第3話 五人でやりましょう
すぐ目の前に美しい寝顔があった。
すうすうと規則正しい寝息が、甘い香りと共に俺の唇を湿らせている。
新たに俺の眷姫になったセレスティーネ――セレスが、寄り添うように眠っていた。
長い亜麻色の髪は少し乱れている。
生真面目な彼女にしては珍しいことだが、昨晩のことを考えればそれも当然だろう。
思い出して下半身が熱くなってくる。
このまま寝ている彼女に襲いかかったら、さすがに嫌われてしまうかもしれない。
そう思ってどうにか衝動を押え込んでいると、
「……ん…………ルーカス、様……?」
彼女の瞼がゆっくりと開き、目が合ってしまった。
俺がずっと寝顔を見ていたと思ったのか、
「お、おはようございます……。あ、あの……あまり、寝顔を見ないでください……その、恥ずかしいので……」
シーツで赤くなった顔を隠しながら、そんなことを言ってくる。
「……へ、変な顔してるかもしれませんし……」
「いや全然変じゃないと思う」
俺は即座に否定していた。
「むしろずっと見ていたいくらい可愛い」
まぁ見ていたのは胸の方だったけどな!
「ふぇっ……?」
セレスは変な声を上げたかと思うと、ぼふっと頭から蒸気が。
「うぅ……面と向かってそんなこと言うなんて…………は、恥ずかし過ぎますよぉ……」
今までまったく男との接点がなかったせいか、セレスはあまりにも耐性がないようだった。
ちょっとした甘い囁きでも、すぐに茹ってしまう。
……その様子が可愛くて、ついつい言ってしまうのだが。
と、そこで彼女は何を思ったか、恐る恐る訊いてきた。
「あの……わ、わたくし、上手くやれていますでしょうか……?」
「というのは……?」
何のことかと、俺は首を傾げる。
「その……わ、わたくしばかり……愛していただいているように思えてしまって……」
眉を下げ、申し訳なさそうにそんなことを言ってくるセレス。
「……他の眷姫の皆様のように、ちゃんとルーカス様を満足させられているのか……とても心配で…………んっ?」
顔を伏せてとつとつと呟く彼女を抱き寄せると、俺はその唇を奪った。
しばらく感触を堪能してから解放する。
「何を言ってんだ。俺は十分満足している」
「で、ですが、わたくしはまだまだ拙いですし……」
「これから少しずつ慣れていけばいいだけだろ? それに自分のために健気に頑張ろうとしてくれてるところに、男は興奮するもんなんだよ」
「そ、そうなのですか……?」
はい。そうです。
お陰でおじさん、とても頑張っちゃってます。
「そう言っていただけると……嬉しいです」
安心したように息を吐きつつ、セレスは俺に抱きついてきた。
大きな胸が押し当てられ、至福だ。
この後、朝っぱらからヤった。
服を着替えて寝室を出ると、廊下にソフィたちの姿があった。
セレスはシャワーを浴びたいからと先に出たので、俺一人である。
「おはようございます、ルーカス様!」
「朝からお勤めお疲れ様です!」
……朝からヤってしまったのが完全にバレているようだ。
まさか、その間ずっとここにいたわけじゃないよな?
ないと信じたい。
「で、何で部屋に入ろうとしているんだ?」
「もちろんお掃除のためです!」
「そういうのはメイドの仕事じゃないのか……?」
嬉々として応えるソフィに、俺はそう指摘する。
するとそこへなぜかイレイラが現れて、
「その通りですよ! ベッドメイキングはメイドの仕事です! すでに朝食ができてますので、騎士の皆さまは食堂へどうぞ!」
彼女もここの屋敷のメイドではないのだが……やる気満々だ。
「いえ、ここはこの屋敷やセレス隊長のことを熟知している私たちにお任せください」
しかしソフィは譲らなかった。
イレイラは首を振って、
「いえいえ、あたしだってご主人様のことは熟知してますので!」
してないだろ。
「いえいえいえ、私どももルーカス様への想いは負けていませんから」
「いえいえいえいえ、あたし一人で四人分を軽く超えてますし」
「いえいえいえいえいえ、むしろ四人合わせれば貴方の十倍以上です」
「いえいえいえいえいえいえ、ぽっと出のあなた方に負けてるとは到底思えませんし」
一体何を張り合ってるんだ……。
と、そこで妙案を思いついたというように、サリーが手を打った。
「では、五人でやりましょう」
「「「それです!」」」
……もう好きにしてくれ。
口を出す気力も起きず、俺は投げやり気味に朝食を取るべく食堂へと向かった。
レアス神殿への襲撃から数日が経った。
俺はまだセレスの屋敷で世話になっている。
というのも、結局、聖騎士団の筆頭隊長を続けることになった彼女が、ある程度、落ち着きを取り戻すまでは神殿を離れることができないためだ。
さすがに彼女を置いて王都に帰るというわけにはいかないだろう。
聖女の神託が偽物であることは今のところ無事に秘匿できているため、お陰で大きな騒動にはなっていない。
ただ、神殿内部はかなり大変なことになっているらしい。
聖職者の独身制を廃止したせいだ。
これまでと真逆の方針に対して、これまで独身を貫いてきた聖職者たちが大いに反発――
――するかと思いきや、起こったのは空前の婚活ブームだった。
『今さら過去を嘆いてても仕方ねぇ! んな暇があるなら早く良い男を捕まえねぇとな!』
『そうよ! 時間はわたしたちを待ってくれないの!』
とは、ゼルディアとスーヤの談である。
……カッコいいこと言ってるようで、単に焦ってるだけだよな。
ちなみに俺もアプローチされた。
『な、なぁ、ちなみに、どうだ? あたし、歳の割にはそこそこ容姿に自信あるんだが……』
『ゼルディア。残念だけど、セレスみたいに十代の若い子しか受けつけてないそうよ。当然わたしも断られたわ』
『マジか……三十のあたしなんて到底無理じゃねぇか……』
だから俺は十代専門じゃねぇから。
それはともかく。
聖職者たちがこぞって婚活を始めてしまったせいで、神殿は人手不足に陥っているらしい。
……大丈夫なのだろうか。
「トップの聖女すら必死だからな……」
お陰で何度も迫られて困っている。
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