第13話 一生僕の配下として可愛がってあげるよ

 キィィィンッ!


「な……き、貴様……っ!?」


 俺に斬撃を防がれ、ライオスが目を見開いた。


 ていうか、こいつ、本当にライオスなのか?

 自慢の金髪が真っ白になっているし、顔のやつれ具合といい、五、六年も一気に歳を取ったように思える。

 あれからせいぜい一年と少しだというのに、随分な変わりようだ。


 よっぽど苦労したのかもしれない。

 アリアにフラれるわ、家は取り潰されるわで、踏んだり蹴ったりだもんな。


 とはいえ、こいつは卑劣な手を使って自分の欲望を満たそうとするクソ野郎だ。

 同情心なんて沸いてこない。

 驚きで動きが止まっている隙に、俺は容赦なく腹に蹴りを見舞ってやった。


「ぐがっ!」


 吹き飛び、背後の木箱に叩きつけられるライオス。


 俺はアルトを縛っていた縄を斬った。


「る、ルーカス義兄さん……一体どこから……?」


 唐突に俺が現れたことにアルトは当惑しているようだ。


 その答えはクルシェの持つ疑似神具の持つ能力〈影闇支配〉。

 あれから練習を重ねた結果、短時間なら影の中に潜っていられるようになったのである。


 この倉庫は暗いし、影の中を移動してここまで来るのは難しいことではなかった。


「貴様ァッ! またしても僕の邪魔をする気かァァァッ!!」


 ライオスは目を剥き出しにして吠えるように叫んだ。

 猛然と躍りかかってくる。


「……速い?」


 獣のような動きに一瞬面くらったが、しかし繰り出された斬撃は馬鹿正直なものだった。

軽くウェヌスで受け流す。


「殺すッ、殺すッ、殺してやるゥッ!」


 防御など一切忘れたように、ライオスは目を血走らせて連撃を放ってくる。

 その動きはやはり速く、そしてパワーもあった。

 かつて対峙したときとは比べ物にならない。


 だが、ただの力押しでしかなく、剣技としてはむしろ退化している気がする。

 見極めるのは容易い。


「がぁっ!?」


 隙を突いて再び腹を蹴り飛ばしてやる。


「へ、平民の分際でッ……この僕を――おえええええっ」


 今の一撃がかなり効いたようで、血と一緒に吐瀉物を巻き散らすライオス。

 かつての美青年ぶりはもはや見る影もない。


「今はお前も平民だろう。いや、犯罪者か」


 それに俺は平民ではなく、分不相応だが公爵位を戴いている。

 考えてみれば完全に身分が逆転しているな……。


「黙れェッ! こいつがあれば、貴様ごときッ……」

「っ?」


 ライオスはさっきまで使っていた剣を放り捨てると、腰に下げていた別の剣を抜いた。

 鞘から刀身が現れたその瞬間、禍々しい気配が一瞬にして辺りを支配する。


「むっ、気をつけるのじゃ!」

「こいつは……まさか、魔剣か?」

「そのようじゃの」


 その刀身は乾き切った血のようなどす黒い色をしていた。


 魔剣には固有の特殊能力がある。

 それが何か分からない以上、迂闊には近づけない。


「さあ、出番だよォ、お前たちィッ!」


 そう告げてライオスが魔剣を振るうと、次の瞬間、積み上げられていた木箱があちこちで破裂した。

 中から何かが出てくる。


「なっ……人間?」


 現れたのは人だ。

 木箱の中に隠れていたのだろうか。


 だが一つの木箱から十人以上の人間が姿を現したのだ。

 これだけの人数があんな狭い場所に物音一つ立てずに居続けるなど、あり得ない。

 それに今まで何の気配も感じなかった。


何より彼らは皆、目の焦点が合っておらず、血が通っているとは思えないほど青白い顔をしていた。

 服はボロボロで、身体の各所に怪我をしている。


「お、おい、こいつら、見たことあるぞ……?」

「前に俺たちとやりあって、壊滅させたギャングの連中じゃねぇか……」

「なんでこんなとこにいるんだ……?」

「あ、あいつは確かあのとき死んだはずだぞ!?」


 ライオス配下のギャングスターたちも驚いている。

 彼らの存在を知らなかったのだろう。


「「「アアアアア……」」」


 彼らはそんな呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がる。

 その数、ゆうに五十人は超えていた。


「まさか、アンデッド……?」

「あはははははっ! ご名答だよォッ! これこそがこの魔剣の能力! この剣で殺した相手をアンデッド化し、使役することができるんだッ!」


 ライオスは狂気に満ちた顔で哄笑し、


「こんなふうにねぇ!」


 突然、一番近くにいた配下の心臓を剣で貫いた。


「……え?」


 唖然とした顔でその配下が倒れ込む。

 即死だ。


「なっ……ライオス、お前っ!」

「あははははっ! 実演してあげた方が分かりやすいだろう?」


 直後、倒れた配下がゆっくりと立ち上がった。


「……アアアア……」

「ほうら、あっという間に新鮮なアンデッドの出来あがりだァ!」


 次の瞬間、厳ついギャングスターたちが一斉に悲鳴を上げた。


「に、逃げろぉぉぉっ!」

「俺たちまでアンデッドにされちまうぞ!?」

「あははははっ! 逃がすわけないだろうッ!? お前たち全員、一生僕の配下として可愛がってあげるよォッ!」


 ライオスが使役するアンデッドたちが逃げるギャングスターたちを追いかけ、組み伏せる。


「ひぃぃぃぃっ!」

「この野郎っ!」


 もちろんギャングスターたちは反撃したが、殴られても斬られても動き続けるアンデッドを前には成す術がなかった。

 だがどうやら痛みは感じるようで、


「痛イ……」

「オ願イダ……殺シテクレ……」

「こいつら、しゃべりやがるぞ!?」


 もしかして生前の意識が残っているのか……?


「あははははっ! どうだい、面白いだろう! この魔剣で作ったアンデッドたちはちゃんと思考ができるんだ! だから痛みも感じるし、屈辱だって感じる!」

「ナゼ俺ヲ刺シタァッ!?」

「こんなふうにねぇ!」


 たった今、自分が殺したギャングスターが、怒りの形相で躍りかかってくるのを、楽し気に笑うライオス。


「カ、身体ガ……」

「もちろんどんなに恨んでも、僕を攻撃することはできないし、僕の命令を無視することはできない」


 そうしてライオスはまずはアリアを、次いで俺を見て、


「アリア、この剣で君も僕のアンデッドにしてあげよう! そうすれば君が苦しむ姿をずっと見続けることができるからねぇ! そして貴様もだァ! 二人そろってこの僕を貶めたことを永遠に後悔するがいい! あはははははっ!」

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