第四章
第1話 十代の瑞々しい身体ですよ
カルズの街を後にした俺たちは、王都に戻るため再び馬車に揺られていた。
ただし行きとは馬車が変わっている。
わざわざ領主のイザベラが俺たちのために用意してくれたのだ。
十人が乗ってもまだ余裕があるほど広く、座り心地も申し分のない、四頭立ての高級馬車。
かなりグレードアップしていた。
子爵位を持つイザベラ自身が王宮に赴く際に利用しているものらしく、当然、俺のような平民のおっさんには似つかわしくない。
なので最初は固辞したのだが、「せめてそれくらいは」と押し切られてしまったのだ。
「主君、肩は凝っておられませんか?」
「必要とあらばいつでもマッサージ致します。もちろん性的な方でも構いません!」
「要らねぇよ」
……お陰で、リリたち四人衆まで同じ馬車に乗る羽目になってしまった。
さっきから甲斐甲斐しく世話をしてこようとしているが、鼻息が荒くてかなり怖い。
出会った当初の俺への敵愾心はどこにいった?
あの手この手で俺を誘惑しようとしてくるエルフたちをどうにかあしらいつつ、やがて無事に王都へと戻ってきた。
馬車が停車し、外へ出る。
「ん? どこだ、ここは?」
出発時と同じ広場か、もしくは学院の入り口に着いたとばかり思っていたのだが、そこは見慣れない場所だった。
王都内でも比較的大きな屋敷が並ぶ高級住宅地だ。
その中の一つ、立派な庭付きの豪邸の前で馬車は止まっていた。
門の前には、ずらりとメイド服姿の美少女たちが並んでいて、
「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」
……は?
ご主人様……?
「それに、お帰りなさいませ……?」
当然だがこんな豪邸、俺の家のはずがない。
思わず後ろを振り返ると、アリアたちも「よく分からないわ」という顔で首を傾げていた。
困惑する俺の前に、快活そうな印象の少女が進み出てくる。
年齢は十七、八歳くらいだろうか。
彼女もまたメイド服に身を包んでいた。
「申し遅れました! あたしはイレイラ=カリューン! イザベラお姉様の命を受けて、本日よりご主人様にお仕えさせていただくことになりました!」
元気のいい挨拶。
その内容に、俺は軽く頭痛を覚えてしまう。
「イザベラお姉様……ってことは……」
「妹です! お母様は違いますけど!」
少女がハキハキと告げる。
なるほど、どうやらこれもまたあの女領主のお節介らしい。
「領主としてのお仕事で忙しいお姉様に代わり、王都において神剣の英雄であるご主人様にお仕えする役目を、あたしが引き受けることになったんです!」
「……いや別に必要ないが」
俺が思わずそう返すと、
「がーん」
と、イレイラは衝撃を言葉で表してから、少し慌てて、
「いえいえいえ、そんなことおっしゃらずに! 頑張って務めを果たしますので! もちろんお手付きもオーケーです! イザベラお姉様と違って、ご主人様好みの十代の瑞々しい身体ですよ!」
その言葉に、エルフ四人衆が愕然とする。
「なっ……主君は十代しか愛せない方なのか……!?」
「我らはすでに二十代……そうか、だから今まで…………終わった……」
「あ、諦めるのはまだ早いです! 私たちはエルフ! 人間の年齢に換算すれば何の問題もありません!」
「リノの言う通りだ! 我らは守備範囲! ですよね、主君!?」
おい待て、俺を十代にしか欲情できないおっさんみたいに言うな。
あと男は最初から守備範囲じゃねぇ。
「それから、こちらはお姉様が王都にいらっしゃる際に使用される屋敷なのですが、ご主人様に差し上げたいとのことでして!」
「遠慮しておく」
「い、いえいえいえいえ! ぜひお受け取りください!」
「だいたい今は騎士学院の寮を使ってるしな。間に合ってるんだ」
「そんなこと言わずに! ここにいるメイドたちは皆、すでにご主人様の奴隷として登録してるので、どのように扱っていただいても構いません!」
は? 奴隷?
なに勝手なことしてんだよ?
イレイラの後ろに控えていたその四人のメイドたちが、声を揃えて恭しく頭を下げてくる。
「「「よろしくお願いいたします、ご主人様」」」
全員がいずれ劣らぬ美少女だ。
しかも恐らくまだ十代。
わざわざ揃えたのだろう。
だから俺は十代にしか興味のないおっさんじゃねぇよ。
しかも身に付けているのは普通のメイド服かと思っていたら、肩や胸元を露出させた、結構際どいやつだった。
スカートも短く、すらりとした生足が眩しい。
……白くて瑞々しい肌に、思わず視線をやってしまうのは男の性というものなので仕方がないよな、うん。
「この人間の娘ども、主君を誘惑しているぞ……!」
「我らも負けてはいられない!」
エルフ四人が対抗心を燃やしている。
「ともかく、屋敷の中をご案内しますので! こちらへどうぞ、ご主人様! 奥様方も!」
結局、イレイラに強引に押し切られて、俺は仕方なく門を潜った。
「わたしたち、奥様って呼ばれちゃったわ」
「ふへへ、ルーカスくんの奥様……」
「とても良い呼び方だと思う。ぜひもう一度呼んでくれないだろうか?」
「はい、奥様方!」
乗り気ではない俺とは対照的に、アリアたちはあっさり懐柔させられていた。
……もうちょっとこの状況に抵抗感を示してくれてもいいと思うんだがな?
『ええのう、ええのう! 順調にハーレムが形成されてきておるではないか!』
よくねぇ。
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