第3話
話が脱線しまくってるけど、実家の話をしようか。
わたしは一応生まれた街で職を得てる。勤め人よ。
ほんとは東京で働いてて海外赴任もあったりしたけど、親が難病になったんだよね。
難病ってわたしはいわゆるそれこそ小説で涙無くしては読めないような、それこそ映画ならば警察とかヤクザという設定にしないと銃やアクションをできないような感覚で、『感動をお約束します』っていうはかなさみたいなものをイメージしてたんだけど、病名を訊いて、どう捉えればいいのかかなり悩んだよ。
その、国指定の難病。
父親がこれまた、はあ、って初動を取ったんだけどね。
「母さんがぎっくり腰でな。土日に帰って来てくれないか」
「えー。月曜にプレゼンあるんだけど。兄さんは?」
「研究が忙しいそうだ」
「じゃあ、
「・・・・・・頼む」
まあ、比較衡量したらわたしの仕事の方が『軽い』って扱いになんのかな、兄貴は国の費用で研究してるし。
ん?でもこれって会社勤めのわたしに対する間接的な民業圧迫じゃ?
ま、いいか。
って感じで土曜の朝一番の飛行機で帰省してみたら。
「お父さん。なにこれ・・・・どこがぎっくり腰なのよ」
母親が家のベッドで苦悶してる。
「ちょっと、どうしたのお母さん?」
「ああ。夜中にトイレ行こうとしたら仰向けに転んじゃって」
バカ!
あ、父親がね。
でも、母親もそうかも。
「転倒じゃないの!?骨折してるかも!」
「あ、ああ。そうか」
「何言ってんのお父さん!病院に連れてかないと。車出してよ!」
「いや・・・・今日から自治会の慰労旅行なんだ」
「え?」
それがどうした。
「父さんは会長だからな。行かなきゃならん」
「でも、お母さんは?どうするの?」
「お前が連れてってくれ」
行くに決まってる。
でもそんなことが問題なんじゃない。
あなたは、なんなの。
しかも、自治会?
自治会長?
わたしの方が『軽い』って?
「救急車、呼ぶ」
「お、おい。それは・・・」
「何言ってんの!車もない、わたしにお母さんを負ぶって行けって言うの!?」
「だから、タクシーを」
わたしが119する前に、馴染みのタクシー会社にもう電話してた。
わたしが母親をタクシーで病院に連れてったらこれまた若い癖に長閑な救急の当直医で。坊や、だよね。
「えーとCT撮ったら腰椎の2番と3番が圧迫骨折ですね」
「えーと」
「コルセット渡しますから家で様子見てくださいねー」
「え!骨折、なんですよね?」
「折れたわけじゃないですから」
「でも、歩くのも無理っぽいですよ」
「ああ。なら携帯用のトイレ売ってますから帰りにどっかで買っていかれたら」
「え?」
「おむつ、っていう手もありますけどね」
「あ、あの!わたし月曜から仕事なんですよ!」
「はい」
「母に付き添うのは難しくて」
「え。でもあなたのお母さんでしょ?」
「も、もちろんそうですけど・・・」
「ご兄弟は?」
「兄が居ます」
「お兄さんは、仕事は?」
「医学部の大学院で・・・・・癌の治療薬の研究してます」
「あー、そりゃあご多忙でしょう。看病は無理ですね。あなたがなさるしかないですね」
カチン。
「医者って」
「はい?」
「医者って!そんなに偉いんですか!」
言っちまったよ。
「私は患者が早く良くなることを最善に考えてあなたにお話ししてるんですよ」
「えっ、はい・・・・」
「偉いかどうか分かりませんけど、職務上の責任を果たしたいんですがね」
屈服したさ。
それにわたしが立腹すべきは医者じゃない。
ああ・あ。
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