第7話 事後承諾かよ
「あー、なかなかいいもんだな、朝風呂ってのも」
俺はアルトの厚意で屋敷の浴場を使わせてもらっていた。
少し熱めのお湯が心地いい。
「るーかしゅにーしゃま!」
そんな舌足らずな声とともに、浴室に小さな影が飛び込んできた。
エレンだ。
真っ裸で、ぺたぺたとかわいらしい足音を鳴らしながらこっちに走ってくる。
そしてジャンプ。
ざぶーん。
「えれんもいっしょにはいっていいー?」
「事後承諾かよ」
言葉の意味は知らなくても、なんとなくニュアンスは伝わったのだろう、エレンはケタケタと笑い出す。
「こら、エレン! ちゃんと身体を洗ってから入らないと!」
そう苦言を口にしながら、遅れて入ってきたのはアルトだった。
「す、すいません、ルーカス義兄さん……えっと、僕たちも一緒に入っても?」
「ああ、もちろん構わない」
「ありがとうございます」
うん、全然構わないんだけどね……。
構わないんだが……。
タオルで身体の前面を隠しているせいで女の子にしか見えねぇ!
肌はやたらと白いし、身体の輪郭も女性的だし、ちょっと頬を赤く染めて恥ずかしそうにしているしで、正直まったく直視できない。
てか、やっぱり女なんじゃ?
確かに胸はまったく膨らんでないが、そういう女の子もいるからなぁ。
……誰とは言わないけどな、誰とは。
「それにしても、さすがルーカス義兄さんは男らしい身体つきをされていて、すごく羨ましいです」
アルトが俺の身体を見ながら言う。
「僕、見ての通り小柄で、骨格も細くて。筋肉だってなかなかつかないんです。父上は体格がよかったので……恐らく母上に似たのでしょう」
と、そのときエレンが「あるとにーしゃま、たおるおじゃまー」と言って、アルトのタオルを引っ張った。
咄嗟に抑えようとするも虚しく、アルトの裸体が露わになる。
「…………いや、アルトもなかなか男らしいと思うぞ」
女説は一瞬で消えた。
立派な男の証明があったからだ。
しかも、どうも世間的に見て巨根の部類に入るらしい俺のそれと、ほとんど大差ない大きさだった。
「~~~~~~っ!」
アルトの顔が真っ赤になる。
「だ、だから嫌なんですよっ! 他はぜんぜん男らしくならないのにっ……ここだけっ……こんなところだけがやたらと成長しちゃって……っ!」
お、おう……。
まぁコンプレックスは人それぞれだよな。
別に普段は見えないのだから、そんなに気にする必要はないと思うのだが……。
「ちんちんちんちん! あるとにーしゃまの、ちんちんおっきい!」
「エレン! やめなさい、そんな大声でっ」
「るーかしゅにーしゃまもおっきーよ? どっちがおっきいか、しょーぶして!」
「絶対しない!」
「え~っ! ちんちん! ちんちん! ちんち~~ん!」
「下品だから連呼しちゃだめ!」
ほんと、子供はちんちん大好きだよなぁ。
俺も小さい頃は訳もなく叫んでたっけ。
『我も――』
お前のとは性質が違うだろ割り込んでくんな。
お風呂でエレンと遊んでいたら少し逆上せてしまった。
メイドさんに冷たい水をもらって、身体を冷やす。
「るーかしゅにーしゃま~」
その間もエレンがくっ付いて離れない。
「すっかり懐かれたみたいね」
「ありあねーしゃま!」
そこへアリアがやってきた。
どうやらウェヌスも持ってきてくれたらしい。
受け取って放り捨てる。
『これ何をする!?』
「悪い、うっかり手が滑った」
『明らかに意思を感じる捨て方じゃったぞ!』
うるさいので拾ってやる。腰に取りつけた。
「家のみんなに稽古をつけてくれたのね?」
「稽古をつけたっていうか、軽く模擬戦をやっただけだぞ」
「でもすごく喜んでたわ。あの神剣の英雄と剣を交えることができて感激だって」
「その神剣の英雄とやらは、誰かさんのお陰でかなり実物より美化されてるけどな?」
「そんなことないわ? ほんのすこーし強調しただけよ」
エレンがアリアの服の裾をくいくいと引っ張った。
「ねーしゃまは、るーかしゅにーしゃまのことすき?」
「ええ、大好きよ?」
「えれんもしゅきー!」
「そう? でもきっとわたしの方が好きよ」
「えれんもまけないもん!」
おいおい、朝っぱらから恥ずかしい言い合いはやめてくれ……。
すでに朝食の準備ができているとのことで、アリアに案内されて食堂へ向かった。
するとその途中で俺たちより先にお風呂を上がったアルトと出くわす。
侯爵家の当主らしい服装に着替えていた。
正装したお供たちを伴っているし、どこかに出かけるのかもしれない。
「すいません、ルーカス義兄さん。今日はこれから所用で外出しなければならないんです。ロクにおもてなしができず、申し訳ありません」
「気にするなって」
そりゃ、領主ともなれば色々と忙しいだろう。
ずっと客に構ってなどいられまい。
「ではアリア姉さん、後のことはお願いします」
「いってらっしゃい」
アルトは急ぎ足で去っていく。
少し緊張した様子だったし、もしかしたら重要な案件なのかもしれない。
今さらだが、変なタイミングで来てしまったのだとしたら悪いな。
「心配要らないわ。むしろあなたのお陰で、間違いなく追い風になったはずよ」
「そうか? ならいいんだが……」
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