第6話 ただのエロジジイじゃねぇか
断られるとは露ほどにも思っていなかったのか、間抜けな顔で固まっている彼女を後目に、俺はさっさと踵を返して立ち去った。
『なぜフったのじゃ。あの娘っ子、お主に惚れておったぞ?』
「惚れたとかじゃなくて、俺とパーティを組めば美味しいだろうっていう打算からだと思うけどな? あいつはそういう奴なんだって」
『いいや、我には分かる。あれは半分くらいは本気じゃった』
半分かよ。
『同じフるにしても、せめてヤってからフればよかったじゃろ!』
「お前が本当に神剣なのかどうか、改めて考え直すべきかもしれん……」
そもそもああいういかにもビッチな女とヤるのは、性病が怖い。
『安心せい。我には性病の感染者かどうか見極める力がある。あの女は正常じゃ!』
「どんな能力だよ……」
性病は大丈夫でも、妊娠させたら大変だろ。
『特殊効果として避妊というのもある! ゆえに生で中出しし放題じゃ!』
こいつが邪悪な剣である可能性がますます高まってきたな。
『あやつがダメじゃというなら、お主、代わりにこれから娼館にでも行かぬか?』
「今日はそんな気分じゃない。ていうか、何でそこまで勧めてくるんだよ……」
『我は久しぶりに人間がセ○クスしてるところが見たいのじゃ~~っ!』
「ただのエロジジイじゃねぇか」
それにしても、未だにこいつの年齢や性別がよく分からない。
しゃべり方はやたらと古風だが……いや、そもそも剣に年齢も性別もないか。
『はぁ……どこかその辺に青姦しておる男女はおらぬかのう?』
「いるか!」
「ままー、あの人、誰と話してるのー?」
「見ちゃダメよ」
剣に思わず大声でツッコミを入れてしまった俺に、往来の視線が集まってくる。
ウェヌスの声は俺にしか聞こえない。
なので、傍から見ると俺は剣と話しているように見えるのだろう。
どう考えても怪しい人間だ。
俺は足早にその場から離れた。
『ちなみに声に出さずとも意思の疎通が可能じゃぞ?』
……それを早く言え。
素材を売ると結構な稼ぎになった。
特にキリングパンサーを倒した素材は高値で売れた。
という訳で、俺は普段より上等な酒を飲もうといつもとは違う酒場へ。
あそこはあんまりいい酒を置いてないしな……。
それなりに値の張る葡萄酒を注文する。
と言っても普段飲んでるエールと比べれば、だが。
赤ワイン特有の渋み。
しかし程よいコクで飲みやすく、食事にも合う。
酔いが少しずつ回り始めた頃、店内に見慣れた人物が入ってきた。
げっ、メアリじゃねぇか。
「あー、ルーク様だぁ~!」
しかも俺に気づいて、こっちにやってきた。
「隣、座りますねー」
いやいや、あんな形でフったというのにすぐ隣に座ってくるとか、メンタル強すぎだろ。
と思ったが、見たところすでにかなり酔っている。
梯子酒だろうか。
……俺にフられてヤケ酒をしていたのかもしれない。
「ルーク様のばーか! ていうか、こーんな若くて可愛い子をフっちゃうとか、ちょっとマジで見る目ないですよねぇ~?」
唇を尖らせ、そんなふうに咎めてくる。
「俺みたいなおっさんのどこがいいんだ?」
「ダンディでカッコいいところですぅ~。お兄さんとは大違いですよねぇ」
それも俺なんだがな。
「そもそもあたし、昔から年上が好きなんですよー。ぶっちゃけ同年代の男って、何だかまだまだ子供って感じですしぃ~」
若い女性からしたら、俺みたいな年齢の男は経験豊富で余裕があって、頼もしく見えるのかもしれない。
だが実際にはそんなことはない。
この歳になって分かる。
男なんて生き物は、案外いつまで経っても子供なのだ。
「テクニックもおじさんの方があるしぃ」
酔ってそんなことまで暴露してくる。
「それで、今まで何人の男と寝てきたんだよ? ビッチ」
「ふんっ、どーせあたしはビッチですよーだ! 今まで何人もの男を取っ替え引っ替えしてきましたしぃ! でもそれの何が悪いんですかぁっ。男だって見境なくヤりまくってるし、お互い様ですよぉ」
全員がそうとは限らないだろ。
「そういう連中って、男女問わず都合が悪くなったらすぐに裏切るんだよな。だからパーティを組むなら十分に注意しないといけない」
まぁそんな連中と俺はパーティを組んでいたわけだが。
もちろん警戒は常に怠ってはいなかった。
「きゃはははっ、その通り! 今日もほんとはレイクを犠牲にして逃げるつもりでしたしぃ! そしたらあいつの方が先に逃げて、マジあんときはビビりましたよぉ~」
メアリは笑いながらぶっちゃけた。
有体に言ってクズだな、この女も。
「じゃあさー、パーティとかどうでもいいですし、あたしとヤってくださいよぉ」
「なんだよ、いきなり」
「いいじゃん、ヤるだけですしぃ」
「ヤるだけ……」
確かに性格はアレだが……
むっちりした太腿。
柔らかそうな二の腕。
豊かな胸と引き締まったくびれ。
ぷるっとした唇。
こうして間近で見てみると、本当にエロい。
男どもが寄ってくるわけだ。
てか、正直に言えば、これまでも何度か妄想で世話になったことがあった。
股間が熱くなる。
それでも素面のときの俺だったら、ここで冷静になっていたに違いない。
今まで散々馬鹿にされてきたことを思い出し、お前みたいな奴とはヤだけでも御免だと突っ撥ねただろう。
だが――俺は酔っていた。
何だかんだで若い女と一緒に酒が飲めることに舞い上がっていたのか、彼女が来てからもかなりの量を飲んでしまい。
お陰で思考が単純化し、欲望に忠実になっていた。
「しゃーねーな~、ひっく。据えじぇん喰わぬは、ひっく……おとこの恥ってゆーしなっ!」
「やったぁ~!」
この後、俺はメアリの家に行った。
そして彼女の若い肉体を貪るように堪能した。
……翌朝、凄まじい自己嫌悪に苛まれることになり、改めて酒の怖さを痛感した。
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