第10話 かなりの爆乳の持ち主と見た

 レアスは歴史ある都市だ。

 人口は決して少なくないのだが、石造りの古めかしい街並みはどこか厳粛で、道行く人々は随分と物静かだった。

 王都の喧騒に満ちた雰囲気とはかなり毛色が違うな。


「ふん、随分と重苦しい街じゃのう」


 馬車の窓から外を眺めていたウェヌスが、つまらなそうに鼻を鳴らしている。


 目抜き通りを進んでいくと、やがて巨大な神殿が見えてきた。

 あれがレアス神殿だろう。

 大勢の巡礼者と思しき人たちが出入りしている。


 そんなところへ四頭立ての馬車がやってきたからか、武装した兵士が駆け寄ってきた。


「何者だ? 見たところ、巡礼者ではなさそうだが」

「王宮の命を受けて王都から来ました! えっと、聖女様の審問を受けるようにと……」


 誰何され、イレイラがそれに応じる。


「俺がルーカスだ」

「……そうか、ではお前が……」


 俺が名乗ると、兵士は意味深な視線とともに頷き、


「馬車を降りて付いてくるがいい」


 言われた通り馬車から降りると、彼の案内で神殿の中へ。

 王宮に匹敵するかというほどに絢爛な廊下を進んでいく。

 いや、王宮に足を踏み入れたことなどないのだが。


 連れていかれた先は、応接室と思われる部屋だった。

 そこでしばし待っていると、集団が入ってきた。


 若い女性ばかりで構成された一団である。

 しかし全員がいかにも一級品といった白銀の鎧に身を包んでいて、その立ち居振る舞いを見ただけでも、相当な訓練を積んだ者たちであることが分かった。


 ここレアス神殿は、聖騎士団と呼ばれる独自の武力を所有していると聞いたことがあるが、恐らく彼女たちがそうなのだろう。


 その先頭に立つのは、まだ二十歳手前くらいの女性だった。

 一人だけ真紅のマントを羽織っていることから、この中で一番立場が上なのだろうと推測できる。


 長く艶やかな亜麻色の髪に、はしばみ色の瞳、そして端正な顔立ち。

 それほど特徴のある容姿というわけではないが、気品と透明感のある美女である。


『ふむ。鎧で隠れておるが、こやつ、かなりの爆乳の持ち主と見た』


 ……何でそんなことが分かるんだよ。


 その彼女は、厳しい表情の中に若干の嫌悪感を混ぜながら、開口一番、


「貴方が神剣の使い手と自称している方ですね?」


 と、訊いてきた。


『自称ではない! 我は本物じゃぞ!』


 ウェヌスがそう反論しているが、とりあえ俺は訂正しておく。


「ああ。俺がそのルーカスだ。だが、別に喧伝しているわけじゃない。そもそもこれが本物かどうかは、正直なところ俺にもよく分かってないんだ。だからこそ確かめられるなら確かめてほしい」


 もし偽物だったりしたら困るからな、うん。

 俺は悪くない。

 不当に女神様の名を騙っているのだとしても、それは全部この剣のせいです。


『こら! もっと我を信頼せんか!』


 女性は少し驚いたように目を見開いてから、なるほど、と頷いた。


「どうやら思っていたよりはまともな方のようですね」


 それからちらりと、背後にいるアリアたちに視線をやると、


「……そのように何人もの年端もいかない少女たちから純潔を奪い、囲っている背徳者にしては、ですが」


 いや確かに純潔を奪ったと言えば奪ったことにはなるが……俺が自分からやったわけじゃないからな?


 とはいえ、そんなことを訴えたところで「そうだったのですか」と納得してくれるとは思えなかった。


「あたしはまだ奪ってもらってないですけどねー」


 イレイラ、ぼそっと余計なことを言わなくていい。


 俺が無言でいると、しばしピリピリした空気が辺りを支配したが、やがて彼女の方から、


「……申し遅れました。わたくしはセレスティーネ=トライア。レアス聖騎士団第一騎士隊の隊長を務めています。今回、貴方の審問を担当させていただくことになりました」


 前述した通り、レアス神殿には神殿を守護する役目を担う特別な騎士たちがいるのだが、彼らは聖騎士と呼ばれているそうだ。


 てっきり聖女様自身から判定を下されるとばかり思っていたのだが。


「聖女様はお忙しくされておられますし、何より、貴方のような穢れた者がおいそれと近づくことができるようなお方ではありません」


 今さらっと酷いこと言ってきたぞ。


「……で、具体的には何をするんだ?」

「〝聖泉〟へ向かいます」

「聖泉……?」

「はい。神々の力が宿ると言われている泉です。この泉の力を借りるならば、その剣が本当に神聖なものなのか、はっきりと見極めることができるでしょう」


 その泉とやらがどんなものかよく分からないが、つまり今すぐここで判定することはできないということか。


「ふん。そんなよく分からぬ泉ごときで、神剣たるこの我を確かめようなぞ、愚かにもほどがあるわ」

「って、おい」


 またウェヌスが勝手に人化しやがった。

 突然現れた謎の幼女に、セレスティーネたちが驚いている。


「……この女の子は?」

「我こそが神剣ウェヌス=ウィクトじゃ!」

「これが……神剣……?」

「ふん! 女神が作った剣なのじゃ。人化することくらい容易いわい!」


 唖然とする聖騎士たちに、ウェヌスは勝ち誇るように鼻を鳴らした。


「……なるほど。どうやら普通の剣ではないことは確かなようです。ですが、だからと言って、これだけで神剣であると判断することはできません」

「か~、お主らの目は節穴か!」


 まぁ、さすがにすんなり認めてもらえるなんてことはないよな。


「悪魔が宿った魔剣という可能性もありますから」

「誰が魔剣じゃ! あんまり失礼なこと言うと、そのけしからんおっぱいを揉みしだくぞ!」

「なっ……なんて卑猥なことを……っ!」


 ……そんなこと言うから魔剣扱いされるんだろーが。

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