第18話 我以上の適任者はおらんじゃろう
なぜかウェヌスが式を執り行う聖職者を務めることになっていた。
「結婚の誓いは愛の女神たるヴィーネに捧げるべきものじゃ。その神威を有するこの我以上の適任はおらんじゃろう」
本人はそう言って無い胸を張っているが、まったく信用できない。
しかしそんな俺の不安などお構いなしに、ウェヌスは式を始めてしまった。
厳かな空気の中、神殿の聖楽隊が美しい音色を奏で始める。
普通は新婦が父親と入場してくるのが一般的だが、今回はその辺りはカット。
最初から俺とアリアは壇上で向かい合っている状態だ。
音楽が終わると、ウェヌスが仰々しく告げた。
「新郎、ルーカスよ。お主はここにおるアリアを、病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも妻として愛し、敬い――」
……意外とちゃんとしてやがるな。
「――セ〇クスを欠かさないことを誓うか?」
前言撤回。
やっぱこいつには任せられねぇ。
首根っこを掴んで壇上から放り捨ててやろうかと思ったが、察知してその前に逃げやがった。
「誓うか?」
「……誓います」
仕方なく続きを促す。
「新婦、アリアよ。お主はここにおるルーカスを、病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも夫として愛し、敬い、セ〇クスを欠かさないことを誓うか?」
「……はい、誓います」
アリアが頬を赤くして宣言する。
するとウェヌスは神妙に頷いて、
「うむ、それでは新郎新婦による誓いのセッ〇スを!」
「こんなとこでするか!」
「おっと、間違えたわい。誓いのキスを!」
マジで誰でもいいからこいつと代わってほしい。
だが今さらどうしようもない。
「アリア……」
「ルーカス……」
俺たちは互いに見つめ合い、ゆっくりと顔を近づけていく。
「ん……」
柔らかな唇の感触。
化粧を施されたアリアはいつにも増して綺麗だ。
そのせいか、もう幾度となくしてきた口づけなのに緊張してしまい、心臓がバクバクと鳴っている。
静かに唇を放した。
すると、
「ダメじゃ、まだまだ誓いが足りぬ! 舌を入れよ! 舌を! キスの濃厚さこそが誓いの深さだと思うのじゃ!」
こいつ……。
だが参列者たちが期待の眼差しを向けてきている。
ここで拒んではその程度の誓いなのかと言われかねない空気だった。
「……する?」
「そう、だな……」
苦笑しつつ、再び俺たちは唇を近づけた。
そして今度はもっと熱い口づけを交わす。
くっ……しかしさすがに人前でやるのは恥ずかしい……っ!
アリアも同じ思いなのか、顔が真っ赤だ。
しかしその恥じらう様子が可愛くて、かえって興奮してしまう。
やがて唇を放したとき、俺の下半身はとんでもないことになっていた。
「よーし、せっかくじゃ、このまま最後までぶぎゃっ!?」
「いい加減にしろ」
俺は拳をウェヌスの頭に叩き込んだ。
「アリアさん、すごく綺麗だったなぁ。ぼくもウェディングドレスを着てみたいけど……うぅ、ぜんぜん似合いそうにない……」
「そんなことねぇだろ。むしろアタシこそ似合いそうにねぇ……い、いや、別に着るつもりもねぇけどな!?」
アリアとの結婚式が終わった後も、しばらく屋敷ではその話題で持ちきりだった。
こっそり聞いていた俺は、クルシェもララも普通に似合うと思うけどなー、と頭の中でその姿を想像しながら思う。
彼女たちの様子をみるに、やはりちゃんと式を挙げておいた方がいいんだろうな。
面倒ではあるが……。
『当然じゃ。たとえ口では要らないと言っておったとしても、本心では望んでおるもの。それどころか、もし式を挙げてもらえんかったら、後々までしこりとして残り続けるじゃろうな。前の我の使い手の中には、眷姫に誕生日プレゼントを渡し忘れてしまったせいで命を落とした者もいたのう』
なにそれ怖い。
覚悟していたことではあるが、やっぱりハーレムというのは大変だ……。
『ふん、毎晩美女を取っ替え引っ替えできることを思えば、それくらいのリスクなど小さなものじゃろ』
だから俺が望んだわけじゃ(定期)。
ところで、結局アイリスは屋敷に居ついてしまった。
心配しているかもしれないので、念のためアルトには手紙を出しておいた。
連れ帰ってくれたら嬉しいんだが……難しいだろうなぁ。
もちろんリンスレット家の代表として、アリアとの結婚式にも出てくれた。
その点に関してはよかったのだが、お陰でますます帰ってくれそうにない。
「私もあんなふうにお義兄さまと式を挙げたいです」
……うん、今のは聞かなかったことにしよう。
さて。
騎士学院の新学期まで、まだ時間があると言えばある。
国内のみならず、他国の王侯貴族の子弟までもが通う学院なので、休みの期間が長く取られているのだ。
帰省するにしても、移動にかなり時間がかかってしまうからな。
もちろんずっと寮で過ごす生徒も多いが。
しかし俺はまだゆっくりとはできない。
もう一つ、この休みの間に行っておくべきところがあった。
「ぼくの実家に……?」
目を丸くするクルシェ。
俺は頷いて、
「ああ。ちゃんとクルシェの親にも挨拶しておかないと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます