第20話 素晴らしい種族じゃ

「「「わー、クルシェおねーちゃんだーっ!」」」


 家の奥からドタドタという足音とともに、何人もの女の子たちが駆けてきた。


 どうやらクルシェの妹たちらしい。

 クルシェは次女で、二つ上に姉が一人いて、二つ下に三女、五つ下に四女、九つ下に五女、十二歳下に六女、そして十四歳下に七女がいるとか。

 随分な子沢山だ。


 しかもその大半が腹違いらしい。

 結婚の習慣がないアマゾネスは、その都度、強い男を捕まえて出産するからだそうだ。


「だれこの人ーっ?」

「うわー、顔に毛が生えてるーっ!」


 男を見ずに育ってきたせいか、俺の髭や顔つきが面白いようでケタケタと笑っている。


「あんたたち、これが男ってものだよ」

「男だって!」

「はじめて見た!」


 俺の身体にペタペタ触ってくる。


「なんかごつごつしてる!」

「かたーい!」

「ねぇ、ここに棒がついてるって本当?」


 こら、股間だけはやめなさい。


「それはそうと、数がちょっと多い気がするんだが?」


 七人姉妹と聞いていたのだが、七人より多い。

 しかもまだクルシェの姉らしき人物は見当たらない。


「お姉ちゃんの子が三人いるから」

「……幾つだっけ?」

「二十歳」


 二十歳でもう三人も産んでいるのか。

 本当に子沢山だな。


 さすがにここまでの多産はアマゾネスの村でも珍しいそうだが、平均すると一人の女性が生涯で四人くらいは子供を作るらしい。

 それ以上となると、片親では育てるのが大変だろう。

 村を出ていく子供も少なくないので、人口は横ばいといったところのようだ。


「クーシャお姉ちゃんは?」

「クーシャなら外に行ってるよ。たぶんもうすぐ帰ってくるんじゃないかい」


 と、そのとき玄関から女性が入ってきた。


「なんだ、クルシェ、帰ってきたのか」


 クルシェより頭一つ分は高いだろう、長身の美女だ。

 肌は褐色で、切れ長な目と赤い唇が妖艶さを醸し出している。

 そしてやはり胸が大きく、ぷりっぷりのエロいお尻をしていた。


「クーシャお姉ちゃん!」


 どうやら彼女が長女らしい。


「ていうか、お前、もう十八だろう? 全然変わらないじゃないか」

「もう、皆して……っ! ぼくはまだまだこれからなの!」


 何かフォローしてあげた方がいいだろうかと思ったが、生憎といい言葉が思いつかなかった。


 そこでクルシェ姉――クーシャは、女ばかりの家族に交じった異分子に気づいたようだ。


「もしかしてそいつがお前がいっつも手紙に書いてる?」

「な、何でお姉ちゃんまで読んでんのさ!?」

「ふうん。まぁ悪くないんじゃないか? それで、もう妊娠はしてるのか?」

「ま、まだだよっ……」

「幾らお前がアマゾネスのくせに奥手だっていっても、さすがにヤってはいるんだろ? もしかして不妊か? だったらいい薬草が――」

「だから何ですぐそんな話になるのさぁっ!」


 ……アマゾネスって、クルシェが特殊なだけで、本当はみんなこんな感じなのか。


『やはり女神に祝福された素晴らしい種族じゃ!』


 さいですか。


 ともかく、クルシェの家は女だけなのに総勢十一人の大家族だった。

 なお、十六歳の三女は男探しのために村を出ているという。


 アマゾネスには結婚という習慣がないが、村の外で結婚するのは自由。

 ゆえに反対されるようなことはなく、俺はすんなりと受け入れられたのだった。


 むしろ好奇心旺盛な幼女たちに何度もズボンを脱がされそうになって大変である。


 今日はクルシェの実家に泊めてもらうことになった。

 というか、この村にはそもそも宿屋がないらしい。

 まぁ別に冒険で慣れてるから野宿でもいいんだけどな。


 夕食も御馳走になることに。

 挨拶に来た身で色々と世話になってばかりでは申し訳ないので、俺は王都でしか手に入らないような食品や衣服、装身具などをお土産として渡した。

 もちろんあらかじめ用意しておいたのだ。


「随分と高そうなものばかりじゃないか。別に気を使ってくれなくてもいいんだけどね。ま、せっかくだから貰っておくとするよ」


 クルシェ母はサバサバしていて男らしかった。

 俺の方が年上なのだが、変な遠慮もない。

 これだけの数の子供を一人で育てようと思うと、悩んだりしている暇がないのだろう。


「そうだ。夕食前にお風呂に入ってきな。旅で汚れてるだろう」


 すると幼女たちがここぞとばかりに、


「あんないするよ!」

「いっしょに入ろー」

「入れるわけないだろ……」

「えー、なんで!」

「いいじゃん!」


 どれだけ男の裸を見たいんだよ。

 この子たちにはもう少し慎みというものを教えたいところだ。


 俺の入浴中に乱入してこられても困るので、クルシェに見張ってもらうことにした。


「悪いな」

「ううん、こっちこそ……ごめんね、みんなこんな感じで」


 浴槽はヒノキでできていた。

 木の香りが強く、心が落ち着きそうだ。


 この村では温泉が湧いているらしく、生活用水としても利用されているとか。

 もちろんお風呂のお湯もその温泉だ。


「おねーちゃんじゃまー」

「ここを通りたければぼくを倒してからにしなよ!」

「じゃあやっつける!」

「やっちゃえ!」

「それそれ!」


 外からドッタンバッタン騒がしい音が聞こえてくる。

 クルシェが幼女たちを撃退してくれているようだ。


「ぎゃう!」

「クルシェおねーちゃん強い!」

「ふっふっふ、まだまだだね!」

「まけないもん!」


 ……ほんと、どれだけ男の裸を見たいんだよ。


 そんな外の戦いを他所に、俺は片足をお湯に突っ込んでみる。

 かなり熱いが、慣れればちょうどいい湯加減だろう。


 と、そのときだった。


 ざばーんっ!


 お湯の中から突然の全裸幼女!

 まさかそんなところに隠れてやがったのかよ!?


 咄嗟に手で隠そうとするが、間に合わず。


「みえたどーっ!」


 勝どきをあげながら幼女は浴室から出ていった。


 ……やられた。

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