森の青年
銀髪の青年はエリューカと名乗った。名無しの男は、自分には名がないと告げた。
だが、
何故自分のような者を生んだ、と問い、責められる相手は吸血鬼だけだ。男にとってこの世界で、吸血鬼だけが自由にして良い相手だった。
「この森だけが私に許される世界なんですよ。家族の
何故この
「身寄りがなくなった後、この髪の色が、里では魔物と責められるものですからね。それで、この森へ」
森には幾らかの実りがあり、小動物を狩ることができる。泉があり、雨露をしのぐ家の材料となる木材もある。そして木陰と静けさがある。貧しく孤独なまま町に暮らして四方から石と罵声を投げつけられた末に
おれもそうした方がいいのだろうか、と男は、生まれて初めて思う。
そして、そんなことは有り得ないと苦笑する。……どんなに隠れても、吸血鬼の方からやって来るに決まっている。
低級の吸血鬼は
だから、この森に入ればすぐ吸血鬼に遭うのだろうと思っていたが。
「他の森ならともかく、ここにいて夜族に襲われることはないのか」
「木陰の闇でも昼は昼です。夕暮れまでは大丈夫ですよ。夜は、小屋にでも洞窟にでも、
そうだ。だが吸血鬼たちは人の心に滑り込み、自分を招き入れさせる。
それがこんなに美しい者ならなおのこと。
「それに彼らは、迷っている者や苦しみ悲しんでいる者に寄ってきます。だから日暮れまで、立ち止まらないでついて来てくださいね」
「おれが迷っている?」
「そうかもしれない。苦しんでいるかもしれない」
「そんなことは、」
「何人も案内しましたが、何人も死にましたよ」
ざ、と森の中を冷たい風が渡る。
捨て子の亡霊のような背中。迷いなく進む、奇妙に滑らかな足取り。男は一瞬、
やはり夜族か?
しかし、そんなはずはなかった。
エリューカは
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