第5話 不甲斐無い兄弟だけどよ

俊介が家にやって来てから家で香さんを交えて遊んだ。

その事もあってか随分と香さんは俊介と打ち解けた様に見える。

相変わらず人の扱いが上手いな俊介は。


働いているお陰かも知れないが。

思いながら俺は俊介を見る。

コイツと高校を一緒に続けられたらどれだけ幸せだったか。


それから1時間ぐらいして、んじゃ夕方も近いし帰ろうかね、と俊介が立ち上がる。

俺と香さんはその言葉に顔を見合わせて、分かった、と返事する。

そして見送る為に玄関まで来ると。

俊介が俺を見てきた。

そして香さんを見つめる。


「不甲斐ない兄弟だけど.....守ってやってくれないか?香君」


「.....え?」


「.....ソイツ、一応苦労しているからよ。だから守ってやってくれ。頼む」


「.....はい」


俺は少しだけ眉を顰める。

あの事を.....今持ち出すなよ、と思いながら。

だけどそれだけ俊介は心配って事だろうしな。

思いつつ俺は俊介を見つめる。


「じゃあな。兄弟。また明日」


「ああ。またコンビニでな」


「ああ。アッハッハ」


そして俺達はグータッチをしてから別れる。

そうしていると香さんが俺を見ていて柔和な顔をしていた。

俺は?を浮かべながら香さんを見る。

どうしたんだ、と、だ。


「羨ましいだけです。私、友人が居ないから、です」


「そうなのか?」


「はい。私は.....孤独でしたから」


「.....」


昔、私は容姿でいじめを受けました。

だから.....男になった、というのも一応、有るんですが、ね。

と苦笑いを浮かべる香さん。

俺は複雑な顔をする。


「そんな顔しないで下さい。私、大丈夫ですから。もう二度と.....」


「.....固く考えるな」


「え?」


目をパチクリする香さんに。

俺は頭をポンポンした。

これから先、お前がどんな目に遭おうとも俺がお前の兄貴なんだから。

と言い聞かせる。

香さんは.....、でも.....、と俯く。


「お前がどんな目に遭ったかは知らない。でもこの家では.....個性を出して良いんだ。良いか」


「.....兄貴.....」


「俺はお前が女だろうが男だろうが。守っていくつもりだった。だから.....な?」


「.....そんな事。惚れる.....」


ボソッと何かとんでもない事を言った気がした。

俺は、は?、と聞き返す。

だが。


何を言ったかは内緒だから、と。

教えてくれなかった。

唇に指を添えながら、だ。


「全く。謎が多い」


リビングに戻った香さんを追う様にして俺もリビングに戻る。

それから俺は台所に向かった香さんを見る。

何をしているんだ?、と聞いた。

すると。


「お料理つくるんです」


「.....え?お前、料理出来るのか?」


「はい。丁度.....夕方ですし.....お手伝いと思いました」


俺はその事に、そうか、と返事をする。

そして居ると光さんと親父が大荷物を持って帰って来た。

家に必要な物を買い占めてきたようだ。

俺と香さんは顔を見合わせながら、ふふ、と苦笑する。


「.....!.....仲良くなってるわね」


「そうみたいですね」


親父と光さんがその様に言葉を発して頷き合いながら俺達を見る。

そうだな。

でも香さんが明るいから。

何だか仲良くなれたんだと思う。

だから香さんのお陰だ。


「お母さん。有難う。再婚してくれて」


「.....そんな事を言われるとは思わなかったわ。香」


「俺も良かったよ。親父」


「.....そうか。お前がそう言うならそれが一番だ」


その日、俺達と家族は。

仲が深くなった気がした。

更に、だ。


たった一日しか過ごしてないのに、だ。

俺はその事に笑みを浮かべる。

この家族ならやって行けそうな気がする。

互いに赤の他人だったけどこんなにも人とは慣れ合う事が出来るんだなって思ってしまい.....俺はただ楽しかった。



その日の夜の事だ。

俺は部屋で勉強をする。

そうしていると.....ドアがノックされた。

俺は、はい、と答える。


「兄貴。私」


「ああお前か」


「.....うん」


それから入って来る香さん。

俺は香さんを見つめる。

パーカーの様な服装をした、パジャマだ。

すると香さんは俺に対してモジモジしながら笑みを浮かべた。

そして、兄貴の部屋だ、と見渡す。


「.....そう見られると恥ずかしいな」


「そうかな?私は.....気にしないよ」


「いや、お前が気にしなくても俺が気になる」


「.....そうなんだね」


あはは、と頬を掻く香さん。

俺はそれを見つめながら.....何の用事だ?と聞く。

そうしていると香さんは俺に向いた。

それから俺に、えっとね、と再度笑みを浮かべる。


「兄貴。今日は有難う。色々と連れて行ってくれて」


「.....どうしたんだ。改まって。俺達は家族だろ」


「.....うん。そうだね。でも嬉しかったよ。.....私を男として見てくれたのも良かったし」


「.....ああ。そうだな。でもお前は女だ」


そうだね。

どれだけやっても私は男にはなれないから。

と苦笑いを、えへへ、と浮かべる少女。

可愛いなコイツ。


「でもこれから慣れていくんだ。お前は。だから大丈夫だ。俺もお前が強くなる様に頑張るから」


「.....そうだね。お兄ちゃんが言うなら.....あ」


「.....お兄ちゃん?」


お兄ちゃんって言ったかコイツ。

俺は真っ赤に赤面する。

あ、兄貴ならまだ良かったけど.....その恥ずかしいんだが。

何と言うかお兄ちゃんは完璧に予想外だ。

アワアワする香さん。


「き、聞かなかった事に.....」


「いや、無理だろ。今、バリバリ聞いたよ俺」


「あ、兄貴のアホ。は、ハズカシイ.....」


モジモジしながら俺を見てくる香さん。

それから上目使いで見てくる。

そして、あ。兄貴っていうのもそうだけど.....お、お兄ちゃんって呼んでみたかったの.....、と赤面する。

何だよそれ.....いや、まあ嬉しいけど恥ずかしいんだが。


「.....私、貴方に憧れている。誰にでも自愛を持つお兄ちゃんが.....格好良いと思っている。だから.....その、うん。それに私を女として見てくれたのが凄く嬉しかった点も有るから.....」


「.....お前.....」


「それから私の呼び方、香、で良いよ。お兄ちゃん」


ボーイッシュに見えて女の子だ。

本気で可愛い。

思いながら俺は我が義妹を見つめる。

全くな.....表が有って裏が有るなこの子。

だけど嫌いじゃない。


「分かった。そう呼ばせてもらうよ。香」


「私はお兄ちゃんで」


「.....えっと、その。恥ずかしいんだが.....」


「私だって恥ずかしいよ!酷い」


頬をこれでもかと膨らませる美少女。

俺はその事に苦笑しながら、だな、と言う。

それから香は勉強道具を出す。

そして勉強教えて、とニコッとして言ってきた.....いや。

俺、英語苦手なんだけど.....?


「か、香さん?俺、英語苦手.....なんだけど.....」


「うん。私も英語は100点の中で1点を取るぐらいだから。大丈夫」


てへへ、と後頭部を掻く.....香。

え!?1点っておま。

嘘だろお前。

底辺の俺ですら酷いと思うんだがそれは。


「酷すぎるだろそれは!?流石に有り得ない!」


「だから教えて下さい。お兄ちゃん様」


「.....ハァ.....」


色々とこの先が厄介な気がしてきたが。

その頼みは断れなかった。

何だかもっと香と一緒に居たいとそう思っていたから。

何でこんな気持ちになるんだろうな。

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