第15話 目の前にいるのは

 領主の誘拐事件も無事に解決し、俺とアリアは王都に帰ることにした。

 家族への挨拶という目的も果たしたしな。


「ルーカス兄さま、かえっちゃうです……?」

「やーっ! るーかしゅにーしゃま、かえっちゃだめ!」


 エイラは悲しそうな顔をし、エレンに至っては俺と別れるのは嫌だと泣きながら駄々をこね始めた。

 王都に連れて帰りたくなったが、さすがにそういうわけにはいかないだろう。


「こら、エレン。義兄さんを困らせてはいけません」

「うー」


 アルトが窘めると、エレンはしぶしぶ俺から離れた。


「だけど寂しくなりますね……またいつでも来てください」

「ああ」


 それからアルトは俺たちのために、家臣を集めてパーティを開いてくれた。


「そこに義兄さんが現れ、屈強なギャングたちを単身で次々と薙ぎ払っていったのです……!」

「「「おおおおっ!」」」


 ……途中からなぜかアルトが事件のときのことを大声で語りだし、参加者たちが大盛り上がりし始めたのだが。

 しかもやはり誇張されている。


「さらにギャングのボスを前に、義兄さんは傲然と言い放ちます! お前の敗因はたった一つだ……てめぇは俺を怒らせた!」


 言ってねぇ。

 そんなこと一言も言ってねぇ。

 姉弟そろってなぜそうも脚色したがるのか。


 そんなこんなで騒がしくも楽しい時間があっという間に過ぎ、パーティはお開きとなった。


「にーしゃま……むにゃむにゃ……」


 いつの間にか眠ってしまっていたエレンが母親に運ばれていく。

 普段はとっくに寝ている時間らしい。

 途中までは頑張って起きていたが、さすがに限界が来たようだ。


 俺も部屋へと戻ることに。

 何度もお酒を勧められたが、今日は軽く酔った程度だ。


 さすがの俺も学習した。

 飲みすぎはよくない。

 やはり万一の場合に備え、最低限の理性は残しておかないとな。


 ……まぁ今回は杞憂だろうが。


 なにせ今夜はすでにアリアと予約済みなのだ。

 この状況で別の誰かを抱くなんてあり得ない。


 お風呂に入りたいとのことだったので、もう少ししたら来るだろう。

 俺はベッドの上に寝転がって待つことにした。



   ◇ ◇ ◇



 ――一方その頃アリアは。


 浴室で身体を奇麗にしていた。

 首の後ろや背中、脇、胸の谷間に下腹部やお尻、さらには足の指の間まで。

 しっかりと泡立ったスポンジで、忘れやすいところまで丁寧に洗っていく。


 やはりこうした準備を怠りたくはない。

 好きな人には最高の状態で抱いてほしいのだ。

 もちろんその場の勢いでそのままシてしまうこともあるのだが……。


 石鹸は薔薇のような華やかな香り。

 夜の行為のときにはこれが一番いいと、今までの経験から分かっていた。

 ただしほんのりと鼻孔を擽るくらいでちょうどいい。


「うん、こんなところかしら」


 満足そうに頷き、お湯で泡を落とす。

 脱衣所に出るとタオルで身体を拭き、そのままバスローブを身に着ける。


 そこで異変に気付いた。


「……ドア開かない?」



    ◇ ◇ ◇



 ベッドに寝転がり、五分も経たないうちにドアが開いた。

 思っていたより早かったな。


 部屋に入ってきたのはもちろんアリアだった。

 いつの間にか可愛らしい寝衣を着ている。


 彼女はそのまま俺の傍までやってくる。

 そのとき微かな違和感を覚えた気がしたが、頬を赤らめて恥ずかしそうに寝衣を脱ぎ出すその姿を前に、一瞬で吹っ飛んだ。


 むくむくと膨れ上がる俺の下腹部。

 パンツを脱ぎ捨てると、天を貫く神話の聖塔(ジッグラト)のごとくそそり立っていた。

 それを見て、なぜかアリアが驚いたように息を飲む。


「お、大きい……」


 もう何度も見せているというのに、まるで初めてのときのような初々しい反応だ。

 内心で首を傾げつつも、もはや俺の興奮は抑え切れないほど高まっていて――


『ねぇルーカス、聞こえる? ちょっと助けてほしいんだけど』


 そのとき念話でアリアの声が聞こえてきた。


『アリア……?』

『なぜか脱衣所のドアが開かなくて……出られないの』

『ちょ、ちょっと待て。どういうことだ? まだお風呂にいるのか?』

『そうよ?』

『じゃあ、目の前にいるのは……?』

『え?』


 俺はまじまじと目の前にいるアリア(?)の顔を見た。

 いや、アリアじゃない!

 よく見たら目尻の上がり具合とか、唇の形とかが違う!


 これは妹のアイリスだ!

 髪をアリアと同じ長さにまで切ってたから分からなかった!


「ななな、何やってんだよ!?」

「バレてしまいましたか……ですが、心配には及びません! 私をお姉様だと思って抱いてください!」

「抱けるか!」

「そう言わずに! 私の身体にこんなに興奮されているじゃないですか!」

「そ、それはアリアだと思ってたからで……」

「つまりお姉様だと思えば抱いていただけるということですね!」

「そうじゃねぇ!」

「ふふふ……お姉様……これで私も大人の階段を上ることができます……!」


 アイリスはそううっとりと呟きながら、俺の身体の上に乗っかってくる。


「~~~~~~ッ!」


 すべすべで瑞々しい肌の感触に理性を持っていかれそうになった。

 肉付きの問題か、アリアよりも少し柔らかい感じがする。


『また違った味を楽しめそうじゃのう、グフフ』


 ああそうだな、どんなに美味しい食べ物もずっと同じ味だと飽きてくるもんだし、たまには味変して……って、違う違う違う!

 楽しまねぇから!

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