第5話 それ何の罰ゲーム?

 恐らくレイクは仲間を犠牲にして逃げようとしたのだろう。

 なかなか最低な野郎だ。

 だがキングパンサーは賢かった。


 まず最後尾にいたメアリの足に噛み付くと、彼女を思いきり空へと放り投げた。

 地面に叩きつけられた彼女は気を失ってしまう。


 キリングパンサーはその彼女を放置し、先を行く二人を追った。

 すぐにレイクに追い付くと、激しいタックルを見舞って吹き飛ばし、すかさず上に乗って喉首に噛みついた。


 それで死んだかどうかまでは定かではないが、キリングパンサーは動けなくなったレイクをまたも放置し、最も足が速かったシーフのサルージャを追う。

 そして鋭い爪でサルージャの背中を切り裂くと、足に噛みついて引き摺りながら、元来た場所へと引き返していった。

 そこには放置されていたメアリとレイクがいる。


 もし協力して戦っていればまだ少しは勝ち目があったかもしれないが、逃げて三人バラバラになった彼らは成す術もなくやられてしまうこととなった。

 こうしてキリングパンサーは、確実に三体の獲物を無力化することに成功したのである。


 ただし賢明な狩人にとって大きな誤算だったのは、この場にもう一人、人間がいたことだろう。


「ッ!?」


 寸前で気配を察知し、咄嗟に飛び退こうとしたのはさすがだったが、僅かに遅れた。

 狩りが無事に終わった直後で、さすがに気が緩んでいたのかもしれない。


 俺の剣がキリングパンサーの背中を斬り裂く。

 血飛沫が雑草を赤く染めた。


「グルアアアアッ!!」


 キリングパンサーはすぐに身を翻すと、怒りに満ちた唸り声を上げて躍り掛かってくる。

 だがダメージのせいか、本来の俊敏さはない。


 その鋭い前脚の爪が届くより先に、俺は思いきり刺突を繰り出した。

 剣先がキリングパンサーの喉を貫く。


 それがトドメとなった。

 目から生気が消え、ゆっくりと灰と化していく。


 ふう、危ないところだった。

 しかし不意を突いたとは言え、危険度Cの魔物を相手に無傷で倒せるとは驚きだ。

 今までの俺なら絶対に死んでいただろう。


 おっ、しかも灰の中にドロップアイテムも落ちているぞ。


 危険度Cの魔物からドロップしただけあって、なかなか良い素材だな。

 確か、銀貨五枚くらいで売れたはずだ。


 っと、今はそれどころじゃない。


 メアリは右足が血だらけで意識を失っているが、それほど酷い怪我ではないため後回しだ。

 サルージャも背中がバッサリ切り裂かれて気絶しているが、一応は息があるな。

 問題はレイクか。


 首から血が吹き出し、しかも首の骨が折れているようだ。

 一か八かだが……ポーションを遠慮なくドバドバと首にかける。

 レイクが持っていたもので、かなり上等なポーションだ。


「げほっ、ごほっ……」


 高価なポーションだったお陰か、レイクは息を吹き返した。

 さらにメアリとサルージャにもポーションをかけてやる。

 もちろんこいつらが所持していたものだ。


 ここに放置しておくわけにはいかず、俺は彼らが覚醒するのを待った。

 最初に目を覚ましたのはメアリだ。


「ん……ここは……? ……っ! キリングパンサーは!?」

「安心してくれ。俺が倒した」

「あ、あなたはっ、今朝のダンディなおじさまっ……?」


 ……ダンディなおじさま?

 それ、もしかして俺のことか?


 それから少ししてレイク、サルージャも意識を取り戻す。

 見たところ後遺症もなさそうだし、こいつら本当に幸運だったな。


『しかし一歩間違えれば、お主まで餌食になっておったぞ?』


 神剣が少し咎めるような口調で言ってくる。


『なぜあえて危険を犯してまで助けたのじゃ? あやつらには今まで散々、煮え湯を飲まされてきたのじゃろ?』


 だからって、さすがに同じパーティの奴らを見捨てるほど俺は薄情じゃない。

 確かにムカつく連中ではあるが、まだ若くて未来のある連中を見殺しにはできなかった。


『くくく、そんなこと言って、本当はカッコいいところを見せることで、あの娘を落とす気だったんじゃろ?』


 ……こいつが本当に神剣なのか、未だに俺は確信が持てずにいる。




    ◇ ◇ ◇




 街には一人で戻ってきた。

 帰る場所は同じであるが、俺としてはあまり彼らといたくない。

 なので目を覚ました彼らにとっとと別れを告げ、先に帰らせてもらったのである。


「待ってください、ルーク様!」


 しかし市門を潜って大通りを進んでいると、背後からメアリが追い駆けてきた。

 ルーク、様……?

 彼女は俺のところまでくると、今まで絶対に俺には見せたことのない笑顔で言った。


「さっきは助けてくれて本当にありがとうございました! まさかキリングパンサーを一人で倒しちゃうなんて、すごく強いんですねっ!」


 だから誰だよ、お前は。

 それから何を思ったか、彼女はこう切り出してくる。


「あの、よかったらあたしと一緒にパーティ組みませんかっ?」


 いや、すでに組んでるんだけどな? 一応。


「もしかしてあのパーティへの勧誘か?」

「いえ、そうじゃないですっ! えっと、その……できれば、あたしとルーク様の二人っきりで……」


 え? それ何の罰ゲーム?

 思わず口にしそうになったが、何とか堪えた。


「実はあたしたち、パーティを解散したんです。だから今、あたしフリーになっちゃって……。……その、ダメ、でしょうか……?」


 色っぽさを含んだあざとい声と仕草で、メアリは俺を誘ってくる。

 そうか、解散したのか……。

 まぁあんなことがあったわけだし、当然だろう。

 たぶんレイクとも別れたんだろうな。


 確かに彼女はそこそこ美人だ。

 身体つきもエロい。

 だが、


「悪いんだが、まったく興味がない」


 冷めた声で拒絶してやった。

 生憎、お前の本性はよ~く知ってんだよ。

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