第9話 なかなか眼福じゃのう
第九層:海岸フロア
俺が初めて足を踏み入れたそこには、見渡す限りの広い海が広がっていた。
人生で海を見たのは一度しかないが、本物のそれと何の遜色もない。
遠くには水平線があって、本当にどこまでも続いているように見える。
これがダンジョンの中だとは俄かには信じられない光景だった。
「ルーカス卿。基本的には砂浜や岩礁地帯を通っていけばいいのですが、場所によっては泳がなければならないこともあります」
と、マリーシャ。
ちなみに辺境伯閣下なんて仰々しい呼び方はやめてくれと言った結果、「ルーカス卿」と呼ばれることになった。
「なのでこちらの水中服を身に着けます」
水中での行動に補正がかかるという特殊効果を有する服へと着替えることにした。
俺は持ってないので、貸してもらえることに。
テントを張った。
ここは安全地帯ではないので、外に見張り役を設けて中で交互に着替えていく。
まずはフィオラ王女とマリーシャからだ。
『ほほう、なかなか眼福じゃのう……じゅる』
エロ剣が涎を垂らしているのは、それが全身を覆い、ぴっちりと肌に張りつくような服だったからだ。
布地が薄いせいもあって、胸やお尻の形、そして腰のくびれなど、身体の凹凸がはっきりと浮かび上がってしまっている。
……なんというか、かえってエロい。
てか、絶世の美女と謳われている王女の身体付きも美しいが、長身でスレンダー体型のマリーシャもなかなかどうして負けていないな。
「あ、あまりジロジロ見ないでください……」
つい魅入ってしまっていると、そう注意されてしまった。
しかし腕で身体を隠し、頬を少し赤くしている様に、普段の真面目そうな雰囲気とのギャップと相まって、余計に視線を釘付けにされてしまう。
……俺的には色々と面倒な王女より彼女の方が断然いいな。
って、何を言ってんだ、俺は。
慌てて頭を振り、冷静さを取り戻そうとする。
『なるほどなるほど。お主はフィオラよりもマリーシャとヤりたいんじゃの』
そこまで言ってねぇだろ!?
『確かに悪くないのう。真面目な女騎士が忠誠心を忘れて欲望に溺れる姿……想像しただけでそそるわい……ぐへへへ』
おい、変な妄想をするな。
まずい、股間が……。
続いてシーフのミリアナと治癒術師のサーラが着替える。
「にしても、サーラ、また大きくなったんじゃない……?」
「えええ? そ、そんなことないよぉ……」
「くっ……あたしなんて去年から一センチも増えてないのに……」
そんなやり取りをしながらテントから二人が出てきた。
せ、セレスよりも大きいかもしれん……。
ほぼ絶壁のミリアナに対して、サーラの方は胸部の巨峰が強烈な自己主張をしていた。
今までは胸当てで隠していたのだろうが、確かにこの服では不可能だ。
手や足の部分は余っているので、サイズ的にはかなり大きいものを選んだようだが、それでも胸部の布地がはち切れそうになっていた。
『ええのうええのう。ぜひともあれでアレをズリズリしてもらいたいものじゃのう』
だから変な妄想するなって。
だいたいお前にアレは付いてねぇだろ。
って、やばい、ますます股間が……。
最後は俺と、俺を除けば唯一の男であるノラクだ。
俺は若干前屈みになりながらテントへ。
「……」
「どうした?」
「な、何でもねぇよ」
なぜかノラクが嫌そうな顔をしていたが、ともかく外で女性陣も待っているし、早く着替えてしまおう。
着ていた軽鎧とインナー、そしてパンツも脱ぎ捨てる。
男性用の水中服もほぼ女性用と同じ。
上下が一体になっていて、手足までしっかりと覆い尽くせるようにできている。
サイズが重要だが、ちゃんと俺に合うものを用意してくれていたようだ。
「っ……や、やっぱあんた、そっちだったのか……っ!」
「は?」
ノラクが愕然としたように後ずさっている。
その視線は、俺の下半身――つまり股間へと向けられていた。
まだ鎮まっておらず、半勃ち状態だった。
「お、おれにはそっちの気なんてねぇからなっ?」
「俺にもねぇよ!?」
「じゃあ何でそんなに大きくさせてんだよっ!」
「そ、それは……す、少なくともお前で興奮したわけじゃない!」
「……」
ノラクの目は明らかに不信に満ちていた。
そういや、こいつはクルシェが女だったってことを知らないのか。
俺が男色や両刀だと勘違いしているのだろう。
言葉で説得するのも難しいので、俺はとっとと着替え終えて外に出ることにした。
俺が中にいたらノラクは服を脱ぐこともできないだろうしな。
弾力が強いため、着るのに少し苦労したが、どうにか身に着けることができた。
「俺は先に出ておくぞ」
未だ警戒してテントの端にいたノラクにそう言い置いて、俺は外に出た。
「ルーカス卿、ノラクと何か言い合っていたようですが、一体――――っ!?」
こちらを振り返ったマリーシャが、なぜか声を詰まらせた。
そして慌てて顔を逸らし、見る見るうちに頬が真っ赤になっていく。
フィオラ王女やミリアナ、サーラもまた、俺の方を見て、
「~~っ!」
「うっわ~」
「っ!」
どういうわけか、すぐに顔を背けたり、顔を手で覆ったりと、おかしな反応を示す。
「どうした? 何か変か?」
もしかして水中服の着方が間違っているのかと思い、視線を下に向けて、俺はようやく彼女たちの反応の理由を悟った。
弾力が強く、ぴっちりと肌に張りつくため、身体の凹凸がはっきりしてしまう。
それはもちろん男であっても例外ではなく――
――要するに股間部分がもっこりしてしまうのだ。
しかも急いで着替えたせいで、まだ半勃ち状態が完全には収まっていない。
お陰でそこにある異物が盛大に自己主張をしてしまっていたのである。
『くくく、ええじゃないか! むしろもっと堂々と見せつけてやるがいい!』
うるせぇ。
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