第28話 全員まとめて眷姫にしてしまえ
「ブホオオオオオオッ!」
「ブヒイイイッ!」
「ブホブホブホッ!」
オークエンペラーを殺され、怒り心頭のオークの群れが一斉に躍り掛かってくる。
その数、ハイオークだけで百体を越えていた。
だが未だ女領主イザベラが率いる騎士たちは、オークエンペラーの威圧から抜け出せておらずに呆然としている。
このままでは連中に蹂躙されるだろう。
「早く立て! 連中の頭は仕留めた! 後は雑魚だけだ!」
彼らを奮い立たせようと、俺はそう叫んだ。
雑魚だけといっても、その中には危険度Aのオークロードもいるのだが、まぁオークエンペラーに比べればマシだろう。
そのとき、空から矢の雨が迫りくるオークの群れへと降り注ぐ。
リューナだ。
「ブウッ!?」
「ブヒァッ!」
「ブゴッ?」
風を纏う矢を浴びせられ、オークたちが悲鳴とともに灰と化していく。
しかしリューナの矢の連射速度でも、連中の勢いを止めることはできない。
「か、彼らに続け! オークどもを迎え撃つ!」
ようやく気を取り直したのか、イザベラが必死に声を張り上げた。
それに応じ、騎士たちも武器を構えて瞳に戦意を取り戻していく。
ついにオークの先頭集団と激突する。
一体一体を相手取っていてはキリが無い。
俺はウェヌスを大きく振りかぶり、まだオークたちが間合いに入る前に思いきり振るった。
――衝撃刃(ブレイドインパクト)。
ゴウッ!!
発生したのは衝撃波だ。
先頭のオークを四、五体まとめて吹っ飛ばし、さらにはすぐ後ろの数体を巻き込んだ。
殺傷力としては低いが、大勢を相手にするには便利な技だ。
怒濤のごとき勢いを少しは削ぐことができたようで、後方にいる騎士たちもどうにか呑み込まれずに押し留めている。
しかしそんな中、前方から巨体が迫ってきた。
「ブゴオオオオッ!」
オークロードだ。
リューナがその身に矢を浴びるが、それを物ともせず猛スピードで突進してくる。
「ブゥッ!?」
その巨体が突如、足元の影の中へと沈んだ。
「ルーカスくん、大丈夫!?」
「がうがう!」
クウの背中に跨って、クルシェが影の奥から飛び出してきた。
どうやら影を通って森を突破してきたらしい。
地上と違って障害物がない上に、シャドウウルフであるクウは足が速いからな。
「でやぁっ!」
「ブガッ!?」
影から抜け出そうとしていたオークロードの側頭部へ、クウの背から飛んだクルシェが渾身の蹴りを見舞った。
巨躯が影の中へと倒れ込む。
さらにそのとき、オークたちの後方で火柱が上がった。
森の中を突っ切ってきたアリアたちだ。
リリたちも矢を放ち、オークの群れを後方から突く。
「こ、こんなにいやがったのかよ……っ!?」
「しかもハイオークばっかだぜっ!」
「むむ、無理だろ死ぬって!」
レイクたちはこの大群を見るや、目を剥いて逃げていってしまう。
相変わらずだな……。
まぁ戦力としてあまり期待はできないので、別に放っておけばいいだろう。
それから戦闘は半刻近くにも及んだ。
憤怒を燃やすオークたちが、その身を顧みずに最後の最後まで襲い掛かってきたせいだ。
これが人間相手であれば、明らかに戦局が不利と分かった時点で撤退していただろう。
その戦局がこちらの優勢へと大きく傾いたのは、森に入っていた騎士たちや、ヴァルキリーナイツなどの冒険者の中でも実力のあるパーティが、戦闘に合流し始めてからだ。
さらにオークロードを撃破したことで、一気に加速した。
オークエンペラーに加え、主柱となる存在を欠いたオークたちは、それでも戦意を失うばかりかかえって凶暴化したが、戦いの行方を遠くから見ていた冒険者たちも加わったことで、ついにはオークの群れを完全に包囲するに至った。
やがて最後まで残っていたオークジェネラルを倒すと、大きな歓声が上がった。
「すげぇ! あれだけのオークの群れを倒した! 倒しちまったぞ!」
「俺たちの力で街を護ったんだ!」
このときばかりは騎士も冒険者も関係なく、互いの健闘を讃え合う。
「しかしあれだけのハイオークの群れ……。さすがにオークロードが現れたというだけでは説明が付きません」
「ヴィナ殿は見ていなかったと思うが、オークエンペラーがいた」
「なっ!? オークエンペラーが!?」
「だがルーカス殿が一撃で葬った。さすがは我が主君、あの素晴らしい一撃を貴殿にもぜひ見て欲しかった」
「ルーカス様が!? しかもたった一撃で!?」
いや確かに一撃だったが……あれはリューナの協力もあったからだ。
ちょっと誇張し過ぎだ。
「すごいです! さすがルーカス様!」
だがヴィナと、さらには彼女のパーティメンバーまでもが、リューナの話を真に受けてキラキラした瞳で俺を見てくる。
『チャンスじゃ! 全員まとめて眷姫にしてしまえ!』
しねぇよ。
と、そのときだ。
カルズの街の冒険者たちが、何かに気づいたように、
「おい、どっかで見たことあると思っていたけどよ、あいつって……」
「まさか? あのおっさん、確か死んだはずだろ?」
「そもそも、あんなに強くねぇし、若くもねぇよ」
何人か新人らしき顔もあるが、大半は見知った顔である。
さすがに気づかれるかもしれないと思っていたが、あまりにも以前とのギャップが激しいせいか、どうやらはっきりと本人だと確信している者はいないようだ。
「けどさっき、ルーカスって呼ばれてなかったか?」
そ、そう言えば、レイクたちにも名前のせいで気づかれたんだった……。
この街では、できるだけその名前で呼ばないようにしてもらおう……なんて、もう遅いよなぁ……。
◇ ◇ ◇
一見すれば、ごく普通の剣にしか見えない。
しかしながら神剣の英雄の血を継ぐイザベラが、それを見間違えるはずもなかった。
そして何よりも、あのオークの皇帝を瞬殺したことが最大の証拠。
「……あの男……いや、あの方が……新たな神剣の英雄……」
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