第16話 君に選択権なんてないんだよ
フラウの手にあったのは、禍々しいオーラを醸し出す不気味な剣だ。
思わず息を呑むララへ、フラウは親しげに話し出す。
「お陰で僕は他の獣人たちを屈服させ、獣王になることができた。もちろんファラも取り戻すことができた。いや、それどころか、後宮にいた女どもはすべて僕のものさ。さすが好色で知られていたレオンが集めただけあって、美人ばかりだ。今まで僕ら兎人族では絶対に手が届かなかった種族の女が沢山いる」
「なっ……テメェ! それじゃあ、獣王がやっていたことと一緒じゃねぇか!?」
「当然だろう? それこそが王者の特権なのだからねぇ」
「姉貴はっ……姉貴のことはどうしたんだよ!」
「もちろんファラのことはちゃんと可愛がっているさ。最初はちょっと小言が煩かったけれど、すこーしキツイお仕置きをしたら大人しくなってくれたよ。女のくせにこの僕のやることに口出しするなんてねぇ」
「っ!」
ララは愕然とした。
幼い頃は姉も含めて三人でよく一緒に遊んだ。
正直言って頼りがいのない性格だったが、それでも本当の兄のように慕っていたのだ。
だが今、目の前にいる青年は、そんな彼女のよく知るフラウではない。
「それにしても少し見ない間に随分と綺麗になったね。さすがにファラほどじゃないけれど。そうだ。君も僕の後宮に入れてあげよう。姉妹揃って僕に奉仕するんだ」
「ふ、ふざけんなッ! 死んでもお断りだッ!」
「君に選択権なんてないんだよ」
「っ!?」
突然、両足の足首を何かに掴まれてしまう。
地面から生えてきた腕――それは瓦礫で生み出されていた。
「くそっ! 離しやがれっ!」
じたばたと暴れるが、がっしりと掴まれていて振り払うことができない。
フラウが近づいてくる。
「ひっ……」
そのときだ。
フラウが何かに気づいたように足を止めた。
「これは……?」
直後、足元から激しい振動が響いてきた。
突如としてフラウとララのちょうど中間あたりの瓦礫が盛り上がったかと思うと、噴火めいた爆発が巻き起こった。
四散する瓦礫を浴びて、ララは「いででででっ!?」と悲鳴を上げる。
「ふう、どうにか地上に出られたみたいだな」
「あ、ララがここにいるわ。良かった。あなたも無事だったのね」
現れたのはルーカスたちである。
◇ ◇ ◇
地下空間が崩落したとき、セレスが咄嗟に結界を展開させ、お陰でどうにか圧死を免れることができた。
捕らわれた人たちも結界の範囲内にいるため無事だ。
ただ……ララがいない?
俺たちのすぐ近くにいたはずだが、まさか彼女だけ崩落に巻き込まれてしまったのか?
しかし今の俺たちに彼女を探す術はない。
無事であることを祈りつつ、ともかく自分たちがまずここから脱出しなければ。
「くっ……さすがに重いですね……」
「すぐに拘束を解いてクルシェの影の中に避難させるんだ!」
「う、うんっ。えっと、釘は……」
「それは後からでいい!」
今ここで抜いても、しっかりした処置を施す余裕はない。
とりあえず柱に身体を縛りつけている縄を外していく。
「わたしに任せて」
アリアが紅姫を振るい、次々と縄を焼き切っていった。
結び目が固く縛られていたので、わざわざほどくよりずっと早い。
そうして拘束から解放させると、体力を回復してもらうためポーションを飲ませてから、影の中へと入ってもらった。
人数が減ったので、セレスが結界の規模を小さくする。
これで強度や維持時間にも余裕ができるはずだ。
「問題はここからどうやって地上に出るかだが……」
「私がやってみよう」
リューナが天穹を頭上に向かって構えた。
周囲の空気が矢に集まって、さらにはそれらが渦を形成していった。
矢が放たれた。
頭上を埋め尽くす瓦礫に激突すると、鋭く回転しながら掘り進んでいく。
途中で勢いが収まってきたと見るや、リューナは第二、第三の矢を放った。
そして、
「空が見えたぞ」
地上まで掘ることに成功したらしい。
あとはセレスが階段状に結界を作り出し、それを足場に外へと脱出する。
「ふう、どうにか地上に出られたみたいだな」
「あ、ララがここにいるわ。良かった。あなたも無事だったのね」
「い、生きてたのか……っ!?」
そこにはララの姿があった。
尻餅をついて目を白黒させているが、見たところ無事のようだ。
一方、反対側には彼女と同じ兎の耳を持つ青年の姿があった。
その手には禍々しい意匠の剣が握られている。
「お前がフラウだな? 随分と手荒な歓迎をしてくれるじゃないか」
恐らく魔剣の力だろう。
屋敷内に人の気配がないことから罠の可能性を警戒してはいたが、まさか屋敷ごと破壊してくるとは、さすがに予想外だった。
「あれで生きているなんてねぇ。さすがは神剣の英雄サマというわけか」
「……俺のことを知っているのか?」
「こう見えて僕は情報通だからね」
作戦が失敗したというのに、フラウからは余裕が感じられた。
それだけ自身の持つ魔剣の力を絶対視しているということか。
それともまだ何か手を隠しているのか。
そのときだった。
獣人たちが次々と姿を現したのは。
屋敷内に誰もいないと思っていたが、あらかじめ外へ避難させていたのだろう。
やられた。
完全に囲まれてしまっている。
「あははははっ、これだけの獣人を相手にどう戦うのかな、神剣の英雄サマ?」
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