第1話:遅すぎる自覚
私は砂漠が広がる小さいけれども豊かな交易国、マリノネア王国の王女として生まれた。小さい頃から臣下の者とよく外で遊び、話す活発な少女だったそうだ。
特に宰相の息子、ウィルとはそれはそれは仲が良く、毎日彼と剣の稽古に励んでは、2人でよく騎士団長に鍛えられていた。
その甲斐あってか、私の剣の腕はすこぶる良く、一部ではマリノネアの剣姫と呼ばれている。
対してウィルの方は、そこまで剣の腕は上達しなかったものの、だがしかし、頭はよく切れたので、宰相の利発な一人息子として評判だった。
そんな私の穏やかな少女時代も、社交界デビューとともに幕を閉じる。
3つの海を統べる大国、ノロタイド王国の王家主催のパーティーに出席した私は、
(そこで実質社交界デビューを果たしたのだが)、
ノロタイド王国の次期当主、ギルに見初められ、婚約を結ぶこととなったからだ。
大国の王太子と私の婚約に、臣下達は騒いだが、現王と王妃である私の父と母はそこまで手放しには喜んでいなかった。
1つの理由としてはこの小国がいずれは、成り行きでノロタイド王国に飲み込まれてしまうのではないか、ということ。
2つめの理由は、私とウィルの関係を思ってのことだった。
このマリノネア王国は小さいながらも豊かな国、端的に言えば各国の交易ルートを抑えてかなり稼いでおりお金持ちの国だったため、喉から手が出るほどこの国を自国に取り込みたいという国がたくさんいた。
そのいった国々と上手く付き合いながらこれまで、この国は発展してきたのだ。
私はウィルと幼い頃からの遊び仲間だったが、私自身は当時、彼のことを男として意識したことはなかった。
しかし社交界デビューの時、ギルに言い寄られて初めて、私はこれまでウィルと成長したら結婚するんだ、とうすうす考えていた自分の気持ちに気づいたのだった。
そして、私の両親は私が気付くよりも早く、私の気持ちに気づいていたらしく、水面下では宰相夫妻とウィルと私の婚約について話し合っていたそうだ。
また、これらの事情に加えてギル自身も一部では不真面目な王子と評判だったことも、私の王と王妃が婚約にいい顔をしなかった一因となっている。
けれども、小国の姫が、大国の王子からの求婚を簡単に断ることができるはずもなく、私たちは婚約を結ぶこととなる。
騎士団長の鍛錬にも参加せず、私は遅すぎる自分の気持ちの自覚に落ち込んでいた。
その落ち込みようは、父王がなんとか気持ちを収めてくれるよう王子にお願いしようか、なんて言い出す始末であった。
さすがにそれは、争いを起こしかねないので、私は止めた。そんな時ウィルがこんなことを言ったのだ。
「姫様との婚約を取り止めさせたら良いのですよね。でしたら、姫様に代わる、彼の好みをすべて兼ね合わせたような姫を登場させたらいいのです。」
これからはじまるのは、王子に、私に対する婚約破棄をさせるまでの物語である。
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