第24話 必ず君を護ってみせる
「こうなっては仕方ありませんわ。ルーカスさま、責任を取って下さいまし❤」
そんなことを言いながら、フィオラ王女が俺の腕に抱きついてくる。
その瞳には、かつてそれがクルシェへと向けられていたときのように、ハートマークが浮かんでいた。
「……そもそも心変わりするような伏線あったか?」
「あたくしを命懸けで助けてくださいましたの」
いや、あれはマリーシャが飛び込もうとしていたから咄嗟に……。
「それにこの奈落の底で不安になるあたくしを常に気遣って、勇気づけてくださいましたわ」
そんなことしたか……?
まぁ暗い場所だし、離れ離れにならないよう気をつけてはいたが……。
「『心配するな。俺が傍にいる。必ず君を護ってみせる』。そう言ってくださったとき、あたくし胸が張り裂けそうなくらい嬉しかったんですの」
それは絶対言ってねぇ!
誰だよ、そいつは!
「そして震えるあたくしの手をぎゅっと握って――――きゃっ❤」
赤くなった頬を両手で押さえて黄色い声を上げているが、そんなシーンまったく記憶にないんだが。
どう考えてもこいつの妄想だ。
「たとえこのままここから帰ることができなくても、ルーカスさまさえ居てくださるならあたくし大丈夫ですわっ」
生憎と俺が大丈夫じゃない。
「それにきっとそのうち子供が生まれて、こんな場所でも幸せな家庭を築けるはずですの。最初はやっぱり女の子がいいですわね。もちろん男の子も欲しいですの。できれば五人ぐらいは作りたいですわ。そのためには頑張らないといけませんわね。何をって、ふふふ、決まっていますわ❤」
フィオラ王女の妄想が止まらない。
誰かどうにかしてくれ。
『くくく、なかなかどうして拗らせておるのう。やはり王族というのは普段体面もあって欲望を抑圧しておるから、その分いい感じに熟成されるのじゃろう』
嬉しそうに言うな。
「で、殿下」
「うふふ、嫌ですわね。あたくしとルーカスさまの仲ですわ。気軽にフィオラと呼んでくださいまし❤」
「……フィオラ」
「はい!」
「とりあえず服を着よう……お互いに」
服を着た。
その間に夢から醒めてくれるかと期待していたが、そんな気配はない。
やはり現実のようだ。
俺は本当に王女を抱いてしまったらしい。
――無論、幾らフィオラが可愛いからと言って、手を出したりしたら承知せぬぞ?
怖い顔をした王様の忠告を思い出す。
俺の方から手を出したわけじゃない。
などと言ったところで、そうかならば仕方ない、などとはならないだろう。
……今は考えないようにしよう。
「ともかく、さすがにこんなところで暮らし続けるのは御免だ。どうにかして脱出したい」
「ここから脱出するにはやはり眷姫の力が必要じゃろう!」
「うおっ」
人化したウェヌスがいきなり叫んだので驚かされた。
「……急に現れるなって言ってるだろ」
「へ、変態幼女がまた出ましたわっ」
先日のことで苦手意識があるのか、嫌そうな顔で後ずさるフィオラ。
お前も十分変態だけどな……。
「そんなことより、フィオラよ。お主はこれでこやつの眷姫になった。我が疑似神具を授けようぞ!」
「疑似神具、ですの?」
ウェヌスが簡潔に説明すると、フィオラは目を輝かせて、
「つまり、あたくしとルーカスさまの愛の結晶というわけですわね!」
「うむ、そんなところじゃ」
そうして例のごとく、フィオラの疑似神具が顕現して――
「ティアラ?」
彼女のエメラルドグリーンの頭の上に、輝く王冠が乗っていたのだ。
これまでの疑似神具はどれも武器(ララの靴は微妙なところだが)だったが、これは完全に装飾品である。
「ほほう、なるほどのよう。こやつは――」
俺たちは前回撤退したボスモンスターへ再挑戦していた。
「フフフ、きっと戻ってきてくれると思っていましたよ。どうやら理解できたようですねぇ、ここから脱出する方法などないということを。もちろん、あえて逃がしてあげたのですよ。そうやって自分たちがすでに袋の鼠であることを実感してくれた方が、より楽しめますからねぇ。きっと決死の覚悟でこの私を倒しに来たのでしょう。フフフ、その心、いつまで持つでしょうか。さあ、来なさい、私の眷族たち。あの二人を可愛がってあげなさい。今度は逃がさないようにしてくださいね。……? 私の命令が聞こえたでしょう? なぜこっちに向かって……がぁっ!? な、何をするのですかっ? 私はあなた方の主人ですよっ? なぜ私を攻撃して――ぐごっ? や、やめっ……」
自ら呼び出した二十体もの配下たちの叛逆に遭い、ボコボコにされる悪魔。
どうやら配下の低級悪魔たちと力の差はそれほどなかったらしい。
フィオラが手に入れた疑似神具〝夢冠〟。
その【固有能力】は〈精神操作〉だった。
名前の通り、精神を思い通りに操ることができる能力である。
さすがにどんな相手にも効くわけではないだろうが、低級悪魔にはばっちり効果があったようだ。
「ば、馬鹿な…………す、数百年も待ったというのに…………グハッ………」
お陰でいともあっさり倒すことができてしまった。
いいのか、こんなんで……。
「やりましたわね、ルーカスさま❤」
「あ、ああ」
「ふふふ、わたくしたちの初めての共同作業でしたの……」
ほとんど何もやってないんだが……。
安全地帯へ引き返すと、次の層への階段と脱出用の転移魔法陣が出現していた。
「……ともかく、これで地上に帰還することができそうだな」
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