第28話 そういう子はお断りよ
「なぜっ……なぜですのっ!? こんなの、絶対にあり得ませんわっ!」
癇癪を起したように叫ぶと、周囲の家具や調度品などに当たり散らす。
そこは王宮内にある彼女の自室で、国王の部屋に次ぐ広さと豪華さだった。
セントグラ王国第一王女、フィオラ=レア=セントグラ。
彼女は大いに憤っていた。
それもそのはず。
自分の企みが大きく失敗し、それどころか真反対の結果となってしまったのだ。
「聖女エリエスの神判を受ければ、間違いなく異端認定されると思ってましたのに! あの剣は本物で、あの男が英雄!? そんなはずありませんわ……っ!」
そう。
上手く排除したと思っていたあの憎き恋敵が、なんと国王直々に神剣の英雄として認められてしまったのだ。
そればかりか、北方の獣人の国を属国化し、辺境伯としてその領主に任ぜられたのである。
こうなってしまっては、幾ら溺愛する娘が涙を見せたところで、国王が撤回してくれるとは思えない。
「ですが絶対に諦めませんわっ! 必ずあの男からクルシェさまを取り戻してみせますのっ!」
美しい銀髪を乱し、国内随一の美貌と謳われる少女は力強く宣言する。
その様子をこっそり半開きの戸の隙間から見ながら、傍付きの騎士は秘かに嘆息していた。
「……殿下、いい加減に目を覚ましてください……」
◇ ◇ ◇
久しぶりに騎士学院での日常が戻ってきた。
しかし、俺が神剣の所有者であることが認められ、さらには辺境伯を与えられたことが、ほんの数日のうちに広がってしまった。
お陰で以前よりもさらに注目を浴びることになってしまう。
急にこれまでとは態度を変え、あからさまに近づいてこようとするやつもいて、少々辟易させられる。
まぁ、主に王女様との噂のせいで今までよく嫌がらせを受けていたのだが、それがほとんどなくなった点は素直にありがたい。
さすがに相手が爵位持ちで王宮や大神殿が公認する英雄ともなれば、下手なマネはできないのだろう。
女子からの誘いもよく受けるようになってしまった。
「ルーカス様、よろしければわたくしとお昼ご一緒致しませんか?」
「悪いけどお断りよ。私が先約しているから」
「……では、明日はいかがですか?」
「明日も私と食べる予定なのよ。もちろん明後日も明々後日も、これからずーっとね」
大抵はこんなふうにアリアが刺々しくあしらってくれるが。
「も、もう少し言い方というものが……」
「なに? あの子と一緒に食事がしたいの?」
「いえ、何でもありません」
……なんで怒っているのだろうか?
今まで俺が眷姫を増やしてしまっても、すんなり受け入れていたのに。
も、もちろんこれ以上は増やす気なんてないぞっ!?
「だって明らかにあなたの地位だけが目当てじゃない。そういう子はお断りよ」
「それを言ったらララだって……」
「ねぇ本気で言ってる?」
じろりと思いきり睨まれてしまった。
なぜだ……?
これまではずっと学院の寮を利用していたが、最近は屋敷の方に帰ることが多くなった。
今や眷姫五人のうち三人が屋敷で暮らしているからな。
イザベラが下心とともにくれたものなので、できればあまり使いたくなかったのだが。
……夜にわざわざ寮まで来てもらうのも悪い。
いつの間にか夜の相手はローテーションが決まっていた。
そこにはララも組み込まれているようで、時間になるとおっかなびっくり俺の部屋にやってくる。
「無理しなくていいんだが……」
「うっせぇ! いいから早く抱きやがれ……っ!」
俺の説得を梃子でも受け入れようとしない彼女は、顔を真っ赤にしてウサ耳を震わせながら服を脱いでいく。
白く美しい肌が露わになって、ついつい見惚れてしまっていると、
「うぅ……てめぇも……早く脱げよぉ……」
俺も男だし、大事な部分を腕で抑え、涙目でそんなことを言ってくる裸の美少女を目の前にしては、堪えがたい欲情を覚えるのも仕方ないことだろう。
それでも
なので最近は酒の力を借りることにしていた。
「恥ずかしがらなくていいんだよ、マイハニー! 僕は君の愛を知っている!」
「ほんっと酒飲むと性格変わるよな!?」
ところでローテーションには、一日だけ休息日を設けてもらっていた。
さすがに毎晩だと身体が持たないのでありがたい。
「ご主人様! 今夜こそあたしを女にしてください!」
「「「「我らこそぜひ!」」」」
……うん、やっぱ休息日は要らんわ。
イレイラやエルフ四人衆が迫ってくるので、かえって心も身体も休まらないのだった。
「ならば休息日はなしにしよう。そもそも私にとって、七日に一度しかルーカス殿に抱いてもらえないのはとても辛い」
リューナがそんなことを言い出す。
するとクルシェが恐る恐る提案した。
「じゃ、じゃあ、毎晩二人いっぺんに相手をしてもらうとか……? そしたら三日に一度になるけど……」
「良いアイデアだと私は思う」
妙案とばかりに頷くリューナ。
俺は慌てて割り込む。
「ちょっ、それは勘弁してくれっ」
『いっそのこと毎晩全員でやるのはどうじゃ! まさに男の夢! ハーレム×××!』
「おいっ」
「ふむ、なるほど」
ウェヌスがまた余計なことを言いやがった。
リューナも「なるほど」じゃねぇよ、何で乗り気になってんだよ。
「そそ、それはさすがに恥ずかしいです……っ! だ、だって、あんな姿を皆さんにも見られてしまうってことですよね……?」
セレスが顔を真っ赤にしながら異を唱える。
「心配要らないわ。わたしたちだって同じような姿をしてるから」
「……うん、もうやめよう、この話は」
結局、六日で一回りするローテーションで一人ずつ相手にしていくことになった。
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