第22話 ぜひ子供を作りたい
「グルァァァァッ!」
遠くから獣が吠えるような音が聞こえてきた。
どうやら早くもアマゾネスたちがワイバーンに遭遇したらしい。
連続する咆哮から、ワイバーンは一体ではないようだ。
群れと言っていたし、何体かいるのだろう。
俺はすでに山の中に入っていた。
急な斜面を駆け上っていく。
アマゾネスたちの姿は見えないが、ウェヌスを通じてクルシェの居場所が分かるため迷う心配はない。
「アァァァッ!?」
「っ!」
突然、斜面の上の方から巨体が転げ落ちてきた。
ワイバーンだ。
アマゾネスたちにやられたのか、硬い鱗がボロボロだ。
すぐ近くに転がってきたのでトドメを刺しておいた。
猛々しい雄叫びや木が倒れる音。
そんな激しい戦いの音があちこちから聞こえてくる。
この周辺でワイバーンとの乱戦となっているらしい。
「そっちに逃げたぞぉぉぉっ!」
「逃がすかオラぁぁぁっ!」
「ぶっ殺せぇぇぇっ!」
……お、おう。
女性とは思えない怒声の数々に、俺は「やっぱ来る意味なかったかな?」と思い始める。
どうやら優勢のようだった。
何となく木の陰に隠れながらワイバーンとの戦闘を観察してみたが、恐らく何人かであらかじめ四、五人のチームを作っているらしい。
しっかり連携しており、まったく危なげのない狩りをしている。
一度に数体を相手取るチームは地形を利用することでワイバーンの動きを制限するなど、守勢に回って時間を稼いでいるようだ。
一方、相手がワイバーン一体となれば、とにかく一気に勝負をつけていく。
そうして順調の敵の数を減らしていた、そのときだった。
「ガルルルルァァァァッ!!」
どこからともなくひと際体格のいいワイバーンが現れ、アマゾネスたちの一チームに突っ込んでいった。
通常は緑色の鱗なのだが、こいつは赤茶けた色をしている。
確か、レッドワイバーンと呼ばれる上位種だ。
「「「~~~~っ!?」」」
さすがのアマゾネスたちも回避できず、思い切りその突進を受けて吹っ飛ばされてしまう。
斜面をごろごろと転がり落ちた彼女たちは、起き上がることができなかった。
「気をつけな! こいつ並のワイバーンじゃないよ!」
「上位種か!」
「シャルナのチームは負傷者たちを回収しな!」
四散していたアマゾネスたちがすぐさま集まってきて、数チームが力を合わせてレッドワイバーンを抑え込む。
その間に怪我人たちが救出されていく。
だが十人を超えるアマゾネスたちをもってしても、レッドワイバーンを相手に劣勢に立たされていた。
鋭い爪を持つ前脚の一撃を食らい、一人のアマゾネスが吹っ飛んでいく。
「加勢にきたよ!」
「任せておけ」
「クリッサ! クーシャ!」
斜面を駆け下りてきたのはクルシェ母と長姉だ。
てか、クリッサっていうんだな。
「これでも喰らいな!」
「グルァッ!?」
クルシェ母が見事なジャンピングキックをワイバーンの後頭部に見舞う。
よろめいたその隙を見逃さず、すかさず今度はクーシャがワイバーンの鼻面を蹴り上げた。
どうやらアマゾネス一族の中でも二人は優秀な戦士らしい。
おおおっ! と歓声が上がる。
だがレッドワイバーンも負けじと前脚や尾で反撃。
さらには翼をはためかせ飛び上がると、空から急降下してアマゾネスたちを襲撃する。
「がっ!?」
「クーシャっ!」
クーシャがレッドワイバーンの後ろ脚に捕らえられた。
そのままワイバーンは彼女を連れて空へ。
「このっ!」
クーシャは必死に逃れようとするが、しかしがっしり拘束されていて叶わない。
レッドワイバーンはそのまま退散する気なのか、どんどん高度を上げていく。
このままでは連れ去られてしまう。
「させるか!」
「っ! あんたは……っ!」
俺は木から木へと飛び移ることで空に逃げるレッドワイバーンを追った。
〈空間跳躍〉(ただし劣化版)の副次効果でジャンプ力が上がっているお陰か、あっという間に周囲の木の高さを超え、レッドワイバーンの尻尾に迫った。
しかしあと少しのところで剣が届かない。
「〈万能結界〉!」
足元に小さな結界を展開する。
それを足場に飛び上がり、一気にレッドワイバーンへと追いついた。
瞠目するクーシャと一瞬目が合う。
「おおおっ!」
「アアアアアアアッ!?」
レッドワイバーンの片翼をウェヌスの刃が深々と斬り裂く。
片方の浮力を失った結果、錐揉みしながら落ちていった。
俺はクーシャの手を掴むと、後ろ脚の拘束から強引に引っ張り出す。
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
至近距離で見つめ合う格好になってしまった。
クルシェより大人っぽく、そして肉感的な体つきにも思わずドキリとしてしまう。
だが今はそんな場合ではない。
このまま斜面に叩きつけられればただでは済まないだろう。
「〈気流支配〉」
上昇気流を発生させ、落ちる速度を抑える。
やがて俺はクーシャを抱えたまま、なんとか斜面に着地した。
「ぬおっ!?」
ただやはり足場が悪く、バランスを崩して二人一緒に数メートルほど転がってしまう。
どうにか木に激突して止まった。
そこへアマゾネスたちが駆けよってくる。
「無事みたいだよ!」
「よくやった!」
「誰だか知らないけど、あの男、凄いじゃないか!」
俺たちが無事だと分かるや、喝采が上がった。
と、そのとき。
「んっ?」
突然、俺は何かに唇を塞がれてしまう。
……は?
よく見るとそれはクーシャの唇で。
なぜか俺は彼女にキスをされていた。
「な、何を……」
「お前、マジで強いじゃないか。ぜひ子供を作りたい」
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