第26話 もう一つ良い報告があるわ
「ご無事のようでなによりです、ルーカス様、リューナ様」
「予想以上に帰還が遅いのでずっと心配しておりました。北方では獣人が攻めてきたという話も聞いていましたし……」
「もちろん主君ほどのお方。我らの心配など無用だと思っていましたが」
「我らは幾度となくレアスに向かおうとしました。しかしその度に強制依頼を出され……リューナ様から冒険者の方は任せたと命じられた以上、応じるしかなく……くっ!」
エルフ四人衆が口々に言う。
「それにしてもさすがは我らが主君! まさかたった数人を率いて、獣人の侵攻を食い止めてしまわれるなんて!」
「やはり我らの目に狂いはなかった! 主君こそ、歴史に名を残す大英雄です!」
相変わらず大袈裟な……。
って、何でこいつらがそこまで知ってるんだ?
「ところで、主君。そちらの方々は……?」
そこで彼らの視線が、出発時にはいかなったセレスやララへと向く。
人見知りするララはさっと俺の背中に隠れたが、セレスの方は前に出て堂々と名乗った。
「わたくしはセレスティーネ=トライア。レアス聖騎士団の特務騎士、そしてルーカス様の眷姫です」
「「「「なっ!?」」」」
セレスが自らを〝眷姫〟と言った瞬間、エルフ四人衆が愕然としたように目を見開いた。
「ま、まさか、我らを差し置いて、眷姫に……?」
「そんな……」
わなわなと唇を震わせ、この世の終わりといった顔で呻く。
「あ、えっと……わ、わたくし……その……」
そのあまりの様子に、さすがのセレスも困惑している。
「……まさかとは思うが、そっちの兎人も……?」
「ひぇっ?」
ロウが視線だけで射殺しそうな目で睨み、ララが身を竦ませた。
「くっ……なんということ……! 我らがいない間に、主君は新たな眷姫を作っておられたなんて……!」
「しかし、これは逆にチャンス! 口では否定しつつも、やはり主君はハーレムを欲しておられるに違いない!」
「欲してねぇよ」
断じて。
「主君! どうぞ我らも抱いてください!」
「いつでも準備はできております!」
「だから欲してねぇって」
ほんと、どうにかしてくれ……。
「……テメェ、一体どんだけの女を誑し込んでやがんだよ……?」
ララが引いている。
俺は何もしてないんだけどな……。
あと、四人のうち二人は残念ながら男だ。
エルフたちのアピールに辟易しつつ、俺は屋敷内へ。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」
「……お、おう」
今度はイレイラが雇ったメイドたちである。
しかも全員が若くて綺麗。
お陰でこの屋敷にいると落ち着かないので、今後も学院の寮を拠点に生活するつもりだ。
「お邪魔しているわ」
「って、何でお前がいるんだ?」
屋敷のリビングにいたのは、偽聖女エリエスだった。
ソファに腰掛け、優雅に紅茶を嗜んでいる。
そして護衛と思われる騎士が二人、部屋の隅に控えていた。
彼女が王都にいることは知っていた。
今回の獣人の侵略のことで、王宮に用事があったらしい。
俺たちがレアスに戻ったとき、すでに彼女は神殿を発った後だった。
問題はなぜこの屋敷にいるかなのだが……。
王都にはレアス神殿の支殿もあり、そこに滞在しているはずだった。
「決まっているわ! あなたに会いにきたのよ、ダーリン!」
「誰がダーリンだ」
背後からエルフたちの愕然とした声が聞こえてくる。
「ま、まさかあの女まで……?」
「我らはどこまで追い抜かれてしまうというのか……?」
エリエスは眷姫じゃないから。
「それと、国王陛下との話し合いの結果を報告しようと思って。ちゃんとあなたが神剣の英雄だということを認めさせてきたわ」
「マジか」
つまり俺は、国家が公認する英雄になってしまったということ……?
「そうよ。これでもうこの国では誰も公に反対意見を口にすることなんてできないわ! ……何でそんなに嫌そうな顔をしてるの?」
「……嫌だからだよ」
俺が英雄?
冗談にもほどがあるだろ。
酒に酔って〝こいつ〟を抜いてしまっただけで、中身はただのおっさんだぞ。
「心配要らないわ。そのうち慣れてくるわよ」
……慣れるようなものなのか?
「あ、それともう一つ良い報告があるわ」
俺の思いなど余所に、エリエスは嬉々として話を続ける。
〝良い報告〟と聞いて嫌な予感しかしないが、まぁ最初のやつよりはマシだろう。
「あなた、今後はバザを領地にすることになったわ」
「……は?」
翌日、俺はエリエスと共に王宮に来ていた。
王様に謁見するためだ。
ド平民の俺は、もちろん王宮に入ったことなど一度もない。
豪奢な廊下を進みながら、すでにがちがちに緊張していた。
「ほ、ほ、本当に俺なんかが陛下に会って大丈夫なんだろうな……?」
「今さら何を言ってるのよ? 平気だから堂々としていればいいの。ほら、背筋を伸ばして」
エリエスはさすが平然としている。
……偽物の聖女なのに。
まぁ百年近くもずっと人々を欺き続けてきたのだ。
肝は誰よりも座っているのだろう。
それに王様といっても、彼女からすれば子供のような年齢だしな。
やがて謁見の間に辿りつく。
その奥に、玉座に腰掛けた体格のいい男性の姿があった。
彼こそが、セントグラ王国国王フェルナーゼ=レア=セントグラ――通称フェルナーゼ三世だろう。
部屋の左右には、この国の貴族たちがずらりと並んでいた。
エリエスと共に入ってきた俺へ、品定めするような遠慮のない視線を向けてくる。
これだけ多くの貴族たちを見ること自体、初めての経験だ。
しかし俺はこれから彼らの仲間入りをすることになるらしい。
今後セントグラの属国となる獣人の国バザの領主として、俺は辺境伯の称号を与えられるのだとか。
マジかー(棒)。
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