23話 村丼じゃ

 助けたクルシェ姉からいきなりキスをされた。

 意味が分からない。


「なぁ、お前の子供を産ませてくれよ」


 ……い、いやいやいやいやいや!

 いきなり何を言ってんだよ!?


 そのぶっ飛んだ言動に、俺は困惑するしかない。

 だがその一方で、周囲のアマゾネスたちはなぜか大いに盛り上がった。


「ひゅう~♪」

「いいぞー、ヤれヤれ!」

「次はあたしにもヤらせてくれよ!」


 ちょっ!?


「いいだろ? あんな貧相な妹よりよっぽど抱き甲斐があると思うぜ?」


 クーシャはその肉感的な足を絡ませながら、湿った吐息を俺の耳に当ててくる。


「ルーカスくん!? 何でここに――」


 そのときクルシェの声が聞こえてきた。

 今まで別のワイバーンと戦っていたのだろう。


「――って、何でお姉ちゃんと抱き合ってんのさ!?」


 俺と姉の状態を知り、クルシェが眉を吊り上げた。

 クーシャは「ふん」と鼻を鳴らして、


「村に連れてきたお前が悪い。強い男と出会ってしまうと、どうしても子を産みたくなるのがアマゾネスの性だと、お前もよく知っているだろうに」


 マジかよ……。


「うーっ、だから狩りに付いて来ちゃダメだって言ったのに!」

「それならそうと先に言ってくれ!」


 ていうか、そうと知っていればこの村に来るのは回避したかもしれないのに。


「なぁ、構わないだろ? 一発でいいから中にお前のをくれよ……もう我慢できないんだ……」


 クーシャは興奮で息を荒らげながら迫ってくる。


「まさかここでやる気かよ!?」

「場所なんてどこでもいい。なぁに、お前にその気がなくても、アマゾネスに伝わる最強の性技ですぐに気持ちよくしてやるからよ」


 完全に強姦魔の台詞じゃねぇか!


 さっきから引き剥がそうとしているのだが、上手く抑え込まれていて逃げられない。

 そして俺の身体をまさぐってくる手の動きが絶妙過ぎてヤバい。思わず変な声が出てしまいそうだ。


「ちなみに今まで相手した男どもは完全に昇天して二日は目を覚まさなかったな」


 何それ怖い。

 そしてこの状況を前にして、囃し立てるような謎の掛け声を叫び出した他のアマゾネスたちも怖い。

 明らかに欲情した雌の目をしている。


 これ、もしかして輪姦(まわ)されるんじゃ……?


『くくく、性欲の強いアマゾネスたちの村に自ら立ち入ったのが運の尽きじゃ。なぜ女ばかりの村に男がいないのか分かるか? 絞りつくされてしまうからじゃよ。当人らもそれを理解しておるから、なるべく村には男を入れぬようにしておるのじゃ』


 それも早く言いやがれ!

 いや、こいつの場合、確実に分かった上で黙っていやがったな……。


『心配は要らぬ! 我の力によって今やお主には誰にも負けぬ精力がある! 四、五十人程度との連戦にも耐えられるはずじゃ! むしろ村中のアマゾネスを集めて一晩で百人斬りを目指してほしいのう! 全員一遍に相手をするのもええの! いわば村丼! 村丼じゃ!』


 ダメだこいつ……分かっていたことだが、やはり頭おかしい。


「お姉ちゃん! 離れてよ!」


 頼みの綱はクルシェだ。

 俺を助けようと斜面を駆け下りてくる。


「おっと、邪魔はさせねぇぜ」

「クルシェ、あんたもアマゾネスなら姉の想いを受け止めてやりな」

「っ!」


 だがそうはさせじと割り込むアマゾネスたち。

 その中にはクルシェ母までいた。……おい!


 さすがのクルシェもあれだけのアマゾネスに妨害されては、俺のところまで来ることは難しいだろう。

 万事休す。

 と思ったそのとき、


「グルアアアアアッ!」


 ……完全に忘れてたよ、レッドワイバーン。


 片翼を失って地面に落下した衝撃で気絶していたようだが、死んではいなかったらしい。

 俺を忘れるんじゃねぇ! とばかりに怒りの雄叫びを轟かせ、アマゾネスの集団へと突っ込んでいく。


 いや、というより、狙いは俺のようだ。

 アマゾネスたちを吹き飛ばすと、他には目もくれずにこっちに向かってきた。


「ちっ」


 これにはクーシャも俺の拘束を解いて逃げるしかない。


「助かったぜ。だが――」

「ルァァァッ!」


 踊りくるレッドワイバーン。

 首を伸ばしての鋭い牙撃を躱しつつ、俺はその懐へと飛び込んだ。

 そして下あご目がけてウェヌスを突き上げる。


 ズシャッ!


「~~~~~~ッ!?」


 レッドワイバーンの目から生気が消え、頭から斜面に倒れ込む。

 そのまま数十メートルほど転がり落ち、やがて灰と化した。


「やっぱ凄いな、あの男!」

「私もあいつの子種が欲しい!」

「あたしも!」


 歓声に交じって恐ろしい言葉が聞こえてくる。

 このままでは俺はアマゾネスたちの種馬にされてしまう。


「……よし、逃げよう」


 俺は息をつく暇もなく、斜面を駆け下りた。


「あっ、待て!」


 クーシャが慌てて追いかけてくる。

 さらに他のアマゾネスたちも次々とそれに加わり、俺は数十人に追われる羽目になってしまった。


 怖い!

 めちゃくちゃ怖い!


 絶対に捕まってはならない。

 俺は必死だ。

 転げるように斜面を駆け、集団発情したアマゾネスの群れから懸命に逃げていく。


『くくく、大人しく捕まれば楽になるぞ? もとい、気持ちよくなるぞ?』

「うるせぇ!」

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