第4話 さすがにやり過ぎだろ
朝食を取った後、俺たちは屋敷の庭に集まっていた。
庭と言っても、第一騎士隊の訓練にも利用されている場所なので、かなり広い。
そこでセレスが疑似神具〝月鏡(げっきょう)〟を使い、結界を展開させた。
「これが最大です」
「半径十五メートルといったところか」
「はい。以前の結界だとせいぜい五メートルが限界でしたので……面積で言うとおよそ九倍ですね。さすがは本物の神具が生み出した盾です」
月鏡の【固有能力】は〈万能結界〉。
先日、レアス神殿に乗り込んだ際も役に立ってくれたが、まだじっくりとその性能を検証していなかった。
なので今こうして確かめているというわけだ。
「この大きさなら、二、三十人はまとめて護ることができそうね」
と、アリア。
さらにリューナが結界の内側で弓を引いて、
「ふむ。中からは攻撃できるようになっているのか」
放った矢は結界をすり抜け、外へと飛んでいった。
この性質を利用すれば、結界が破壊されない限りはこちらから一方的に攻撃を仕掛けられるということだ。
……それ、さすがにズルくないか?
ただでさえこっちにはリューナという、遠距離攻撃の鬼がいるというのに。
「つ、次は強度だな」
深くは考えないようにして、続いて結界の防御力を確かめることにした。
幾ら大きな結界でも、強度に問題があっては意味がない。
「クルシェ」
「うん!」
クルシェが結界に近づいていく。
前回の結界はあっさりと彼女の拳で破壊されてしまったが――
「えいっ!」
――ガンッ!
「わっ、すごい!? ビクともしなかった!」
クルシェの拳を受けても、結界には罅一つ入っていない。
「じゃあ次は本気でやってみるね」
クルシェは地面を蹴ると、走りながら拳を繰り出す。
――バギンッ!
さすがにこれには耐え切れなかったようで、割れてはいないものの、結界に大きな亀裂が走ってしまった。
「う~、破られてしまいました……」
セレスが肩を落とし、悔しげに唸る。
だがすぐに気を取り直したように、
「で、ですが、結界を小さくすれば、もっと強度を上げることができます!」
結界が縮まり、半径五メートルほどに。
「よおし、今度も!」
クルシェは再びダッシュしてから殴打を結界に叩きつけた。
――ガァンッ!
「っ! 硬っ!?」
「ふふふ、この大きさなら耐えられるようですね」
「う~、悔しい!」
今度はクルシェが悔しそうに唸る番だった。
「わたしもやってみるわ」
「私もやろう」
さらにアリアとリューナが、斬ったり燃やしたり矢を当てたりしたが、セレスの結界はビクともしない。
「……なるほど。こうなったら意地でも破ってやるわ」
「そうだね」
「私は負けない」
どうやらムキになってしまったらしい。
「ふふ、やれるものならやってみてください!」
セレスもやる気満々だ。
アリアが紅姫を大上段に構える。
すると剣先から凄まじい火柱が立ち上がった。
クルシェも腰を落とし、身体を捻って影夜を装着した右腕を後方に引いた。
黒い影がその腕を覆っていく。
リューナが天穹の弓を引くと、彼女に周辺の空気が引き寄せられていった。
そして番えた矢に集束する。
「はぁぁぁぁぁっ!」
裂帛の気合いとともに結界へと剣を叩きつけたのはアリアだ。
同時に爆炎が巻き起こり、辺り一帯に熱風が吹き荒れる。
空からは大量の火の粉が降り注いできた。
「とりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああっ!」
一瞬遅れてクルシェが大地を蹴り、結界に連打を見舞う。
その拳が何十本にも見えるのは一瞬残像かと思ったが、どうやら拳状に成形された影のようだった。
しかしその一撃一撃が、クルシェ自身の拳に匹敵する破壊力を有している。
「ふっ!」
短く息を吐いて、リューナが矢を放つ。
渦を巻く大気の後押しを受けながら発射されたそれは、結界に激突した後も止まらない。
回転しながら結界を抉り進んでいく。
「って、さすがにやり過ぎだろ!?」
俺は思わずツッコんでいた。
直後、セレスの結界が三か所から同時に崩壊した。
「と、とりあえず強度についても大よそ分かったな」
気を取り直して、俺はそう実験結果をまとめる。
『あれなら危険度S級の魔物の攻撃にも耐えられそうじゃの』
彼女の〝全力〟という条件は付くものの、ウェヌスの言う通りの強さはありそうだ。
ただしあまりに長時間、維持し続けることはできそうにないが。
それから、クルシェの影を使って結界を潜り抜けることはできるのかということも調べてみた。
結論から言うと、影の中に潜っても、結界を通り抜けることは不可能だった。
どうやら単純に空間的に外からの侵入を防いでいるわけではないらしい。
さらに通常の結界の他にも、先日ゼルディアに対して使った敵対存在を強制的に弾き飛ばす結界や、攻撃を反射させる結界などについても詳しく調べてみた。
〈万能結界〉と言えど、さすがに完全に万能とはいかず、例えば地に深く根を張った木を弾き出すことはできなかったし、あまりに強い攻撃だと反射できずに結界自体が壊れてしまったりした。
こちらの存在を外から見えなくさせる隠蔽結界だったり、結界内にいる敵を弱体化させる結界だったりと、他にも便利な性能の結界があることも判明した。
「これで戦いの幅が大きく広がったわね」
アリアの言う通りだが、どう考えてもこれは過剰戦力ではないだろうか?
この戦力で想定される相手となると……あまり考えたくないな。
と、そんなふうに、新戦力の能力を確認していると、
「た、大変だぜ!」
息せき切ってゼルディアが駆け込んできた。
「どうされたのですか、ゼルディア隊長?」
「北の獣人連中がこの国に攻めてきやがったんだよ!」
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