第2話:ウィルの計画

「姫様との婚約を取り止めさせたら良いのですのよね。でしたら、姫様に代わる、彼の好みをすべて兼ね合わせたような姫を登場させたらいいのです。どのみちギル王子は好色家と聞いていますから。」


ウィルは綺麗なサファイア色の瞳をしばたたかせながら、父に進言した。


「そうは言っても、そんなに上手くいくものかね? そもそもギル王子の女性に対する好みなんぞ、どうやって聞き出すのだ。」首を傾げてウーンと唸りながら父王は言う。


「王様、そこはこの交易国家の人脈を利用致しましょう。ギル王子様の側近と親しき商人に私どもの方で探りを入れてみますから。」そこで、すかさずアル宰相がこう言った。


「うーむ、他に穏便に済ます方法も、これまでも考えてきたけれども思いつかなかったしな。」と父はしぶしぶながらもこの計画を了承したようで、後は任せた、まずいことになったら早めに手を引くのだぞ。と言い残し去っていった。


「でも、好みは聞き出せたとして、私の身代わりになる人はどうするの。危ないじゃない。」と私はここにきてようやく発言する。


何しろ、あまりの突拍子のない考えに言葉を失っていたのだ。


「その点は大丈夫だよ。僕がその理想の女性になるからね。」とウィルは私の発言に堂々と答えた。隣でアル宰相もうんうん、と頷いている。


どうやらこの考えは、前から二人の間で温めてあったようだった。


「実は、ギル王子様の好みについても、ある程度は目星がついていてね。まず性格が大人しく控えめで従順な女性。見た目もそれを体現したかのような優し気な風貌を好むらしい。」とアル宰相はうきうきとした声で言う。


宰相はどうやらこの作戦にかなり乗り気のようだった。私はこの作戦が失敗するとギル王子と結婚し、大国の妃となることになる。


文字通りなら、玉の輿に乗ることになるのだが、自国と、そしてウィルと自分の関係を考えると気が気ではなかった。


「大丈夫、きっとこの作戦は成功して、その時には...。」そこまで言ってウィルは不安げにサファイア色の瞳を揺らしながら、ちらりと私の方を見る。


「その時は、私と結婚してね、ウィル。」この頃になると、ウィルへの気持ちをはっきりと自覚していた私はストレートにそう言った。


「もちろんだよ。アイリス。」彼はそう言うとチュッと私のほほに口付けた。


「まぁまぁ、お熱いことで。」傍にいたアル宰相は大げさに目を手で覆いながら茶化すようにそう言うのだった。

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