第24話 警戒を解くのを待ってたんだよ
あの集団に囲まれたら最後だ。
俺は全速力で斜面を駆け下りた。
どこかの茂みに身を隠すことも考えたが、嗅覚に優れているため、隠れてもすぐに見つかってしまうだろう。
逃げるしかない。
『一発くらいくれてやればええのに。ケチなやつじゃのう』
「どう見ても一発じゃ終わらないだろ!」
彼女たちは俺と違ってこの山に慣れていた。
俺が足を踏み外して横転してしまった場所を物ともせず、野生の獣のような見事な身のこなしで追いかけてくる。
それでも木を切り倒して進路を妨害したりしたのが功を奏したのか、徐々に先頭集団との距離が開いていく。
だがアマゾネスたちはしつこかった。
逃げても逃げても追い縋ってくるし、俺の息も荒くなってきた。
「っ! 山を抜けた……っ!」
ようやく木々が途切れ、俺は安堵の息を吐く。
足場の悪い山の斜面が終わり、走りやすい平地へと辿り着いたのだ。
もちろん村に戻るわけにはいかない。
俺はそのまま村からも逃走したのだった。
「ふぅ……ここまでくればもう大丈夫だろう」
俺はようやく安堵の息を吐き出すことができた。
アマゾネスの村から逃げておよそ一時間。
ずっと走り続けた甲斐あって、来た道を振り返っても誰の姿もない。
つい三十分前くらいまではまだ何人か追いかけてきていたが、さすがにここまで引き離せば諦めてくれたはずだ。
性欲強すぎだろ……。
予定より随分と早くなってしまったが、このまま王都に帰るとしよう。
その後、俺は王都への帰路途中にある宿場町でクルシェと合流した。
村に置いてきた馬を連れてきてもらえるように、念話を通じて頼んでおいたのだ。
「ごめんね、大変な目に遭わせちゃって」
「いや、気にするなって。俺が勝手にワイバーン狩りに参加してなければ、あんなことにはならなかったんだし」
申し訳なさそうに謝ってくるクルシェに、俺はそうフォローする。
彼女の奥手なイメージもあって、まさかアマゾネスがあんな欲情の仕方をするとは考えてもみなかった。
いや、確かにクルシェも一度スイッチが入ると激しいが……。
「まぁ最低限、挨拶は済ませたし、このまま王都に帰ろう」
「うん」
その日は宿場町で宿を取ることにした。
風呂に入って汗を流し、それから夕食をとった。
さすがに今日はそんな気分ではないので、明日に備えて早めに休んだ。
……夜中に襲われたりしないよな?
幸い何事もなく朝が明け、俺はクルシェと出発する。
だが不安のせいか、夜中に何度も目が覚めてしまった。
こういうとき、ウェヌスのやつはまったく便りできないしな。
「ふあ……」
「眠そうだね? 眠れなかったの?」
「ああ」
欠伸を何度も噛み殺しながらも、予定通りに出発した。
それから幾つかの宿場町を通過していくと、段々と不安は薄れていった。
いくら何でももう大丈夫だ。
俺はそう考えていた。
……それがあまりにも甘い認識だったことを知ったのは、すでに王都までの行程を三分の二以上も過ぎた頃のことだった。
長旅の疲れもあって、俺はその日、クルシェと一緒に酒場で飲んだ。
程よく酔っ払って宿へと戻ると、そのまま酔った勢いで楽しい時間を過ごした。
行為が終わって、クルシェは気持ちよさそうに眠っている。
俺は汗を掻いてしまったこともあり、少し外で水を浴びてこようと部屋を出た。
がさがさっ――がしっ。
「え?」
茂みの中から突如として伸びてきた手に掴まれたかと思うと、そのまま物凄い力で引きずり込まれる。
その先にいたのは――
「ようやく見つけた」
――クルシェの姉、クーシャだった。
「っ!?」
咄嗟に逃げようとするが、その前に懐に滑り込まれていた。
上下が回転する。
投げ飛ばされたと思ったときにはもう、俺は腕をキめられていた。
「何でこんなところまでっ!?」
「警戒を解くのを待ってたんだよ。草むらに身を潜めて獲物を狙う女豹のようになァ」
「~~~~っ!」
アマゾネスの執念を完全に舐めていた。
狩られる者としての自覚が薄かったのだ。
『クルシェ! 助けてくれ! クーシャが来た!』
念話で呼びかけるが、反応はない。
完全に寝入ってしまっているのだろう。
クーシャのしなやかに伸びる腕が、俺のズボンの中へするりと侵入してくる。
そして下腹部を妖しく弄った。
「ぅあんっ……」
思わずそんな声が漏れてしまう。
な、何だ、今のは……っ!?
少し触られただけで脳天を突き抜けるような快感が走ったのだ。
これがアマゾネスのテクニック……っ!
「ここがいいんだろ?」
「~~~~っ!」
「なんだ、こっちも弱いみたいだな?」
「~~~~っ?」
かなり酔いは醒めてきていたはずなのに、あっという間に理性が奪われ、抵抗する気持ちがどんどん萎んでいく。
「ここまで焦らされたんだ。一発じゃ終わらさない。限界まで搾り取らせてもらうぜ?」
この日、俺は朝方まで何度も何度も繰り返し昇天させられたのだった。
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