第22話 おじさんとたっぷり楽しいことしようね

 宴会が終わると、俺たちは族長の屋敷へと案内された。


「狭いところで申し訳ないのじゃが、今晩はこちらに泊まっていってくだされ」

「おっけーおっけー、おまたのけー」


 もちろん俺は完全に酔っ払っている。


 用意されたベッドの上に大の字に倒れ込み、


「ふはははははっ! せかいよ、俺をまっていろ!」


 などと意味不明なことを叫んでいたときだった。

 軽いノックのあとに部屋の扉が開いたかと思うと、緊張の面持ちで一人の少女が入ってくる。


 ララだった。


「おー、ららー?」

「て、て、テメェに頼みたいことがあってきた……っ!」


 ベッドのすぐ脇までやってくると、意を決した表情で彼女は言った。



「今度こそアタシを抱いてくれっ!」



「おっけーおっけー、おしりのけー」

「へ? ひゃっ!?」


 俺は彼女の腕を引っ張ってベッドの上に倒すと、その上にのしかかった。


「ぐへへへ、ララちゃーん? 覚悟はいいかなー?」

「ちょっ、えっ? 前回とまったく対応が違わねぇか!? って、酒臭っ! テメェ、めちゃくちゃ酔ってんじゃねぇか!」

「俺だって男だ! 君の本当の気持ちくらい理解している!」

「なっ、何の話だっ?」

「実はとっくに俺に惚れているんだろう! だから抱いてほしいんだな!」


 酔って無駄に自意識過剰になっている俺はそんなことを言う。


「べべべ、別にテメェが好きだからじゃねぇし!? アタシはただ一族のために……」

「うんうん分かってる分かってる。ツンデレツンデレ」

「だ、だから違にゃっ!?」


 ララが悲鳴を上げた。

 俺が敏感なウサ耳を触ったからだ。


「かわいい声~」

「てっ、テメェのせいだろうがっ!?」


 もちろん強く触ったりなんてしない。

 酔っていてもその辺はちゃんと弁えている。


 ウサ耳を優しく撫で続けていると、だんだんと彼女の身体から緊張が解けていく。

 潤んだ瞳で俺を見詰めてくる様子に、酔いも手伝って一気に欲情がせり上がってきた。


「さぁて、おじさんとたっぷり楽しいことしようねぇ」

「その言い方、完全にヤバイやつだろ!?」


 こうして俺はまたしても酔った勢いで一人の少女を抱いてしまったのだった。



    ◇ ◇ ◇



 ――やけに気持ちのいいベッドだな……。


 翌朝、目を覚ましたララが最初に思ったのはそれだった。

 何でこんなところに寝ているんだっけ? などと寝起きのぼんやりとした頭で考えながら、ゆっくりと身体を起こした。


 その拍子にシーツがずり落ちる。

 よく見ると全裸だった。


「っ!?」


 さらにすぐ隣に同じく裸の男が寝ていた。

 完全に昨晩のことを思い出して、見る見るうちにララの顔が真っ赤に染まっていく。


 ――そ、そうだった……! あ、アタシは昨晩、こいつと……


 ついに一線を越えてしまったのだ。


 もちろん初めての経験である。

 なのに、あんなにも……


「~~~~~~っ!」


 次の瞬間、ララはベッドから飛び降りていた。

 そのまま裸体をシーツで隠しただけの格好で部屋から飛び出す。


 廊下を全力で走り、懐かしい自分の部屋へと向かう。

 自室に飛び込んだララは、そのままベッドにダイブした。


「うううううう~~~~~っ!」


 枕に顔を突っ込み、唸るような声を上げながらバタバタバタと手足をバタつかせる。

 そうしてないと恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。


 男は狼だ。

 我を忘れたように激しく女体に貪りついてくる獣だ。


 特に初めての女性にとっては、とにかく痛くて苦しい。

 ゆえに本当に喰われる覚悟で臨め。


 ララは一族の女性たちからそう教えられていた。

 なので昨晩は、ほとんど戦場に赴くような覚悟でこの部屋のドアを叩いたのだ。

 しかも相手は酒を飲んで酔っていた。


 それなのに、待っていたのは優しく包み込むようなもので。

 気づけば心も身体も完全に許してしまっていた。


「あ、あんなのズリィよぉ……」


 身体に刻まれた快楽を思い出し、ララは非難めいた呻きを漏らすのだった。



    ◇ ◇ ◇



「……すいません。またやってしまいました……」


 翌朝、俺はアリアたちに謝罪していた。


 あれだけもう眷姫を増やさないと誓っていたというのに、またしても酔った勢いでララを抱いてしまったのだ。

 ほんと、いい歳して何をやっているんだ、俺は……。

 自分が情けなくなってくる。


 アリアたちはきょとんとして、


「え? いつものことでしょ?」

「うん、別に謝るようなことじゃないと思うけど……」

「ララ殿なら遠からぬうちに眷姫の仲間入りを果たすと私は思っていた」

「むしろルーカス様の深い愛ならば、きっともっと多くの女性を幸せにすることができるとわたくしは思います」


 やめてくれ……当たり前のように受け入れるのは……。

 それに俺は別に望んで眷姫を増やしているわけじゃないんだよ……。


「英雄様」


 と、そこへ族長のフーリアがやってくる。

 全身から脂汗が噴き出してきた。


 こんなおっさんが娘を傷物にしてしまったとしれば、温厚な兎人族と言えど、きっと激怒するに違いない。

 か、隠し通すしかない……!


 俺がそんなことを考えていると、


「あの娘は少々気性が荒くて乱暴なところはありますが、心を許した相手には尽くす性格ですじゃ。ぜひ可愛がってやってくだされ」

「え?」

「それと英雄様のお力で、ぜひ一族のこともよろしくお願いしますじゃ」


 ……こいつ、娘を売りやがったな。

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