第5話 逆四角錐の倉庫
翌日にはミーティングの連絡が来た。相手は地球の運営だ。僕のメールアドレスくらいは簡単に調べられる。さすがにキズキのように通信網を利用せず、直接、携帯の画面に内容を表示するのは無理だが。
一週間後の午前十時。場所は横浜埠頭のとある倉庫。神奈川県まで行くとなると、新幹線か飛行機を使うことになる。午前中に始まるので、どこかに泊まる必要がある。本格的な出張だ。
それでいて参加者は、僕と竹本兄妹の他に一名のみ。
その一名というのが漢文学者、前原学。
誰だ?
漢文学者が何の用だ。
この人物が横浜に住んでいるということのようだ。この街に拠点として喫茶店を建てたのに、一人の為に横浜まで出かけないといけないのは、よほどの重要人物か、長距離移動の出来ないよぼよぼの老人なのだろうか。
他にもいくつか注意事項があって、
同伴者を伴わず、僕一人で来ること。ミーティング開催の件については、決して口外しないこと。
機密事項なのでそれはわかる。
お食事代、お車代は出ませんので、決済のできるスマホ、クレジットカードなどのご用意を。
せこい。
現金の場合は最大で五十万円。実印、住民票のコピーを持参って何なんだ?
それから数日間、他の星との合併の検討よりも、ミーティングの不可解な点ばかりが気になっていた。
そして、前日。現金五十万円を握りしめ、僕は新幹線で東に向かった。何の変哲もない、時間とコストのかかる長距離移動だった。
龍型の飛行機に乗って、アトランティスの首都に向かった事が懐かしい。
中華街で食事をとり、外資系ホテルにチェックイン。
宿泊料は随分高いのに、受信料節約のため、客室にはテレビがなかった。
翌日、ホテルを出ると、どこにも寄らずにタクシーで指定された場所に向かう。
ベイブリッジを大黒ふ頭で降りる。
旧世界との合併前、アトランティスの経済は規制が多く、成長を目指さない安定したものだった。アトランティスを世界経済に組み込むため、旧世界諸国はアトランティス債を購入する流れになった。償還ははるか先だ。
アトランティスは旧世界が大きな市場になるとわかると、技術の流出に警戒しながら、旺盛な輸出を開始した。経済の仕組みを旧世界に合わせると、買収攻勢をかけた。その原資は旧世界が購入させられたアトランティス債なのだから、これほど割に合わないものはない。
その影響で先進国経済は落ち込み、横浜港に寄港する船舶も減っている。
集合場所は、聞いたことのない会社の物流センターの事務所だ。
敷地のすぐ横に来ると、タクシーはスピードを緩めた。
「お客さん、あれじゃないですか?」
運転手の指摘するほうをみると、変わった形の建物が目に入った。
10メートルほどの高さのクリーム色の建物で、芸術家が造ったオブジェのようだ。四角錐を逆さにして、下半分を切り取ったような形状。
それを見てぴんときた。
「アトランティスだな」
僕がそう言うと、運転手も同意し、タクシーを停めた。
周囲の倉庫群はごく普通なので、おそらくは日本の会社の物流センターをアトランティス資本が買収し、事務所だけ新規に建てたのだろう。ということは今回の件にアトランティスが絡んでいるらしい。
「ご明察」
後部座席の僕の隣から、竹本清治の声がした。
タクシーの運転手は後ろを振り向くと、新規の客を見て、「幽霊」と叫び、ドアを開けてそのまま走り去ってしまった。
「ここは普通の人間が普通に暮らしてるんだ。そんな出方をしちゃダメじゃないか」
僕は彼を非難した。「運転手さん、呼び戻さないと」
「もう、こちらに向かわれてます」
彼の言うとおり、運転手は道の向こうから歩いてきた。表情がなく、明らかに彼が操っている。
運転手は運転席に乗り込むと、事務的にタクシー代を請求し、僕は言われるまま支払った。
「さきほどの記憶は消しました」
タクシーを降りる際、彼はそう耳打ちした。それから守衛に偽の用件を伝え、僕らは事務所の正面入り口に向かった。
事務所として使うには理解に苦しむ、おかしな建物だ。
「建築材料はこちらのものですが、塗装材はアトランティス製です」
僕の心を読みとった清治が解説した。
「構造的に大丈夫か?」
僕は声に出して聞いた。
四角錐の半分なので、建物の屋上面積は、底面の四倍はありそうだ。
「建物の下部は、構造材が密集しています。それに塗料に剛性があります」
剛性? 塗料にゴムのような成分が含まれ、外部からがっしりと駆体を固めているということか。
正面のドアは勝手口ほどの大きさで、人が出入りするだけの用途のようだ。事務所といえど、大きな荷物を運び入れるには小さすぎる。気になって建物を一周したが、それらしき開口部はない。
僕のそんな行動を見ると、清治は上を見あげ、「事務所は一階だけで、それより上は倉庫として使っています。屋上が開くんです」と言った。
「なるほど」
僕はそう言ったが、まだ合点がいかない。
僕らは正面から中に入った。
清治の言ったように、壁のすぐ内側辺りには金属製の構造材が乱立しているように見える。実際はきちんと計算して、必要な位置に置かれているはずだ。
中央に正方形のテーブルが置かれ、椅子が四つ並べられていた。
僕らはそのうちの二つに座った。
すると、残りのひとつに、清美が座った状態で出現した。
「もう一人の方は?」
僕は二人に聞いた。例の漢文学者だ。
兄妹は上を見上げた。彼の言うように一階は事務所なので、一般住宅の高さに天井が張ってある。
一般の倉庫と何が違うかしらないが、埠頭に運び込まれた特別な荷物は、屋上から中に入れる。どういう合理的な理由があるか不明だが、倉庫の下に事務所がある構造なので、一階から上に上がれる場所があるはずだ。
しばらくして一方の壁の辺りに、上から人が降りてきた。年輩の男性だ。構造材に隠れてわかりづらいが、そこに階段があるらしい。
前原学。
漢文学者なのに、外国人なのは偽名ということか。
「その通りです」兄のほうが言った。「というより、日本語にすると発音しにくい名前なので、適当な名前をこしらえました」
南欧系の顔立ちと中世ヨーロッパ調の服装からぴんときた。
「アトランティス人」
「正解です」また兄が答えた。「日本語はもちろん、英語も話せませんので妹が通訳します」
「横浜埠頭にしたのは、アトランティス人の国内移動を最小限にするため。漢文学者というのも、アトランティス人が関わっていることは秘密にしたいから」
僕は自分の推理を披露した。
「はい。リモートでミィーティングをすれば、外部に漏洩する危険があります」
「印鑑とか、住民票は?」
「特に意味はありません。スパイを混乱させるのが狙いです」
「了解。で、アトランティスがどう関わってくる?」
今はひとつの星だから、アトランティス人にとっても人ごとではない。だけど、他にも国はたくさんある。
妹が口を開いた。
「私は、旧世界の破壊に反対だ。彼らは私のビジネスにとって、無くてはならない存在であり、重要なパートナーだ」
どうやら前原の発言を翻訳しているらしい。その前原は、空いている椅子に座り、妹を見ている。
前原に質問するのに、僕も妹のほうを向いた。そのほうが会話しやすいからだ。
「あなたはアトランティスの中でどんな立場でしょうか?」
「ここのビジネスオーナーだ」
「倉庫会社の社長?」
「違う。製造業のビジネスオーナーだ」
「民間企業の人間が今回の件に関わるのはどうしてです?」
まさか適当に選んだアトランティス人代表?
相手の答えは意外なものだった。
「アトランティス旧世界友好協会代表だからだよ」
通訳だとわかっているものの、中学生の女の子にそう言われるとついおかしくなって笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「いえ、別に」
「いま、笑ったよな?」
前原は清治に向かって自国語で聞き、清美が僕に日本語でそう聞いた。
「すいません。通訳の女性の口から聞くとおかしくて」
僕は正直に答えた。
「通訳変わりましょうか?」
清治が気をきかせてくれた。
「いえ、そのままで」
「ここは一旦、仕切り直しましょう」清治は冷静に、「ミーティングの議題について説明します」
残りの三人は彼のほうに向き直った。
「合併先生物の地球仕様について」
「どういうこと?」僕と清美が同時にそう聞いた。ということは、前原は僕と同じようにあまりわかっていない。
「前回の合併と違い、合併先は最初から異なる宇宙です。存在する物質や物理法則そのものが異なっています。小さな星と表現してきましたが、活動する動物の大きさからそう言ったのであって、こちらの距離尺度は向こうで通用しません。こちらの一メートルの物差しでは向こうで長さを測れないのです」
言っている意味はなんとなくわかる。アトランティスと旧世界の時は、もともと同じ星なので、その点は問題なかった。それでも人間のサイズが若干違うので、調整はした。
これまで関係のなかった、最初から異なる宇宙は、サイズや質量の面で比較することはできない。
清治は淡々と説明していく。
「合併先、都合上A星と呼びます。衛星ではなくエー星です。A星は、異なる宇宙といっても、球状で、光、大気、液体、重力の存在と共通点も多く、比較的合併しやすい星なのです。
仮に双方の性質を半分ずつ合わせるとしたら、膨大な事前準備が必要で、合併時、合併後の計算量も膨大になり、現実的ではありません。
そこで、今回はA星の二種類の生物を、こちら側に移すだけとさせていただきたいと思います」
予想通り、対等合併ではなく吸収合併だ。しかも、吸収されるほうは、建物などの設備は廃棄し、従業員の所属が変わるだけという。
「そんなの不公平だ」
清美が言った。もちろん前原の意見だ。
「お気持ちはわかります。ですが、A星の法則を地球に適用するのは、無理があります」
相手の心に直接働きかけることのできる運営なら、わざわざ日本語で声に出す必要はないのだが、僕にもわかるようにそうしているのだろう。
しかし、前原は引き下がらない。自国語で何か言い続けている。清治は黙ったままだが、おそらく相手の心に直接語りかけている。もちろん、面倒な日本語化はストップだ。清美は二人をじっと見つめている。
前原が収まらないので、「旧世界とアトランティスだって不公平だろう」
僕は清美に向かってそう言った。
すると、清美は彼の言葉を訳してきた。
「たしかに不公平だ。アトランティスは旧世界に一方的に施すだけで、何かしてもらったことはない。温暖化だって旧世界の問題だろう。科学の遅れた原始人のくせに、石油を使う自動車に乗ったり、効率の悪い冷暖房なんかするから、地球が悲鳴を上げてる。まったく勘弁してほしい」
これがアトランティス人の本音か。しかも友好協会代表の。キズキの罠にかかったとはいえ、僕は合併を承認したことを後悔した。
「まあ、二人ともおさえて」清治が仲裁に入った。「その件については後ほどお願いします」
今は地球の緊急事態だ。僕らはすぐに冷静になった。
「え~、二種類の生き物ですが、植物的な方をグミモドキと呼ぶことにします」
その名前を聞いて僕は笑った。
前原はきょとんとしている。アトランティスにグミはないのだろう。地球標準の新語は、人数で勝る旧世界に合わせるのだ。
「グミモドキを地球に移植するに当たり」清治は移植という言葉を使った。ある環境で動作しているソフトウェアを別のプラットフォームでも動かせるようにする際、移植という言葉を使う。「そのサイズですが、人間が扱い安い大きさの鶏の卵程度にしてはどうでしょうか」
グミにしては大きいが、
「それでいいと思う」
合併自体は態度保留なのに、その点については僕は賛成だ。
「色は光合成の都合上、透明ぽい緑になります。5ミリほどの厚さの柔らかい透明な皮の中に水が入っているようなイメージです。乾燥地の緑化のためには、この水が欠かせません」
「いくら水の最大保有量が多くても、砂漠だとひからびない?」
僕は聞いた。
「問題はその点です。A星には光はありますが、熱という概念がないのです。向こうの液体は蒸発しないので、こちらの水にそのまま置き換えるだけではダメなのです。そこで外部の水分を中に取り込むが、中の水分が外に逃げにくい構造にします。家の壁に張る防水シートで、湿気が一方向しか通らない商品のようなものです」
最近の木造住宅は、土壁時代の昔と違い、一旦壁の中に湿気が入り込むと抜けにくく、腐朽の原因となる。そこで、防湿シートを石膏ボードの内側に張ったり、断熱材の片側につけたりする。冬の場合はそれでいいが、夏になると逆転結露といって、家の外の湿気が壁の中に入ってくる。日本のほとんどの工務店はこの問題を軽視しているが、日本より湿度の低い米国の某巨大化学メーカーは、中の湿気を外に出すが、外の湿気が中に入らない(厳密には入りにくい)タイプの防水シートを開発し、ライバルメーカー(これまた巨大化学メーカー)の競合商品に対する優位を謳っている。
しかし、水が体から抜けないのもまずい。
「人が汗をかくように、水分を外に出すことで体温調整するんじゃないのか。水が抜けなければ、中の水がお湯になる」
僕がそう指摘すると、運営は対策を述べた。
「そこで、Low-Eガラスのように、ある程度の反射をすることで、できるだけ外部から熱をとりこまないようにします。緑色の曲面なので、鏡ほどではないですが、顔を映すこともできるでしょう」
Low-Eガラスとは最近の高断熱住宅に使われている、断熱性に優れたガラスだ。金属成分を含む膜をガラスに塗布したもので、光を反射するので、外から中が見えにくい。最近のほとんどの窓はガラスを複数枚使用していて、(といっても大半は二枚で、高級なものが三枚。四枚はかなり珍しい)、外側のガラスの内側に膜を塗りつけたものが遮熱タイプで、外から二枚目のガラスの外側に塗ったものが断熱タイプ。何故機能に違いがでるかと言うと、ガラスの間には空気やアルゴンガスがあって、膜が空気やガスの内側にあれば、反射された太陽光で暖まり、断熱になる。外側では暖まることがないので遮熱になる。
「よしそれでいこう」
清美がそう発言した。
僕はまだ結論を出さない。「動物のほうは? ウサギモドキという名前?」
「ハナミミナシにしようと思います。A星では音も匂いもないので、鼻と耳がないのです」
「生存競争の激しい地球で、そんな生き物がよくこれまで生き残れたな」
僕は嫌みを言った。
「外敵のいない環境でグミモドキを食べて生き延びたことにします」
「サイズは? ネコレベル? あるいはトラ並?」
「大きいとその分グミモドキが減ります。あまり小さすぎると、他の動物に食べられて絶滅しかねません」
「必要なのは植物のほうだけだろう? 別に絶滅してもいいんじゃないの?」
清美が言った。
「最初からいなくてもいいのかも」僕が言った。
「最初からそんな態度では、合併の承認が降りません。絶滅と簡単に言いますが、滅びるのは生物の体だけで、生命のほうは存在を続けます。転生先として同レベルの他の生き物を増やすか、他の宇宙に引き取ってもらわなくてはいけません」
その辺の事情は我々地上の存在にはよくわからない。
その時、僕の携帯電話が上着のポケットから、僕の体のラインに沿うようにはい上がってきて、耳元にたどり着いた。緊急性の高い通話の場合、そうするように設定できる。さすがアトランティス製。
しかし、相手は母親で、今日の夕食を用意するかどうかの質問だった。
「いつ帰るかわからないから、とりあえずキャンセル」
僕はそう言ったのに、
「じゃあ簡単なものだけ用意しとくから」
「余計なことはしなくてもいい」
そんな会話をしていると、前原が私に近づき、厳しい口調で何か言い、すぐに清美が訳した。
「その携帯、うちの会社が作ったものだ。まだこっちで販売してないのに何故持っている?」
「知り合いからもらった」
こう見えても地球全権大使だ。いろいろ伝手はある。
「帰ったらこのことは調査させてもらうからな。首を洗って待ってろ」
首を洗って待ってろ? 江戸時代の武士が切腹で首を切られるのを覚悟するところに由来する日本語特有の表現だ。
「アトランティスにそんな言い回しがあるはずはない。訳し方が変だ。本当は適当に作ってるんじゃないのか。」
僕は、清美に文句を言った。
前原の発言を清美が創作したという意味で言ったのだが、彼女が前原におかしな訳でそれを伝えたらしく、前原はさらに激しく怒った。
「適当に作っただと? 俺たちがこの携帯を開発するのにどれだけ苦労したのか、わかっているのか?」
清美は激しい口調をとらず、事務的に通訳をする。どこかロボットのようだ。
「そうじゃなくて……」
そうじゃなくてには、たしかに否定の意味合いがある。それを、単純なノーというような訳し方をされると、僕が携帯開発の苦労をわかっていないと発言したことになる。
気の短いアトランティス人は、急に後ろを向くと、階段を上がっていった。
僕も怒りが収まらない。
「邪魔者がいなくなった。さあ、続けよう」
今回のミーティングは、地球の全権大使と運営による、合併先の生物の地球仕様について話し合うことであって、友好協会代表がいる必要など最初からない。
ところが、清治は
「もう必要なことはすべて決まりましたので、これでミーティングはおひらきにします」と宣言した。
「すべて決まったって? まだ合併そのものがあやふやなのに」
「合併はすでに決定ずみです」
「ちょっと待った。全権大使の僕がまだ賛成していないぞ」
「私は地球の運営です。運営の過半数は合併に賛成です。ですが少数派のアトランティスグループが反対しているのと、非公式とはいえ全権大使に何も知らせないのはまずいので、こちらにお呼びしたまでのことです。もし全権大使であるあなたが徹底的に反対という立場なら、アトランティス側やキズキ様の手前、結論を出すのを引き延ばしたでしょうが、あなたにそのような様子は見られませんでした」
「たしかに、積極的に反対とはいえないな。温暖化を阻止する代わりのアイデアを出せと言われても困るし」
相手の正論に僕はすぐに折れた。だが、全権大使として知っておきたいことはまだある。
「いつどんな形で合併するんだ?」
「間もなく、六月の始めごろ、アマゾンの奥地で新種の植物と動物が見つかったと発表があります。その時点ですでに合併は完了しています」
「急だな。心の準備ができない」
「心の準備など必要ありません。人類のほとんどは、合併が行われたことを知ることはありません」
大陸出現という派手なパフォーマンスのあった前回と違い、今回は知らないうちに合併が済んでいて、そのことはごく一部の関係者しか知り得ない。マルチバース史上、初の無関係な宇宙同士の合併というのに。
「それからもうひとつ聞きたい」と僕は言った。
「なんでしょう?」
「彼女は、いつまで学校にいる?」
僕は清美のほうをみてそう言った。結論が出た以上、もう彼らが僕のいる街にいる必要はない。
「いざというときのために、当面は通うことになります」
いざというとき……失敗する可能性もあるということか?
「はい」
「それからもうひとつ質問?」
「どうぞ」
「君たち兄妹は例の喫茶店で生活していて、ミィーティングが終わればそちらに戻ると思われる」
「おっしゃる通りです」
「奇遇なことに僕と同方向に向かう。今回、交通費は支給されず、帰りのチケットはまだ購入していない」
「何がおっしゃりたいのですか?」
彼は、わかっているくせにそう聞いた。
「僕と一緒に帰らないかということだけど」
「お断りします」
彼は、はっきりそう言った。
全権大使の機嫌をとる必要がないのだろう。
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