第12話:魔族とは?

「今日もぬいぐるみを作ってるのか?」

「うん、今日はウサギさんだよ」


 蝋燭の小さな光を頼りに針を進めるディーノにリュスカが声をかける。するとすぐに温かな笑顔が返ってきた。

そんなディーノを見て、リュスカはふと浮かんだ疑問を口にする。


「なぁ、ちょっと聞いていいか?」

「うん、いいよ」

「ディーノ以外の魔族って、どんな奴なんだ?」

「ん? 突然どうしたの?」

「いや、俺さ、ディーノと会うまで魔族と会ったことなかったからどんな奴がいるとか全然知らなくて。だからこの国の人間と同じように、魔族は残酷で怖いって思ってたんだ。けど、ディーノ見てるとなんか違うなって」


 リュスカの疑問を聞いて指に挟んでいた縫い針を机に置いたディーノが、少し考える素振りを見せてからゆっくりと口を開いた。


「魔族も人間みたいに色々な人がいるよ。穏やかな性格の人もいれば、いつも怒ってる人もいる」

「じゃあ魔族も人間も同じってことか?」

「基本的なところは似てると思うよ。違うのは……もの凄く閉鎖的で保守的なところかな」

「あー……まぁ確かにライウェンは他国との交易とか、あまりやらないって聞くなぁ。でもどうして?」

「魔族は人間と違って子供が生まれにくいから、いつか種族が途絶えてしまうかもしれないって。そうならないために同族を守ろうって皆、必死になって頑張ってるんだ」


 魔族は同族同士であっても出生率が低い。そのせいでどんどん人口は減り、今では絶滅の危機も囁かれるほどまでになったという。そんな種の存続問題を解決せんと一時期は人間などの他族を迎えることを考え、試みたこともあったらしいが魔族は特殊な身体構造をしていることもあって残念ながら失敗に終わったという。


「それなのに僕は国のために何の役にも立てない落ちこぼれで……」


 話している途中で、ディーノの顔に影が落ちる。


「落ちこぼれ? 魔術ならたくさん使えるじゃないか」

「僕の国ではね、強い攻撃術を使えなきゃ一人前として認められないんだ。でも、僕、攻撃術が嫌いで……」


 確かにディーノは攻撃の術を自ら使いたがらないし、使っても暴走が激しい。しかし補助魔法の方なら自らの意志で使えているようだし、使える種類も多いから、それならそれでもいいとリュスカは思えてしまう。


「なぁ、ちなみにディーノは何で、攻撃術を使いたくないんだ?」

「魔族は生まれると同時に、精霊の守護を受けるんだけど、そのことは知ってる?」

「ああ、確か六大精霊とか言うやつだろ。火、水、地、風、光、闇……だっけ?」

「そう。魔族は必ずどれか一つ、多くても二つの守護を受けているんだ。でも僕は特異体質で、火、水、地、風の四つの守護を受けて生まれちゃったんだ」


 火、水、地、風といえば、自然界の四大精霊だ。その四精霊の力を使えるということは、かなりの素質を秘めた存在ということになる。


「それって、スゲーことじゃねーの?」

「全然凄くないよ。だって僕、少しだって精霊の力を制御できないんだから」

「ああ、それは……まぁ、確かに……」

「情けないよね……」

「でもさ、そういうのって自分が使いたいと思った術に使えばいいんじゃないか?」

「え?」

「だってさ、ディーノが嫌々術使ってたら、精霊だって気分悪いだろ? せっかく力貸して貰ってるなら、精霊にもちゃんと敬意を払ってやらねぇと」


 精霊に感情があるのか分からないが、それでも人と人とのように仲良くすれば、精霊だって嬉しく思うような気がしたのだ。


「びっくりした。最初から力を使わなくてもいいなんて言ってくれたの、リュスカが初めてだよ。それに精霊に敬意なんて、そういう考えも生まれて初めて聞いた!」

「お気楽な考えだって言いたいのか?」

「逆だよ。凄く新鮮。……うん、これからは精霊達に敬意を示しながら力を使わせて貰うことにするよ!」


 新しい発見に、子供のごとくワクワクした表情を浮かべる。そんな姿を見ていると、どうしても自分より三つも年上を相手にしているようには見えない。どうみても、ちょっとばかり先に育ちすぎてしまった弟、といった感じだ。


「マリクにもリュスカが言ったこと、教えてあげたいな。マリクはきっと良い考えだって喜んでくれるよ」

「ってか、ディーノって本当マリクのこと大好きだよな」


 この溢れんばかりの愛情表現を聞いていると、牢にいるマリクにも早く聞かせてやりたくなる。


「何だか、羨ましいな。ディーノにはマリクみたいな無二の親友がいてさ。俺、そういう奴いないから」

「レイナルドたちは友達じゃないの?」

「んー、どうだろうな。年や身分が違うから友達ってのとは少し違うんじゃないかな?」


 レイナルドなんか特にそうだ。母親と死に別れた後、色々あってボロボロになってた俺を拾ってくれたってこともあるから、友達っていうよりは恩人に近い。


「それに、ほら……俺、混血だし」

「そんなの関係ないよ!」


 言い終わった途端に、リュスカはディーノに抱きしめられる。


「うわっ、こら、急に抱きつくなって。また窒息しかけるだろ!」

「レイナルドも、アランも、ラッセルも、それに僕も皆、リュスカのこと友達だって思ってるよ。身分とか種族なんて関係ない。友達っていうのは、そういうものだよ。だから困ったことがあったら、必ず僕を頼ってね。僕はリュスカの友達として、何でもするよ!」

「お……おう……」


 あまりにも直球すぎる言葉に思わず照れくさくなってしまう。本当に、ディーノはどこまでも一直線だ。しかし、だからこそ心の中にストンと染み渡るように熱い感情が入ってくる。


 ーー何だか生まれて初めて「対等な」友達が出来たみたいだ。

 

 そんな擽ったさに、リュスカは目を細めて柔らかく笑った。




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