第一部

記憶がないのに落ち込んでいないのがいいところなんです。

第1話 記憶がない男と村に恐怖を植えつける存在①

 男は目を覚ます。

「ここは……」

 男は辺りを見回して、窓に映る自身を見る。

「イケメンだ」

 男は自惚れる。

 切れ長の瞳に筋の通った鼻に血色のいい肌、確かに容姿が整った端整な顔立ちをしている。

 身長も高く立ち居振舞いも何処か優雅さがあり、モデルをやっていても可笑しくはなかった。

 自画自賛してしまう出で立ちが鏡の前にあったのだ。

「ここは、ってか、俺は誰だ」

 しかし、男には記憶、過去が無かった。

「まっ、なんとかなるか」

 記憶がないことで、慌てることはなかった。

「さて、もうひと眠りするか」

 それどころか、のんきにも再び眠ろうとしていた。

 しかし、扉が開きそれは出来なかった。

「目が覚めて良かった。道で倒れていた時には死んでいたのかと思ったのよ」

 可愛らしい女性だった。

「俺が倒れて?」

 イマイチピンときていないようだ。

 無理もない男に記憶がないからだ。

「私はヒナって言うの。あなたは?」

「ヒナ?」

 男は女性の名前を口にすると、急に痛みだし頭を抑えた。

『セキ。なに、やっているによ! 早く連れて行きなさいよ!』

『うるせぇな』

 気の強い女性の声と自信がそれに反発している声がした。

 誰だか分からないが、とても大事な存在の女性の声だ。

「ちょっと、大丈夫?」

 ヒナは心配して、男の側に立つ。

「セキ……」

「セキ?」

「多分、俺の名前だ。後はなにも分からない。どうして、俺がここにいるのか、なにも覚えていない」

「あなた、記憶が……」

「うん。さっぱりだ。俺は何故ここにいるんだ?」

 セキは問いかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る