?」


「.....」


香は不愉快そうな顔をムッとしてする。

そしてツーンとして荷物を拾ってから去って行く.....ってオイ。

一体全体、何だよ!?


俺は目をパチクリしながら、香!挨拶しろ!!!!!、と呼び掛けたが。

聞いているのか聞いてないのか返事が無かった。

そのまま去って行く。

いやいや、オイオイ.....。


「何だってんだ.....」


「弟さんが居たんだね」


「いや、その.....」


俺は中野に全て説明した。

中野は目を丸くしながら、そうなんだ、と納得する。

そして柔和に見てくる。

顎に手を添える中野。


「.....でも何だか彼、嫉妬していた様な.....」


「あ?ああ.....それはちょっとな」


「?」


言えないんだよな。

香が男装しているなんて事は。

でもあの嫉妬は何だ?

俺は首を傾げるが。

答えが.....その、出なかった。


「.....御免な。俺の弟、俺を尊敬しているからあんななんだ」


「あ、そうなんだね。成程」


「俺が取られるのが不安だったんじゃないかな。御免な」


まあその、実際は違うが。

俺は苦笑いを浮かべながら.....少しだけ溜息を吐く。

でもさ.....あんな態度を取らなくても良いじゃないか。

思いつつ.....俺は謎が多いまま中野に向く。


「中野。義弟があんな感じだけど.....家に来るか」


「うん。そうだね。.....弟さんに説得をしたい」


「.....えっとそれは無理だと思うが.....うん」


え?何で?、とクエスチョンマークを浮かべる中野。

俺は苦笑いを浮かべる。

そして俺達は実家に向かい始めた。

でも取り合えず.....色々と誤解している様だから説明しないとな.....。

と思う。



多分大丈夫だろう。

思いながら俺達は俺の実家にやって来た。

そして玄関を開けて中に入ろうとした.....のだが。

玄関が固くて開かない。

ん?え?


「どうなってんだ?」


「.....兄貴」


「?!.....香か!?何をしているんだ!」


「ドアを抑えてる」


いやいや、それはなんとなく分かるが何をしているんだよ!?

俺と中野は顔を見合わせてから目を丸くする。

マジに何をしているのだ!?

俺はドアを叩く。


「開けろよ。香。何だってんだ」


「.....ふーんだ。兄貴の馬鹿。スケベ」


「おいおいマジか.....」


嫉妬している様に見える。

いやいや、マジに何だってんだよ?

こんな態度を取るとは思わなかった。

中野が驚愕している。


「アハハ。まさかだね」


「いや本当にまさかだよ!何でこんな事をするんだ」


「.....八重島君。私に任せてくれない?」


「え?」


そして玄関に語り掛ける様に笑みを浮かべる中野。

それから語り出した。

香君だっけ?私、中野麗って言います。

宜しくね、と、だ。


「私ね、弟が居るんだよね。それでもし良かったら一緒に遊ばせてあげたいなって思ってる。だからもし良かったら開けてくれない?お兄さんの事に関して語らいたいなって思うしね。色々知ってるよ。お兄さんの事」


「.....それは本当に?私の知らないおに.....じゃない。兄貴の事も?」


「うん、知ってる。昔から馴染んでいるから」


「.....」


ギィッとドアが開いた。

そして俺を少しだけ控えめに見てくる香。

俺は.....笑みを浮かべる。


そして香に、おかえり、と言った。

香は、ただいま、と言う。

それから中野を見る。


「じゃあ約束。兄貴の事に関して色々教えて」


「うん。約束だね」


そしてゆびきりげんまんをする二人。

何だか.....固い絆がある気がした。

だけどどうなっていくんだろうかこの先.....。

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