第13話:悪夢の宴
第四章
『そこ』は、まさに悪魔の宴だった。
光と闇がはっきりと分かれた世界の片方では貴族たちが豪勢な料理に舌鼓を打っているというのに、もう片方では絶望に染まった悲鳴が響きわたっている。
そう、ここは天国と地獄が同時に見える不思議な場所だ。
そんな世界のちょうど中間地点で立ち尽くしていると、不意に光の世界から複数の手が伸びてきて左右の腕を掴まれた。
『お前は、こちら側の人間だろう?』
やにわに問われた途端、胃が捻りあがったかのような激痛と衝撃に襲われた。
『っ! 違う! 私はそちら側の人間ではない!』
大きく首を横に振り、全身で拒絶しても複数の手は逃がしてくれない。
震えあがるほどの恐怖が瞬時に限界にまで湧き上がると、たちまち頭の中は酷い混乱で染まり上がった。
誰か、助けてくれ。
そう叫ぼうとした瞬間――――。
「オイ」
瞼の裏に、温かな色の光が映った。
目を開けると一際逞しく漢気に満ちた体躯の大男の、眉間に皺を寄せた鋭い双眸が一番に飛び込んでくる。
「ああ……シード、君か」
「人前であれだけ高尚な弁を振るう貴様が、夢ごときに魘されるとはな」
「……はぁ、どうとも言ってくれ。いくら私でも、寝ている時に見る夢ばかりはどうしようもできない」
衝撃的な夢のせいで荒くなってしまった息をなんとか整えながら身体を起こし、返事をかえす。
無様な姿を笑われることは別に悔しくない。本当に悔しかったのは、夢の中で負けてしまいそうになったことの方だ。
「どうしようもない、か。フンっ、つまらんな。忘れてるようならもう一度言っておくが、俺はつまらないことが大嫌いだ。貴様が俺に粗悪な快楽しか用意できないのなら、容赦なく斬り捨てるぞ」
眼の前の男が腰から剣を抜き、こちらに刃先を向ける。丸腰の人間に平気で剣を向ける男の非常識さには辟易したが、今夜ばかりはこの男に悪夢から助けられたのだから、これ以上の文句は言わない。
「寝首を掻かれないよう、十二分に気をつけておくよ。それより、そっちの方はどうなんだい? まさか人に圧をかけておきながら、自分は何もできていない、なんてことはないだろうね」
「貴様、自分が何を言っているのか分かってるのか?」
どうやら、男の気に触ったらしい。
「ははっ、愚問だったようだね」
今度こそ本気で斬りかかられないよう、寝台から降りて男の剣先の届かないバルコニーへと向かう。空を見上げると、上弦の月が夜空にひっそりと浮かんでいるのが見えた。
「あと少し。あと少しで――――」
全てが終わる。その時こそきっと、自分はあの夢に勝てているはずだ。
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