第6話 何だかとても悲しい音がした

「とは言ったものの、問題はどうやって盗賊団のアジトを探るかだな……」


 翌朝、俺たちは宿の一室に集まり、話し合っていた。

 多少の時間的余裕はあるものの、それでも何日もこの街に留まっているわけにはいかない。

 御者に頼んで急ぎ足で目的地に向かってもらうとしても、せいぜい二、三日くらいだろう。


 だが冒険者だけでなく、領主が騎士団を動かしてまで盗賊団を追っているらしいが、未だに拠点すら突き止めることができていない状況だということだった。


「簡単だよ! か弱い女の子のフリをして、あえて盗賊に捕まってアジトまで連れて行かれればいいんだよ」

「なるほど。それは名案だ、クルシェ殿。危険は伴うが、確実な方法だと私も思う」


 クルシェとリューナの意見に、アリアも頷いた。


「そうね。わたしたちは念話でやり取りができるし、互いの居場所も大よそ分かるもの」


 確かに普通のやり方ではアジトを突き止めることはできないだろう。

 リスクはあるが、これが最も有効かもしれない。


 そういうわけで、早速、囮作戦を決行することにした。

 囮役は三人。

 アリア、クルシェ、リューナが、それぞれいかにも町娘といった格好へと着替える。


「ど、どうかな? ぼく、ちゃんと女の子に見えるかな?」


 クルシェが少し不安げに訊いてきた。


「むしろ女の子にしか見えないわよ」

「ほ、ほんとっ?」


 ……しかし、胸部になぜかいつもは無いはずの膨らみがあるんだが、気のせいだろうか?


 クルシェは俺の訝しげな視線に気づいたようで、


「む、胸が大きく見えるアイテムを付けてみたんだっ」


 そのせいか。


「ふむ、そんなものがあるのか」と呟きつつ、リューナがクルシェの胸を指でつついた。


 ――ぺこぺこ。


 ……何だかとても悲しい音がした。


「クルシェ殿、これでは触るとすぐにバレテしまわないだろうか?」

「う、うるさいなっ。触らせないから大丈夫だよっ!」


 涙目で怒るクルシェである。


 三人にはそれぞれ街の中を単独で歩いてもらうことに。


 そして俺は街のちょうど中心にある広場に待機する。

 今の念話の有効範囲であれば、俺がこの場所にいれば、ほぼ彼女たちがどこにいても会話することが可能だった。


「どうだ、アリア。そっちの様子は」

『今のところ何も問題ないわ。……何度かナンパされたくらいよ』


 一時間に二、三回は男にナンパされるという。


「クルシェはどうだ?」

『ぼくは全然ナンパなんてされないんだけどっ!? うぅ、やっぱり女の子っぽくないのかな……』


 いや、ナンパされるためにやってる訳じゃないからな?


『私は美少女コンテストなるものに出場しないかと勧誘を受けた』


 何だそのコンテストは……。


 現在の時刻はちょうどお昼時。

 やはり盗賊たちも、さすがに日中に堂々と誘拐を行う訳がないか。

 そう思った矢先のことだった。


『ねぇねぇ! ぼくもコンテストに出場しないかって誘われちゃったよ! ちゃんと女の子に見られてるんだ! しかも優勝間違いなしだなんて言われちゃった! えへへへっ』


 と、今度はクルシェから何だかとても嬉しそうな報告が。


「って、だから何なんだよ、そのコンテストは……」

『優勝したら賞金が、出場するだけでも美容にいいアイテムが貰えるんだって!』

「そ、そうか……。けど、残念だがそんなのに出てる暇はないぞ」

『……せ、せめて話を聞くだけなら! すぐ終わるってさ!』


 珍しく美少女扱いされたからか、クルシェが舞い上がってる……。

 てか、普通にクルシェだって美少女だと思うんだけどな。


『そう思っているのなら、ちゃんと普段から積極的に言ってあげないとダメね。そういうのは何度言われても嬉しいものだから』

『アリアの言う通りじゃ! たとえお世辞だろうと、面と向かって可愛いと言われただけで女はころっとやられるものじゃからの!』


 アリアとウェヌスからそう指摘されてしまう。

 ……参考にします。


『わっ?』

「? どうしたクルシェ? ……クルシェ? おい、大丈夫か!?」


 いったん念話が途切れた。呼びかけても返事がない。


『なるほどのう。……どうやらこれが盗賊団の手口だったみたいじゃ』

「盗賊団? クルシェは無事なのか?」


 クルシェを通じて向こうの状況を把握しているウェヌスが、『心配は要らぬ』と教えてくれる。

 しばらくして、クルシェと再び念話が繋がった。


『う~……』


 念話越しに、何となく落胆というか不満というか、そんな感情が伝わってきた。


『女の子を誘い込んで、催眠効果のあるガスを嗅がせて眠ったところを拘束する……それが連中の手口だったみたい。ぼくはアマゾネスだから状態異常には普通の人より耐性があるし、疑似神具もあるからほとんど効かなかったけど……。今は寝たふりをしてる』


 どうやらあの美少女コンテストというのが、盗賊の罠だったらしい。

 君はすごい美少女だ、優勝できるかもしれない、などと言われたら、確かにクルシェのようにほいほい後を付いて行ってしまう若い女性もいるだろう。


 人気のない場所や建物にまで誘い込めば、昼間だろうと誘拐しやすい。


『……酷いよ! さっきまでぼくを褒めてたの、全部ウソだったんだ! でも分かってたさ! どうせぼくなんて全然、可愛くないもんね!』

「そんなことないぞ。クルシェはちゃんと可愛い。もし俺がコンテストの審査員だったら、絶対クルシェを優勝させる」

『ふぇっ? ほ、ほんと?』

「ああ、本当だ」


 早速、先ほどアリアに言われたことを実践する俺である。

 いやもちろんお世辞じゃないぞ?


『えへ、えへへへ…………ぼく、ルーカスくんのこと大好きっ』


 ……お、おう。


 ともかく、これで人質作戦の第一段階は成功だ。

 クルシェを追って、盗賊団のアジトを突き止めてやる。

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