第25話 〈精神支配〉でねじ伏せれば

「ルーカスくん? 朝からどこ行ってたの?」

「ちょっとな……」

「……?」


 俺が部屋に戻ると、クルシェはちょうど目を覚ましたところだったようだ。

 不思議そうに見てくる彼女に、俺は頑張ってふらふらなのを悟られないようにする。

 寝不足と疲労、そして何より足腰がつらい。


 ちなみにクーシャは子種が欲しかっただけで、俺自体には興味がなく、行為が終わるとさっさと帰っていった。

 なので、眷姫にはなっていない。


 ただし満足そうな顔で、


「アマゾネスは妊娠できるタイミングを完璧に把握してる。今は確実に孕めるはずだ」


 と言い残して。

 ……怖い。


 まぁこっちは〝避妊〟している。

 今まで眷姫たちが一度も妊娠していないことからも確実な効果があるので、大丈夫だろう。

 だ、大丈夫だよな……?


 ともかく、このことは忘れることとしよう。

 俺自身は何も悪くない。悪くないはずだ。


『くくく、身体に刻み込まれた快楽はそうそう忘れられぬものじゃぞ?』


 あー、聞こえない聞こえない。







 王都に戻ってくると、俺はクルシェと結婚式を挙げた。

 アリアのときと同じく、再びレアス神殿を使わせてもらった。


 それからは怒涛の挙式ラッシュとなった。

 もちろん先に眷姫になった方から、リューナ、セレス、ララという順番だ。


 ちなみにララは、


「べ、別に式なんて挙げなくていいし! つーか、そもそもテメェと結婚する気なんてねぇから!」


 と言ってきたのでキャンセルしようかと思ったのだが、


「て、テメェがそこまで言うなら仕方ねぇな! け、け、結婚してやるよッ!」

「いや、さすがに無理強いはしたくないんだが……」

「………………嫌だとは言ってねぇし」


 よく分からないがアリアたちが式を挙げても大丈夫だと断言してきたので、結局そうした。


 それぞれの家族がわざわざ故郷から来てくれたお陰で、こちらから会いにいく手間は省けた。

 なおセレスは神殿が管理する孤児院の出なのだが、育ての親であるその院長先生が足を運んでくれた。







「ではいよいよわたくしたちの番ですわね!」


 フィオラが目を輝かせながら抱き着いてきた。


「そ、そうだな」


 腕に押し当てられる胸の柔らかさを感じながら、俺はどうにか頷く。

 一応、覚悟は決めたつもりだったのだが、いざとなると気持ちが揺らいでしまう。


 もちろんフィオラが嫌いなわけではない。

 王女である彼女と結婚するということはすなわち、俺が王様になることを受け入れるということ。


 ただの平民で、冴えない冒険者だったはずなのに、こいつ(ウェヌス)を抜いてから僅か一年と少し。

 あまりの環境の変化に正直、心が付いていっていない。


 何より国を代表する立場というのは、責任が重い。

 誤った政治をしてしまえば、この国の民たちを苦しめることになるのだ。


「やはりルーカス様は優しいですわ。すでに民たちのことを考えておられるなんて」

「そんな大したことは……」

「大丈夫ですわ。あたくしも皆も頑張って支えますの。それにお父様も隠居なさるというだけで、まだまだご壮健ですわ。何かあれば助言してくださいます」


 本当なら国王陛下は大反対しただろうが、フィオラの〈精神支配〉によって無理やり賛成の立場に変えられてしまっていた。

 ……完全に国を乗っ取ってしまっている。

 もちろん正当性が大いに疑問だが、


「ふふふ、どうせもう十年もすればあたくしのものになるんですのよ? それを少し早めただけですわ」


 ライバルだった兄がいなくなったこともあり、遅かれ早かれ同じ結果が待っているのだった。


「それならフィオラが女王になって、俺がその配偶でもいい気が……」

「王配が他の妻を持っているというのは問題ですの」


 ……そうか。

 逆だと今度はその辺りの問題が浮上してくるのか。


「まぁそれも〈精神支配〉でねじ伏せれば……」

「やめてくれ」


 黒い笑みを浮かべるフィオラを、俺は慌てて窘めるのだった。







 そして後日。

 いよいよ俺とフィオラの結婚式が執り行われることとなった。


 もちろんこれは大々的に行われる。

 国内外に告知され、多くの貴族や著名人を集めての大規模な式典になるらしい。


 発表された直後から王都はお祭り騒ぎとなった。


「「「フィオラ王女、万歳!」」」

「「「英雄ルーカス卿、万歳!」」」


 フィオラは国民の間でカルト的な人気っぷりがあり、それゆえ結婚に反対する者も多く、下手をすれば暴動が起きるのではないかという懸念もあった。

 だがフタを開けてみれば、祝福ムード一色である。


「ルーカスさまの実績を喧伝し続けてきた成果ですわ」

「もちろん、ルーカス様の素晴らしい武勲あってのことです」


 満足そうにフィオラが頷き、セレスが誇らしげに大きな胸を張る。

 どうやらレアス神殿の働きも大きかったようだ。


「ルーカス様の活躍を描いた舞台は連日超満員。今や王都だけでなく国内主要都市のすべての劇場で上演されています。さらに国外の劇場からも上演の依頼が来ているほど」

「いつの間に!?」

「加えてルーカス様の英雄譚を当代きっての作家に書かせた本は、発売からわずか一週間で五万部を売り上げ、現在、製造が追いついていない状態です」

「だからいつの間に!?」


 どちらも俺が知らないところで勝手に動いていて、勝手に大反響となっているらしい。

 ……せめてやる前に報告を……いや、今更もう遅いな……ははは……。

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