第2話 記憶がない男と村に恐怖を植えつける存在②

「記憶がないだと」

 眉間にシワを寄せ男はセキを見る。

 スッとした出で立ちの男だ。

 セキとは違った感じの、いい男で、セキよりも渋みがあり、人望がありそうな真面目な男に見えた。

「そうなの。だから、トシさんお願いします。セキの記憶が戻るまで、ここで保護してくれませんか?」

 ヒナが頼む。

「しかし、ですね。そんなこと言っている場合ではないのは、貴女が一番よく知っているでしょう? 巫女の貴女が」

「それは分かってます。ですが、このままセキを保護しなければ、それこそ、ドラゴンにやられてしまいます」

「巫女? ドラゴン?」

 セキは聞く。

「なんだ。そんなことも忘れているのか」

「恥ずかしながら」

 セキはヘラヘラ笑う。

 記憶が無くても、分かっていることがあって、あまり物事を慎重に考えない人間なのは分かっていた。

 恐らく性格は記憶の有無関係ないようだ。

「はあ」

 トシは深いため息を吐く。

「このルシフと呼ばれる世界は国王と、国王を支える巫女がいます」

「あっ、教えてくれるんだ」

「置かれている状況が分からずヘラヘラ笑っているなら教えた方が早いでしょう」

 トシはセキを睨み付ける。

「あっ、そうですね」

「続けますよ。この世界は幾つもの色の名前の付いた国とそれを守護する巫女がいます。この国の名前は赤の国。ここを守護しているのはヒナさんになる」

「ヒナって凄い子だったんだね?」

「そんなことありません。私がいたから、ドラゴンを呼び込んだんです」

「そうだな。ドラゴンはこの国の王になる。王の候補は巫女が呼び込み、前の王を倒すと、王になることが出来るそれは人や魔物、ドラゴン、誰でもなれる」

 ヒナの顔色がどんどん悪くなっている。

「つまり、前王はドラゴンが倒したってことか?」

「その位は察することが出来るんだな。その通りだ。だから、今はドラゴンがこの国の王で、それが厄介だと言うことだ」

「何処が?」

「暴君だからだ。民が作りし物は破壊の限りを尽くし、民も食らう。この場所が破壊されないのは巫女がいるからで、それも時間の問題だ」

「民とは女の子もいるのか?」

「なんだ。その質問は?」

「本能が聞いているんだ」

「勿論、寧ろ多い」

「そりゃ、許せねー!」

 セキが怒りを顕にする。

「怒ったところで貴様には力はないだろう」

「そうなのか?」

「それも記憶が無いのか?」

「逆にピンポイントに記憶があったら可笑しくないか?」

「確かにな」

「で、力とは?」

「超能力と言うべきかな。世界は持つ者と持たざる者に別れている。持つ者は力をランク分けされており、最高はSランクになり、最も王に近いランクになる」

「ふうん。トシはあるのか?」

「トシさんだ。目上に対しての言葉も分からないのか」

 トシは30代前半でセキは20代後半であった。

 これもセキには記憶が無いので、正確な年齢は不明である。

「ええ、忘れました」

「次回から気をつけろ」

「へーい。それでトシさんは持っているのか?」

「俺は持たざる者だ。ちなみにお前はFランクだが、なにかしらあるみたいだぞ」

「なにかしらねぇ」

 セキは考える。

「なにか思い出した?」

 ヒナが心配そうな顔で見る。

「さっぱり、それより、俺なにか持っていたりしてないのか? 記憶に関することとか」

「それなんだが、手掛かりを探す以前の問題だ。お前全裸だった」

 ヒナの顔色がどんどん赤くなっていた。

「ヒナ、どうした?」

 それをセキが聞く。

「巫女様がお前を拾ったんだ」

「つまり、生まれた時の俺の姿を全部見たのか。なる程」

「なる程じゃない」

 トシが苛立つ。

「そっか、んじゃ、お詫びに結婚するか。俺はヒナが好きだし」

「け、結婚」

 ヒナの顔が爆発した。

「口を慎め!」

 トシが怒鳴った。

「えっ、なんで?」

「巫女は王に遣える者だ。お前がやすやすと手が出せる女性では無いんだ」

「そっか、残念だ」

 セキはがっかりする。

「まあ、記憶がない以上、何処へ行っても野垂れ死にするだけですから、いいでしょう。ドラゴンも暴れるとは思えないし」

「じゃあ」

 ヒナの顔が明るくなる。

「記憶が戻るまでです。ここで騎士団として、名前を置きましょう」

「トシさんありがとうございます」

「なあ、騎士って、なんだ?」

「そうでしたね。俺やここに住む者は王と巫女を守る守護者です。能力が高い騎士が五名と勇姿で籍を置いている村人が十数名程います」

「へー、そこに在籍するのか」

「そうです。ただ、在籍する以上、働かざる者食うべからずだ」

 トシはセキを更に鋭く睨んだ。

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