第20話 あやつのけしからん爆乳を

 背後で大きな破砕音が鳴り、何事かと振り返ると、セレスティーネが神具を使って張ったという結界の一部が破壊されていた。


「あ、ごめん……。思いきり殴ったら破れちゃった……」


 バツが悪そうに謝罪するのはクルシェだ。

 どうやら彼女が試しに拳を叩きつけてみたらしい。


「「「は……?」」」


 愕然としたのは聖騎士たちである。


「まさか、殴った程度で破れるはずがありませんっ!」


 セレスティーネがそう訴えるが、


 パリン、パキンッ、バリッ!


「斬っても割れるわよ」

「弓でも割れる」

「割れちゃうね……」


 アリアたちが次々と結界を破壊していく。


「そ、そんな……」

『ふん。あの盾、神具だと言うが、どう見ても大したことないのう。神ではなく、どこぞの天使辺りが作ったものではないか? あるいは下級の神といったところか。我が生み出した疑似神具の方がよほど強力じゃ』


 ウェヌスは鼻を鳴らし、彼女の盾をそんなふうに評価する。


「な、ならば! 貴方たちも相手取るまで! 覚悟しなさい!」


 セレスティーネは配下の聖騎士たちとともに一斉に躍り掛かってきた。


 人数は五対四で、あちらが有利。

 それを活かして、アリアにはスエラ、クルシェにはサリー、リューナにはシアナと、一対一の形に。

 そして俺にはセレスティーネとソフィの二人掛かりで攻めてきた。


「はぁっ!」


 セレスティーネは盾で身を護りつつも、積極的に斬り掛かってくる。

 一方のソフィは、武器がナイフ。

 俺の側面や背後に回り込みながら、それを投擲して攻撃してきた。


 ソフィの投擲はセレスティーネの呼吸と完璧に合っていて、非常に対処が難しい。

 恐らく普段から連携しての訓練を積んできているに違いない。


 ならばと、セレスティーネを後回しにし、先んじてソフィを倒そうとするが、


「させません!」

「っ!」


 突如として生成された結界が、俺の動きを阻む。


「……とりゃ」


 パリィン!


 まぁウェヌスで斬りつけると破壊できたのだが。


「「なっ!?」」


 驚愕する二人の声が重なる。


 いや、さっきも散々壊されたんだから、それくらいのことは予想しておくべきだと思うぞ?

 それだけ武器への信頼が強く、未だに現実を受け入れ切れていないのかもしれないが。


 俺はソフィに肉薄すると、咄嗟に突き出されたナイフの刺突を避けつつ、彼女の腹部に拳を叩きつけた。


「が……」


 ソフィがその場に崩れ落ちる。


「ソフィ!? よくも……っ!」


 迫りくるセレスティーネ。

 俺が繰り出した斬撃を、彼女は盾で防御。

 そしてすかさず剣で斬りつけようとしてくるが、そのとき、


 ――ピシッ。


 彼女の盾に罅が入った。


 通常の斬撃では、さすがに一撃で神具とされるほどの盾に罅を入れることなどできない。

 俺はウェヌスの能力の一つである〈充填(チャージ)〉により秘かに力を溜めておき、今の一撃で一気に解放したのだ。

 これまでの戦い方から必ず盾で防御してくると予想できていたしな。


「……へ?」


 あまりに予想外のことだったのか、彼女は一瞬、硬直してしまう。


『大した代物ではないとはいえ、あると厄介じゃ。このまま壊してしまえ。我を破壊しようとしたのじゃから、それくらいされても文句は言えぬじゃろ!』


 そんなウェヌスの助言もあって、俺は間髪入れずに連撃を繰り出す。

 セレスティーネはすぐに我に返って、それを必死に盾で防いだが、すぐに耐久に限界がきた。


 粉々に砕け散ってしまったのだ。


「そ、そんな……レアス神殿が誇る神具が……」


 一方、俺が二人を相手取っている間に、アリアたちの方も決着がついていたようで、


「はぁ、はぁ、はぁ……こ、こんなはずは……」

「まさか我々が手も足も出ないなんてっ……」

「くっ……申し訳ありません、隊長っ……」


 スエラ、サリー、シアナの三人が悔しげに顔を歪めている。


『くくく、口ほどでもなかったのう。では、勝者の当然の権利として、こやつらにエロいことを――』


 しねぇから。


「わ、我々の身体なら好きにしてもらってもいい! だがセレス隊長だけは……っ!」


 だから、しねぇって。





 とりあえずクルシェの影の中に聖騎士たちの武具を放り込み、無力化した上で、俺たちは小屋へと戻ることにした。


「……あ、あいつら、まだ戻ってこねぇのかよ……こんな森の中に一人で留守番とか……って、べ、別に怖いわけじゃねぇし!?」


 ララが部屋の隅っこに蹲り、そんなことをぶつぶつ呟いていた。

 兎はやはり臆病らしい。


「帰ったぞ?」


 声をかけると、ハッとこちらを振り返って安堵の表情を見せる。


「よ、ようやく帰ってきやがったか……べ、別に寂しがっていたわけじゃねぇからな!?」


 と、そこで蒼い顔をしているセレスティーネたちに気づいたようで、


「……何かあったのか?」

「うむ! 今日からこやつらはルーカスの性奴隷になったのじゃ!」


 なってねぇよ。


「て、テメェ、どこまで変態なんだよ……っ!? ま、まさか、アタシまで……」

「そんな気はねぇから」


 俺はそう訴えるが、聖騎士たちは頬を引き攣らせて「か、覚悟はできているっ!」と叫ぶ。


「そんな覚悟は要らんから。お前らをどうこうするつもりはまったくない」

「阿呆! 生ぬるいわ! こやつらは武器を持って攻撃してきたんじゃぞ! せめてその身体を好きに弄ぶことくらいせぬか! 特にあやつのけしからん爆乳をうぎゃ!?」


 ともかく、今後のことを考えなければならない。

 このままではレアス神殿そのものを敵に回すことになってしまうからな。


「……くくく、ならばこやつらにとことん女の喜びを味あわせて籠絡し、手駒にしてじゃな……」


 だからお前は黙ってろって。

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